エピローグ 02
「それなり腕の立つ女性冒険者が二人ほどいるのですが、雇うつもりはございませんか?」
へっ……?
一瞬、タマモちゃんの言葉の意味が分からずに、呆けた様な顔を見せる私――
いや、咄嗟に意味がわからなかったのは、正面の二人も同じ様だ。戸惑いと驚きの入り混じった表情を浮かべ、言葉を失っている王女殿下と女騎士さま――
って!? ちょっと、タマモちゃんっ!? いきなりナニ言ってんのっ!?
声に出さず、頭の中でタマモちゃんを問い詰める私。タマモちゃんの事だっ、どうせ私の頭の中を読んでるだろうし――
『そう、がなり立てるな……念話とはいえ、頭に響くわ……』
案の定である。
で、どういうつもり? 私達は、タマモちゃんの魔力を回復させる手段を探すんじゃなかったの?
『どうもこうも――目的はあっても、行き先の定まらん旅じゃ。それに、何をするにしてもワシらだけでは、まずは金子を稼がねばならん。なれば、金子の心配のない此奴らに着いて行き、その先で手がかりを探すのが効率的であろう?』
た、確かにそうかもしれないけど……
『それに聞くところによれば、天然小娘達の目的地は魔物の国なのであろう? 魔物の国を目指すのであれば、魔力回復の手がかりを見つけやすそうではないか』
で、でも……私達の都合に、クリスちゃんを巻き込むなんて……
『巻き込むつもりなどないわ。それに、貰った報酬分はキッチリと身を守ってもやるが、その合間に手がかりを探すくらいの自由はあろうよ』
ううっ……………………
『カズサ。ワタシも玉藻前の意見に賛成です。効率を考えれば、それが一番でしょう』
お、思金までもか……
正直、この二人を相手にした論戦で、私に勝てる見込みなどあるはずもなし……
分かったよっ、もうっ!! その代わり危険な事には、この二人を絶対巻き込まないでよっ!!
『分かっておる。というより、下手に巻き込んでも足手纏いなるだけじゃ』
足手纏いって……口が悪いなぁ、もう……
そんな底意地の悪さを噫気にも出さず、クリスちゃん達に向けて上品な笑みを見せるタマモちゃん。
「いかがでしょう、クリスさん?」
「えっ!? こ、こちらと致しましては、願ったり叶ったりですが……よろしいのですか?」
「はい。まあ、一人は冒険者試験で落第する様な粗忽者ではありますが、それでもよろしければ」
ひと言多いよ、タマモちゃんっ!
「そんなっ! カズサさんも、Sランク冒険者の資質は充分過ぎるほどお持ちですわ」
そうだっ! もっと言ってやれ、クリスちゃん。そして、もっと私を褒めろっ! 私は褒めて伸びるタイプの人間だっ!!
『いえ、カズサは褒めればその分、増長するタイプの典型です』
アンタもひと言多いよ、思金っ!!
「それに今日、もし冒険者の昇進試験が行われていたら、カズサ殿もきっと合格していたはずです」
「その通りですわ。それも含めて、なんともお詫びしてよいやら……」
あぁ……またクリスちゃんが、ネガティブモードに入ってしまった……
そう、冒険者試験は、一昨日、昨日、そして今日の三日間の予定だった。
とはいえ、領主さまが電撃逮捕されたのだ。
当然にして、今日の試験は中止と相成ったわけである。
「ま、まあ、クリスちゃん……そんな落ち込まないで。ねっ? それに私まだ、どの職業で受けるか迷ってるし……」
てか、なんで試験が受けられなかった私が慰めてるの?
「クラス……ですか……?」
「そう。どうも、私にしっくりと来る職業がなくてね。まあ、魔法少女なんてぇのがあれば、良かったんだけど」
『もしくは、自宅警備員とかのう』
『ゲーム廃人というも捨て難いですけど』
しゃらっぴっ! てか、自宅警備でお金が貰えるのなら、真っ先に飛び付いてるよ! Sランク飛び越えて、すでにSSSランクのセコム要らずだよ、あたしゃっ!!
「え、え~と……魔法少女……ですか?」
初めて聞く単語に、キョトンと首を傾げるクリスちゃん。
「そう。故郷じゃあ私、魔法少女というのをやっていてね」
そんでもって、隣にいる妖怪の親玉と戦ってました。
「なるほど……魔法少女ですか……魔法少女……」
クリスちゃんは顎に手を当てて、反芻する様に口の中で魔法少女と繰り返すと、おもむろに顔を上げ隣のティアナさんへと目をやった。
「ティアナ、出来そうですか?」
「はっ! お任せを」
さすがは、王女殿下お付きの騎士さま。
クリスちゃんの投げかける、主語のかけた言葉足らずの問いを、ティアナさんは難なくと理解してしまった模様である。
とはいえ……
「出来そうって……何を?」
そう、美人主従による阿吽の呼吸も、第三者の私から見れば、まったくの意味不明である。
さっきまでキョトンと首を傾げていたクリスちゃんに代わり、今度は私がキョトンと首を傾げた。
「それはもちろん、冒険者の職業に、新しく『魔法少女』のクラスを加える事ですわ」
へっ……?
