第四章 罠にハマったのは? ①
森の中の街道を進む暁の輪舞御一行と、そこへオマケのように着いて行くオレ。
街灯はないけど、彼等の持つランタンのおかげで明るさ的には問題ない。
まあ、ランタンと言ってもオイル式ではなく、ガラスのケースに入っているのは蝋燭であり、ランタン型の提灯といった物だ。
先程の大絶叫から一転。静まり返った街道を、世間話をしながら進むオレ達。
ちなみに先程、彼等が何故あれほどに驚いていたのか?
話を聞いてみると、この世界では航海技術があまり発展しておらず、大陸の外がどうなっているのか――いや、人間が居るのかすら分かっていないらしい。
大陸に住む人間からすれば、外の人間なんていうのは、さながら地球外生命体みたいなものなのだろう。
それならばと、何でこんな夜中に、そして何で森の中にいたのかという三人の疑問に対し、オレは海を航行中に嵐で船が沈没し、この大陸に流れ着いた。と説明しみてた。
幸いにして近くに海岸があるらしく、あっさりとオレの作り話に納得してくれた暁の輪舞さん達。
逆にオレの方からも、色々とこの大陸の現状なんかを質問させてもらったけど、得られた情報のほとんどがあの自称神様に聞いていた事と同じ内容だった。
結局分かったのが、あれが夢ではなかったという事だ。
ならばやる事は、このウェーテリード王国で勇者復活を大々的にアピールし、魔族の国に攻め込んでいるノーザライト王国へ背後からプレッシャーをかける事。
あの自称神様の言う『君が勇者になるべく行動していれば必ず再会できる』という言葉を信じるなら、それで明那と再会出来るはずだ。
まあ、勇者なんてガラじゃないけど、こればかりは仕方がない。
あとは、どうやって勇者になるかだけど――
「この先です。この先に聖剣があるんですよ」
不意に森が開けた所で、先頭を歩いていたリックが相変わらずの爽やか笑顔で振り返った。
そう、勇者とは聖剣に選ばれるのである。
そして、この先には聖剣が祀られている洞窟があるらしい。更に、その聖剣は台座に深々と突き刺さっており、聖剣に勇者と認められた者でないと決して台座から抜けないそうだ。
まあ、かれこれ四百年ほど、誰一人その聖剣を抜いた奴はいないそうだけど。
てゆうか、どっかで聞いた設定だな、オイ。
ちなみに、暁の輪舞さん達は、その聖剣が祀られている洞窟の近くに新種の魔物が出るという話があり、ギルドの依頼で調査に行く途中だったとの事だけど……
これは多分、『選定を受けるまでの道筋は整えておく』と言っていた、あの自称神様による仕込みなのだろう。
そういう意味では、この三人と出会ったのは必然であったと言えよう。
ただ、何であの自称神様が、この三人を選んだのかというのは気になる所だが……
オレは、前方のイケメンと左右に立つ美女へ順番に目をやり、内心でため息をついた。
爽やかスマイルを浮かべながら先頭を歩くリックと、左隣には柔らかい微笑みを見せるサーニャ。
そして右隣には、
「付き合わせてしまって、ごめんなさいね。本当なら、すぐにでも街に送ってあげたいのけど……」
と、少し困り顔のリサ。
一見、三角形の中央にオレを置き、守ってくれているような配置ではあるけど、見ようによっては逃さないように囲んでいるようでもある。
前を歩くイケメンの背中に軽く肩を竦め、歩くたびに上下に揺れるサーニャの柔らかそうな胸をチラ見してから、オレは辺りを見回した。
って、おいおい……
ホントにこんなトコに聖剣なんてあるのかよ……?
森が開け先で姿を現したのは、月明かりに照らされた少々不気味な感じのする荒れ地。そして、その先には切り立った崖があり、小さな洞窟も見て取れる。
先程までの青々とした森とは一転。ゴツゴツとした石が剥き出しとなった地面には草一本生えておらず、枯れた木がポツンポツンと数本生えているだけだった。
しかも、澱んだ瘴気が満ちていて空気も濁っている。
とてもじゃないけど、聖なる物を祀っている場所には思えないのだが……
オレは訝しげに眉を顰め、そして目の保養とばかりに横目でリサの胸に目を向ける。
が、しかし……
白いシスター服に包まれた立派な膨らみの少し上。薄く口紅の塗られた艶っぽい唇が不自然に歪み、不敵な笑みを浮かべているのが視界の端を掠めた。
そして次の瞬間っ! 足元から強大な魔力が大量に溢れ出し始める。
トラップか? まあ、予想はしていたけど……さて、鬼が出るか蛇がでるか?
オレは懐から呪符と一緒に、先程拾った小枝を取り出し身構える。