第四章 罠にハマったのは? ②
「え……?」
先程までオレを守るように囲んでいた暁の輪舞達。
しかし、オレが身構えると同時に、まるで示し合わせたかのように後ろへと跳び、一斉にオレから距離を取った。
荒れ地のちょうど真ん中辺りで、ポツンと取り残されるオレ。
「どういうつもりだ……?」
辺りを警戒しながら、オレは横目にリック達の方へと視線を向けた。
荒れ地の入り口付近に立つ、背の高い枯れ木の下。先程までの爽やかイケメンスマイルから一転、下卑た笑みを浮かべているリック……
そして、そんなリックに侍るように寄り添うリサとサーニャが、歪んだ黒い笑みを浮かべながら口を開いた。
「異国の沈没した船から漂着した生き残りねぇ――異国の話というのもお金になりそうだけど、聖剣ほどじゃないわよね?」
「ああっ。聖剣を手に入れヤミルートで捌けば、贅沢しながら一生遊んで暮らせるだけの金が手に入るさ」
聖剣を手に入る……?
仮にも四百年抜けなかった剣だろ? こんな小悪党どもに抜けるとは思えんが……
そんな疑問を浮かべながら、右手に持つ小枝を三本に割り、軽く握った各指の間に挟んで霊力を通す。
簡易な棒手裏剣の代わりだけど、飛び道具が全くないよりはマシだろう。
「ククク……せっかく生命を拾ったところ申し訳ないけど、キミには守護者達を引き付けるオトリになってもらうよ、アキラッ!!」
リックが前に一歩踏み出し、そう言い放つと、それがまるでトリガーであったかのように、魔力の溢れた地面から複数の人影が這い出て来た。
いや、複数なってモノじゃない。辺りを埋め尽くさんばかり数だ。
って、こんなのがガーディアンって……
この先にあるのは、実は聖剣じゃなくて魔剣じゃないのか?
そう、現れたのは確かに人影ではある。
しかし、それは人の形状をした人ならざる者であり、かつては人と呼ばれていた者達――妖かしと化し、死してなお動き続ける死霊達だ。
ざっと見で、百を超える死霊達の視線がオレの方へと向けられる。そして、どういう仕組みなのかは知らないけど、リック達のすぐ近くにいる死霊ですら、そちらをスルーしてオレをターゲットと認識したようだった。
罠の可能性は考慮していたけど、この数はちょっと想定外だ……
オレは手にしていた小枝を後方へ投げ捨てると、懐から呪符をもう一枚取り出して、両手にか――
「くっ!?」
正に、構えたようとした直後。
四方を取り囲んでいた死霊達が、一斉に飛びかかって来た。
百を超える死霊がオレのいる一点に集中し、折り重なり合い、あっという間に死霊の山が出来上がる。
低くくぐもった呻き声を発しながら、前の者を押し退け、押し潰し合い、中心にいるオレに向けて進もうとする死霊達……
「ここのガーディアンは人を喰らうと聞いていたけど、本当のようだな」
「しかもこの様子じゃ、骨どころか髪の毛一本残りそうにないわね。フフフ……」
リックの言葉に、リサが白い修道服とは対照的な黒く愉悦のこもった笑みを見せる。
どうやら、一番優しそうに見えたリサが、実は一番腹黒かったようだ。
「でも、結構可愛い顔してたし、ちょっとつまみ食いしたかったなぁ」
「そう? 私はタイプじゃなかったわね」
「でも、私達の胸を物欲しそうにチラチラ見てた、あの目。アレはまだ女を知らない目よ。あんな子をベッドでイジメたら、どんな声で泣いてくれるのか? って考えただけでゾクゾクするわ」
「相変わらずの初物好きね、アナタ。でも、私はあのスケベそうな目に、虫唾が走ったわよ」
む、虫唾って……
一番打ち解けた感じのしていたリサに、実は一番嫌われていたようだ……(泣)
「そんな事より、今の内に先を急ぐぞ。聖剣さえ手に入れれば、大金持ちだ。好きなだけオトコ買って、イジメてやれ」
「そうね、そうするわ――って、えっ!?」
荒れ地を埋め尽くしていた死霊。それが一箇所に集まったおかげで、洞窟の入り口までの道が開けた。
一見すると、洞窟の元へ向かう障害はなくなった様に見えたが……
「な、なんだ、コレは……?」
「あ、足が動かない?」
「いったいどうなってるのさっ!?」
洞窟へ向かおうとするリック達。
しかし、その足が――正確には左足が、まるで大地に貼り付いたかの様に動かなくなっていたのだ。
「おいおい……もう少し、ゆっくりしていけよ。パーティーはこれからだぞ」
慌てふためいていた三人組が、死霊達で出来た山の中から発せられたオレの声にピタリと動きを止め、まるで幽霊でも見るような眼を向けてくる。
そして、その視線の先。
まるで氷の山が溶け出す様に折り重なった死霊達が崩れていき、円を描く様に広がっていく。
「なっ!?」
「バ、バカな……」
「あ、あ……あり得ない……でしょう……?」
言葉を詰まらせ、驚愕に目を見開く暁の輪舞達。
そう、彼等の眼前に広がっていたなは、まさしく彼等にとって、あり得ない光景――
それは、死霊達の中心に立つオレと、その背後へ控えるように立つ牛の頭、馬の頭を持つ二匹の鬼。
悠然と立つオレと2メートルを超える巨体の鬼達に対して、彼等がガーディアンと呼んでいた死霊達が揃って両膝を着き、平服するように頭を下げているのだ。
絵面的には印籠を突き出す助さん格さんを従える、水戸のご老公様といった感じである。
「な、なぜだ……? なぜ、生きている……?」
「そんな事より、足が動かないのもアナタの仕業なのっ!?」
「それに、なんで異国人のアナタに、ガーディアンが従ってるのさっ!?」
矢継ぎ早に、質問をぶつけてくる暁の輪舞御一行様。
いや、出来れば質問は挙手をして、一人ずつするようにお願いしたい。