第五章 尋問タイム①
前に出るオレと入れ替わりに、お預けをくらって若干不満そうに後ろへと下がる亡者達。
その様子に安堵して良いのか、それとも更に酷い目に会わされるのか判断出来ず、二人は涙に汚れた顔に困惑の色を見せている。
「じ、尋問……ですか?」
怯え切り、口調まで敬語に変わってしまっているサーニャ。
正に、手首がねじ切れんばかりの手のひら返しである。
オレは軽く肩を竦めると、逆さ吊りの二人へ視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「そう、尋問。まだ、聖剣について色々と聞きたい事があるからな。もし、オレにとって有益な情報が提供出来れば見逃してやってもいい。ただ、この期に及んで、まだ騙そうとしたら――」
一度そこで言葉を区切ると、オレはまだ亡者に食われ続けているリックと後ろへ下がった亡者へ順番に目をやった。
仲間を眉一つ動かさずに殺し、更には自分達も亡者に凌辱され殺されかけたのだ。当然、凄惨な死がリアルにイメージ出来ているはず。
もし、この状況でまだ嘘がつけるのなら、逆にたいしたモノ。小悪党から大悪党に格上げしてもよい。
しかし、提示された希望に縋り、目を輝かせるサラとサーニャ。大悪党への道は遠そうだ。
「話すっ、話しますっ!」
「何でも聞いて下さいっ!」
何でもとなっ!?
「じゃあ、とりあえず、スリーサイ――じゃなくて」
スリーサイ……? と、首を傾げる二人からそっと視線を逸らし、オレは『コホン』と一つ咳払いをして話を仕切り直す。
「まず、確認なんだが――お前達、本当に冒険者か?」
「えっ……いや……じ、実は『元』冒険者です」
「盗掘や盗賊行為、あと新人冒険者を騙して囮にしたりしてたのがバレて、除名されました……」
盗掘に盗賊ねぇ……
期待を裏切らない小悪党っぷりだな。
「で? その盗賊崩れが、どうやって聖剣を手に入れるつもりだったんだ? いや、そもそも、本当に聖剣がこんなトコにあるのか?」
魔剣ならまだしも、地獄の亡者に守られる聖剣って、どんな剣なんだよ?
「それは間違いないです。ただ、コチラは裏口ですけど」
「裏口……?」
「はい。聖剣は王国の管理下にあって、正面の入り口は王国の警備隊に守られているのです」
「元々は、裏口にも警備隊を配置するはずだったのですが、ガーディアンが警備隊にも見境なく襲って来るので断念したそうです」
「そもそも、聖剣の儀――正式に聖剣を抜く儀式は王家に認められた者でないと挑む事は出来ません。ただ、聖剣が刺さっているのは石の台座なので、そちらを壊せば入手自体は出来るだろうととも言われています」
「ですので、盗賊団なとが幾度となく裏口からの侵入を試みているそうですが、未だ辿り着いた者はいないそうです」
「そんな事から、民衆のあいだではコチラが正門で、このガーディアン達は聖剣が与えた試練。ここを突破出来た者でないと、聖剣の主として認められないのでは? などという話も出ているほどです」
「なにより――――」
よほど助かりたいのだろう。まだ聞いてないような事まで、スラスラ、スラスラとよく話す二人。
まあ、おかげでだいたいの事は理解出来た。
しかし……
「なあ、二人とも。敬語はいらんから、普通に話していいぞ」
「よ、よろしいのですか……?」
「ああ。堅苦しいのは好きじゃない」
てゆうか、この二人に『ですます調』は、違和感が強すぎる。
なにより、二人して同じ口調で話されると、どちらが喋っているのかが読者様に分かりにくい。
「はい、分かりまし――いえ、分かったわ」
神妙な顔で頷く二人を確認してから、一度立ち上がるオレ。
そして、ちょうど目の高さにある丸出しになったパンツをガン見――もとい。まだ怯えの色が浮かぶ二人の顔を見下ろし、質問を続けていく。
「それで? 何でお前達は、その聖剣の祀られいる洞窟にいる? 四百年のあいだ、誰にも辿り着けなかった洞窟にお前達がたどり着けるとは思えんのだが」
「そ、それは……夢を見のよ……三人揃って、全く同じ夢を」
「その夢に創造主を名乗る少年が出て来て、その子がガーディアンに襲われない方法を教えてくれたのさ」
創造主ねぇ……
やっぱり、自称神様の仕込みか。
オレは、その言葉に眉を顰めながらも、二人の話しに黙って耳を傾けた。
まあ、要約するとこんな感じである。
亡者の群れさえ突破出来れば、入手自体は難しくない聖剣。
そして、夢枕に立った創造主は、三人へ亡者に襲われない方法――というか、襲われないアイテムをくれると言ったそうだ。
そして目を覚ますと、枕元に夢で見た物と全く同じ腕輪が置いてあったという。
最初は半信半疑だったけど、一応確認というノリで昨日この場所を訪れた三人。
そして、罠自体は発動するが、創造主の言う通り亡者達が襲って来る事はなかったし、その様子は自分達の事が見えていないようだったらしい。
おそらくは、認識を阻害するような物なのだろう。
ただ、それも亡者限定の物であり、オレや亡者を支配している獄卒の牛頭鬼、馬頭鬼には効果がない物だ。
なので今回に限って言えば、オレや獄卒の目を通して亡者達に認識されてしまったのだと思う。
更にもう一つ問題なのが、亡者に触れてしまうとその効果が切れてしまうらしい。
辺り一面を埋め尽し、不規則に動く亡者達。一度も亡者に触れる事なく洞窟の入り口に辿り着くのは、かなり困難である。
で、そこで考えたのが、今回の囮作戦だそうだ。
囮役として奴隷商人から奴隷を買い、意気揚々と洞窟へ向かっていた暁の輪舞ご一行様。
ただ、その途中で大型のモンスターに襲われ、逃げ遅れた奴隷が殺されてしまったらしい。
そして、囮役がいなくなり途方に暮れていたところ、森の中で偶然オレと出会ったのだった。
そこで急遽オレを囮役にしようと思い付いついた結果、逆さ吊りでパンツ丸出し状態になっている今に至る――
と言うわけである。
話を聞くと、あの自称神様に騙され、良いように利用されただけっぽいな。
とはいえ、神様に見放されるくらいだ。盗賊や盗掘、そして奴隷や新人冒険者を捨て駒にする以外にも色々やらかしているんだろう。
そう考えると、同情する気は起きない。
いや、そもそもオレは、コイツらの生死など興味はないのだ。
それに、罠にハメられたと言ってもこの程度の罠、オレにとっては窪みに足を取られ蹴躓いた程度の罠であり、貰った情報量を考えれば完全にプラスである。
「ど、どうかしら……?」
「役に立ったかい……?」
話しを聞き、少し難しい顔で考え込んでいたオレに、不安そうな表情で声をかける二人。