プロローグ
「好きです……先輩……」
洋風な造りの白い校舎に挟まれた中庭。
花壇には色とりどりの花が咲き誇り、ゆったりとした春風にその身を揺らしていた。
ウェーテリード騎士学園――
大陸の西側に位置するウェーテリード王国の王都に位置し、国内最大にして最高峰の騎士を育成する学校であり、オレ、土御門明羅の通う学園である。
学園生の大半が貴族の子女という事のもあってか、中庭にまでもしっかりと手入れが行き届いており、綺麗に植えられた草花の香りが辺りを包み込んでいる。
「初めて会った日から、ずっと先輩の事を想っていました……」
そんな中庭でオレの前に立っているのは、真新しい制服に身を包んだ少女。
フワリと吹いたそよ風に長い髪がなびき、花の香りと共に品の良い香水の香りを届けて来る。
若干、幼さの残る顔立ち。そして、オレを先輩と呼んでいるところを見ると、今年入った新入生なのだろう。
女生徒は頬を桜色に染めながら、潤んだ瞳を真っ直ぐにコチラへと向けていた。
春の日を受けて、キラキラと輝くブロンドの長い髪と白い肌。
そして、小柄ながらもメリハリの利いた身体のライン。なにより制服の下に隠された膨らみは推定でFカップ……
分類するなら、間違いなく美少女のカテゴリーへと入るであろう後輩の女生徒。
現在オレは、そんな美少女から告白を受けているのだ。
花の香り包まれ、頬を染めたFカップの制服美少女から先輩呼びでされる告白……
一生に一度あるかどうかという、思春期男子が憧れるシチュエーションではあるとは思う。
しかし……しかしだ。
オレはそのシチュエーションにげんなりとし、内心でため息をついていた。
一応、誤解のないように断っておくけど、別に同性しか愛せないだとか、幼女しか愛せないだとか、還暦過ぎのマダムしか愛せないだとか、そういった特殊な性癖がオレにある訳ではない。
オレ自身は極々ノーマルにして、健全な思春期男子である。
では、なぜ美少女の告白にげんなりしているのか? それは、このあとに続くセリフが予想出来ているからなのだ。
そう、うんざりする程に聞き飽きたセリフを……
「どうか私と、結婚を前提にお付き合いし――」
「ごめんなさい」
予想通りに出て来たセリフに対し、オレは被り気味に頭を下げ、クルリと踵を返した。
正に予定調和。
オレがこの学園に入学して早一年。これまでに、何度となく繰り返して来た展開だ。
「えっ? あ、あのっ、ちょっまっ!? べ、べべ、別に婿入りして欲しいとか言いませんよっ。私が嫁に参りますし。何でしたら、わたくし側室でも結構です!」
げんなりと肩を落として歩くオレの背中へ向けて声を上げる、名も知らぬ後輩ちゃん――
いや、名前は貰った手紙に書いてあった様な気もするけど……何って言ったっけ? もう忘れた。
段々と遠ざかる後輩ちゃんの声に、深くため息をつくオレ。
はぁ……とっとと学食行って、メシ食おう。
「分かりましたわっ! せめて子供っ! 子供だけでいいので、私に産ませて下さいませぇぇぇ~~っ!!」