第五章 尋問タイム②
まあ、知りたい情報はだいたい手に入れた。
あとは、ダメ元で一応――
「最後の質問だ。ここに来る途中、長い黒髪を一つに束ねた、巫女服――白くて袖が大きな服に、裾の太い真っ赤なズボンを履いた十代半ばの女の子を見かけなかったか?」
「えっ……」
「いや、ここに来るまで、アキラくん以外に誰とも会ってないよ……」
だよな……
二人の答えを聞き、オレは目を伏せて軽く右手を上げた。
同時に、後ろに控えていた牛頭鬼と馬頭鬼が式札へと戻り、荒れ地を埋め尽くしていた亡者達が地中へと消えていった。
更に、その手を横に振ると二人を拘束していた鎖が伸びていく。
「あっ!?」
「えっ……」
二人の短い声と共に、その身体がゆっくりと降りていき、完全に地面へ仰向けになると鎖は光の粒子に代わり、静かに消滅していった。
戒めを解かれ、ペタリとお尻を地面に着けたまま、ゆっくりと上体を起こす二人。
捲れ下がったスカートが戻り、切り裂かれた服の隙間からは、今度こそ白く大きなオッパイが――って!? 髪の毛が邪魔っ!!
亡者達にあちこち切り裂かれた二人の服。
その隙間からは計四つの山々がしっかりと露出しているのにもかかわらず、その山頂部分だけは両サイドから伸びる長い髪によって隠れてしまっていたのだ。
クソッ!
この話しの創造主は、どうあっても、この二人の先端部分を見せるつもりはないらしい……
虚脱感にも似た感覚に全身の力が抜け、オレは二人と同じようにペタリと地面へ腰を下ろした。
しかし、破れた服の隙間からは、リサの白い下着とサーニャの大きな谷間はしっかりと確認出来る。これ以上を望むのは、贅沢というものなのだろう。
てゆうか、サーニャはやはりノーブラ派だったようだ。年をとってから泣きを見なければ良いが……
そんなどうでもいいような事を、眉を顰め真剣に考え込む思春期真っ盛りなオレ。
そして、そんなオレの不機嫌そうな様子に、目の前の美女達はオロオロと落ち着かずにいた。
オラはせめてもと、リサのブラチラとサーニャの大きな谷間を堪能し、網膜へ焼き付け、脳内HDにある長期記憶フォルダへ保存しつつ、二人へと声をかける。
「ありがと、色々聞けて参考になったわ。約束通り見逃すから、もう自由にしていいよ」
「えっ……?」
「あれ……?」
しかし、約束守るというオレに対して、キョトンとした顔で困惑する二人。
そして、そんな二人の対応に、オレの方もキョトンと首を傾げる。
「ん? なに?」
「えっ、いえ……まあ……ねぇ」
「え~と……何もしないのかなって……?」
『何も――』って、何を?
二人の要領を得ない受け答えに、更に眉を顰めるオレ。
「いや、だからさ……アキラくん、ずっと私達の胸ばかり見てたし――というか、今も見てるし……」
「そういう事も、するんだろうなぁ、って思ってたから……てゆうか、この状況で手を出されずに解放されても、何か裏があるんじゃないかって不安だし」
「そうね、逆に手を出してくれた方が、まだ安心出来るかも……」
なるほど。『何も』って、そういう事ね。
とはいえ……
「いや、二人共。オレはリックを――仲間だった奴を殺した男だぞ」
オレは、先程まであのイケメンがいた場所――骨まで食い尽くされ、生々しい血の跡だけが残る場所に目を向けた。
もしかしたら、この二人のどちらかと恋人同士だったかも知れない剣士――いや、顔だけ見ればかなりのイケメンだ。両方と恋人だった可能もある。
そしてオレは、そんなリックを殺した男。
普通、そんな男に犯されそうになったら、必死に抵抗するもんじゃないのか?
それが、何でバッチコイ状態なんだよ?
「まあ、リックとは仕事上の付き合いだし、酔った勢いで何度か寝た事はあるけど、別に好きでも何でもなかったから………………それより、アキラくんを誑し込んだ方が、お金になりそうだし(ボソッ)」
「まあ、顔は良かったけど、性格は悪かったしね。なにより、金遣いが荒い上、アッチの方は下手クソだったし………………それに、あんな奴よりアキラの女になった方がいい思い出来そうだからね(ボソッ)」
女って怖っ! そして爛れ過ぎっ!!