「お任せ下さい、カズサ殿。必ずやギルドの理事長である父上を説得してみせます。今回は無理ですが、来月の試験までには間に合わせてみせますよ」
え、え~と……あれ?
「その折にはぜひカズサさんに、魔法少女クラスで最初のSランクになってもらいますわ」
「いえ、むしろカズサ殿専用の、固有職業として設立してもよいかと」
「まあぁ、それも素敵ですわねぇ」
事の成り行きに着いて行けず、ポカーンと口を開けて呆ける私……
新しいクラスに魔法少女? そして、それが私専用の固有職業……?
……
…………
………………って!?
「いやいやいやいやっ、固有職業って!?」
どうにか周回遅れで話に追い付いた私は、慌てて声を張り上げた。
「わざわざ私の為なんかに、そんな事までしてもらわなくてもいいよっ!!」
「そうは言われましても、カズサ殿。今回の件――クリスチーナ殿下をファングウルフから守って頂いた件。そして、ハート伯爵の屋敷をほぼお一人で制圧された件。どちらの功績を鑑みても、王城にお招きして国王陛下から直々に勲章を賜ってもおかしくはないモノですよ」
いや、それはマジ勘弁して下さい……
「それに、今回は規定に抵触してしまったとはいえ、オーク100匹を一分足らずで戦闘不能にする実力をお持ちなのです。充分、専用のクラスを設けるに値いたしますわ」
当人を置いてけぼりにして、盛り上がるお二人……
てゆうか、職業が魔法少女って――少女じゃなくなったらどうすりゃいいのよ。
さすがに二十歳を回ったら、少女と名乗る度胸なんて私にはないよ。
『ふむ。その時には、魔法腐人とでも名乗ればよかろうよ』
そんな、腐女子から貴腐人に変わる訳じゃないんだから、簡単に言わないで……
「お友達が、固有職業になるなんて、素敵ですわぁ♪ そうと決まれば、善は急げ。街へ戻りますわよ、ティアナ」
「はいっ! 急いで父上に手紙を書かなければなりませんし」
「わたくしも、お父様に護衛の件でお手紙を書かなければ。カズサさんとタマモさんなら、お父様も納得して下さるはずですわ」
「ええっ! カズサ殿もタマモ殿も、実力にお人柄、共に申し分がありません」
いや、実力はともかく、一人はお人柄が破綻してますよ。
『お主の事か?』
タマモちゃんの事だよっ!
『いえ、どっちもどっちではないかと』
思金っ! アンタはどっちの味方だっ!?
そんな事を、念話で言い合いながら、街へと走る二人の背中を見送る私達。
「てゆうか……ホントにこれでよかったの?」
「良いではないか。金子の心配をせずに旅が出来るのじゃ。それに、人と人ならざる者との戦争を止めようとする、天然小娘の考えには興味もあるでな」
確かに、それには私も興味がある。
クリスちゃんの旅の目的は、人の国と魔物の国の戦争を止める事だという。ホントにそんな事が出来たのなら、日本での人と妖怪の争いを止めるヒントになるかもしれないし……
「とはいえ、お姫さまが三匹の妖かしをお供に、一路東への旅か……西遊記ならぬ東遊記じゃな」
「いや、妖怪はタマモちゃん一人だから」
てゆーか、魔法少女を妖怪にカテゴライズしないでくれる?
「さて、昨夜は少々魔力を使い過ぎたでな、宿に戻ってもう一眠りさせて貰おうかの」
「はいはい。お好きなように。私は思金と一緒に、少し街でも見てくるから」
「そうか……まっ、カッコイイお兄さんに声をかけられても、ホイホイと着いていかんようにの。猪八戒」
「誰が猪八戒だっ!? せめて悟空と呼べ、この沙悟浄ァーーーーッ!!」
まだ朝霧が立ち込める街壁前に、元気な魔法少女の声が響き渡った。
「そう、魔法少女の冒険は、これからじゃ。(完)」
「だから、変なルビを振るなぁ~っ! そして、打ち切りみたいに締めくくるなぁぁ~っ! 次回作に期待なんかしないからなぁぁぁぁ~~っ!!」
次回作ではなく、第二部にご期待下さい。
第一部 ―完―
番外編、いかがでしたでしょうか?
静刀ハーレム物語とは違い、女性オンリーパーティーの話でした。
さて、このあと、また静刀ハーレム物語に戻るのか、もう少し和沙ちゃんのお話になるのか?
はたまた、この二人が出合い一つも物語になるのか……
正直、まだ何も考えておりません(笑)
今後の参考に、ぜひ皆様のご意見やご感想をお寄せ下さい。