サーニャはともかく、リサなど顔だけは――いや、顔と下着は清楚系なのに。
てゆうか、目の前で仲間を殺され、自身も殺されかけて失禁するほど怯えていたのに、もう腹黒い未来設計を立ててるとか……
まあ、普通の人間には聞き取れない程の小さな声だったし、本人達も聞かれたなどと思っていないのだろう。
しかし、腹黒女達よ。暗殺者という仕事柄、聴力を上げる訓練を積んだオレの耳には、その呟きがハッキリと聞こえてしまっているのだぞ。
そこいら辺に掃いて捨てるほどゴロゴロと転がっている、難聴系鈍感主人公と一緒にされては困るのだよ。
とは言え、いくら腹は黒くてもオッパイに罪はない。思春期男子としては、その髪の毛の下に隠された白く柔らかそうな四つの大きい膨らみに思わず手を伸ばしてしまいそうではある。
が、しかし……
先程の腹黒い呟きとは別に、オレの地獄耳はコチラへと向かってくる集団の足音を捉えているのだ。
そして、その集団というものに、ある程度の心当たりがあるオレはとしては、そんな事をしている現場を目撃される訳にはいかないのだよ。
瞳を潤ませ、妖艶な笑みを浮かべる二人……
そんな二人にオレはため息をつき、右手を懐へと入れた。
「あいにくだけど、誑し込まれる気もアンタらの男になる気もないから……」
「えっ!?」
「あっ……」
聞かれていない思っていた言葉が聞かれていたと知り、巨乳美女達の妖艶な笑みは、バツの悪そうな苦笑いへと変わっていった。
オレはダメ押しとばかりに、懐へ入れた手で呪符を取り出し二人に見せつける。
「それでも何かして欲しいなら、もう一度亡者達呼び出して相手をさせようか……?」
「ひっ!?」
「ごめんないっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!!」
オレの口角を上げた黒い笑みに、顔を青ざめさせて身を震わせる二人。
そのまま両腕で胸を抱き、その身を隠すように立ち上がると、脱兎の如く逃げ出していった。
「あっ! おい、そっちに行くと……」
森に向かって走り去るお尻――ではなく、背中に向けて声をかけるオレ。しかし、残念ながらその声は届く事なく、二人の背中は闇の中に消えてしまった。
まっ、いいか。オレが困るような事じゃないし。
さて、遠くから聞こえて来る集団の足音は到着までもう少し掛かりそうだし、ちょっと情報を整理してみるか。
まず、ここが異世界と言う事は間違いないし、マナの濃い世界と言うのも本当のようだ。
獄卒という中級レベルの鬼を二匹も使役した上、霊力を物質化して鎖を出したというのに霊力の減少を殆ど感じない。
いや、減少はしてるのだろうけど、減った先から回復してるのだ。
そして、やはり明那も、自称神様の言う通り近くにはいないようである。
ここは、あの自称神様の、
『妹さんの方は、君よりもずっと安全な場所へ送り届けるから安心してくれいいよ』
という言葉を信じるしかあるまい。
なにより、明那も土御門の人間。そう簡単にどうこうされたりはしないだろう。むしろ、やり過ぎてしまわないかの方が心配だ。
まっ、リックをあっさり殺したオレが言える事じゃないだろうけど。
次に、勇者と聖剣の関係だけど――
聖剣は王国が管理していて、その聖剣を抜いた者が王国から勇者として認定される。
つまり、勇者になれば王国が後ろ盾になるという事だろうし、勇者なら王国に対しての発言権もあるのだろう。
戦争の回避と魔王復活の阻止という目的の為なら、確かに勇者になるというのが一番有効だ。
そして、その道筋は整えておくと言っていた自称神様――
一見すると、ここまで案内してくれた暁の輪舞達との出会いは必然に見える。ただ、どうしても腑に落ちない点もあった。
仮に、今から洞窟に潜り、聖剣を抜いたとして、オレは勇者として認められるだろうか……?
まあ、おそらく認められないだろうな。
そもそも、聖剣は王国の管理下にあり、聖剣の儀とやらは王家に認められないと受ける事が出来ない。
つまり、王家の人間が立ち会い、その元に行われるという事なのだろう。
自称神様の道筋を整えておくという言葉を信じるなら、コチラに向かっている集団とは王家の人間、もしくはその関係者である可能性が高い。
しかし、そう考えるとリック達との出会いに疑問が残る。
その直後に王家の関係者と出会えるというのであれば、リック達から得られた情報など、そちらからでも得られる情報ばかり。
そう、暁の輪舞との出会いには、パンモロやブラチラと言った読者サービス以外の必要性が存在しないのだ。
まあ、それも大切な要素ではあるんだけど。
「ったく……あの自称神様は、何を考えるんだか……」
と、夜空に浮かぶ月を見上げながら、そんな愚痴をポロリとこぼすオレの前に、森の中から甲冑姿の一団が現れたのだった。