第25.5章 おまけのお話し(弐) 裸のお付き合いとフラグ回収 01
「ふへぇ~……極楽、極楽ぅ~」
「ババくさい娘じゃのう……」
大きなお風呂に肩まで浸かり、思わず漏れ出た言葉にタマモちゃんが呆れた様に肩を竦めた。
まったくっ! 花も恥じらう15の乙女に向って、ババくさいとは、なんと失礼なっ!
貸し切り状態の大きな公衆浴場で、並んでお湯に浸かっている私とタマモちゃん。
ちなみに、思金は脱衣場でお留守番。そして、クリスちゃんとティアナさんはと言えば、現場検証と事後処理の為、今も伯爵邸の方に残っている。
そしてこの状況は、そのお二人の権力――もとい、お二人のご好意と、公衆浴場の管理人さんのご好意より、すでに営業時間を過ぎている浴場を特別に開放して貰っているという状況なのだ。
最近はシャワーばかりだったからなぁ。それに昨日はお湯じゃなくて水浴びだったし――
まあ、あれはあれで気持ちよかったけど、今は久々の広いお風呂を堪能しよう。
そんな事を思いながら、横目にタマモちゃんの様子を確認する私。
透明なお湯の中で、幻想的に揺れる白い肌――
さすがは、日本の三大妖怪の一人。妖狐、玉藻前……顔の傷はもちろん、身体の傷も、もうすっかり完治しているみたいだ。
とゆうか……
なにその、波打つ湯面と一緒に、ぷかぷかと揺れる物体はっ? 浮くのか? おっぱいとは大きくなると、お湯に浮く物なのかっ?
っか、私の方は浮かぶどころか、どんなビックウェーブが来ても全く揺れる気配がないぞ、コンチクショーッ!!
ふ、ふんだっ! 大きいおっぱいは、すぐに垂れちゃうんだからね。歳をとってから泣くがよいわ。
「まっ、ワシは三千年ほど変わらず、この体型のままじゃがな」
ぐぬぬぬぬ……
奪いたい、そのおっぱいっ!
「『守りたい、その笑顔』みたいなフレーズで、物騒な事を言うでないわ……それより、知っておるか、和沙よ? これは、妖狐に伝わる由緒正しき伝承なのじゃがな。乳の大きなオナゴの肩を揉むと、揉んだ者の乳も大きくなると言われておるのじゃ」
「ホントにっ!? ちょとタマモちゃん! 向こう向いて、肩をこっちに――って、そんな嘘に騙されるワケないでしょっ!!」
「ふむ。さすがに、そこまでチョロくはなかったか」
ふ、ふぅ……危ない危ない……
胸が大きくなるってフレーズに冷静な判断をする思考が鈍って、危うく嘘付きキツネの肩を揉み始める所だったわ……
「胡散臭い豊胸グッズの通販に騙され、散財するタイプじゃな」
しゃらっぴっ! てゆうか、さっきから人の考えを読んでるんじゃないよっ、まったくもうっ!!
すくん……人生に二度あると言う、私のおっぱい成長期は何処に行ってしまわれたの?
わんぱくでもいい、たくましく育って欲しい……
「ところで和沙よ。話は変わるが……お主の使っていた剣な」
唐突に話を変えるタマモちゃん。こちらに目を向ける訳でもなく、見るともなしに天井を見上げながら独り言の様に淡々と切り出した。
「ん? 剣って、安綱の事?」
「そちらではない。剣技のほうじゃ――」
ああ、そっちの方か……
この高濃度マナという状況下でも、本家に比べれば劣化コピーレベルの剣技。私が劣等感から、剣を使う事を躊躇ってしまう原因となっている剣技……
「で、あの剣技がどうしたの?」
あまり触れられたくない話題に、少しだけ素っ気ない返事を返す私。
「ふむ。あの剣じゃが……もしや、一条橋の剣か?」
「っ!?」
触れられたくない話題に、素っ気ない返事を返した私だったけど、そのひと言で目を見開き、逆に食い付く様にタマモちゃんの横顔へ目を向けた。
「タマモちゃん……静刀さん、知ってるの?」
一条橋の剣。一条橋……そう、私の使った剣技は、一条橋流と呼ばれる剣術であり、私が映像で繰り返し観た彼は、一条橋静刀さんと言う名前なのだ。
「静刀……静かなる刀か。ふっ、なるほど。コレも因果かのう……」
「タマモちゃん……? どうかしたの?」
目を閉じ、まるで自嘲する様な笑みを浮かべるタマモちゃんに、私はキョトンとした顔で呼び掛ける。
「いや、何でもない……静刀のう。知っておると言えば知っておるし、知らんと言えば知らんな」
「なに、その禅問答? もしかして、からかってる?」
「からかってなどおらんよ。ワシの知っておる一条橋静刀は、初代の静刀。お主の知る静刀とは別人じゃ」
しょ、初代? 別人? 何を言ってるの、この人……?
いや、人じゃないんだけどさっ。
眉を顰めて首を傾げる私に、タマモちゃんはまるで昔を思い出すように淡々と語り出した。
「一条橋家は特殊な家での。産まれた赤子に対して、その子の持つ特性に合わせた名を付けるのじゃよ。そして、静刀とは静かなる刀――『気付いた時には死んでいると言わしめる剣』という特性を持つ者に付ける名なのじゃよ」
「…………………………」
タマモちゃんの語る話に、言葉を失う私。
何それ……何で生まれたての赤ちゃんに、そんな特性があるなんて分かるの? いや、それ以前に……
自分の子供に静かなる刀、気付いた時には死んでいると言わしめる剣なんていう意味を込めて名前を付けるなんて、そのご両親はいったい何を考えているの?
お世辞にも、恵まれた家庭環境だったとは言えない私。両親との不和は、私にとっても他人事ではない……
他人事ではないからこそ、そのご両親に怒りにも似た不快感が湧き上がってくる。
てゆうか……
「なんで、タマモちゃんはそんな事、知ってるの?」
苛立ちを抑え、平静を装いながタマモちゃんの横顔に向って尋ねる私。
「まっ、一条橋家と言えば、あの忌々しい安倍の家の分家じゃからのう」
忌々しい安倍の家……
その言葉で、玉藻前の伝承から思い浮かぶのは……安倍泰成さんかな?
かの有名な、最強の陰陽師と言われる安倍晴明さん直系の子孫で、タマモちゃんの正体が妖狐だと見破り、更にはタマモちゃん討伐軍に軍師として参加したって言う…………………………あれ? ちょっと待って? ってことは――
「も、もしかして一条橋家って……安倍晴明さんの子孫の家系?」
「まっ、そういう事じゃな。とはいえ――忌々しさで言えば本家の安倍より、分家の一条橋の方がよっぽどじゃがな」
あっさりと肯定し、イヤな事でも思い出したかの様に顔を顰めるタマモちゃん。
どうやらタマモちゃんには、安倍泰成さんだけでなく、その一条橋家――初代の一条橋静刀さんとも何か因縁があるようだ。
「え、え~と……本家より忌々しいって、一条橋家――とゆうか、初代の静刀さんと何かあったの……?」
「つまらん話じゃよ……まあ、どうしても聞きたいのであれば、そうさなぁ――肩の凝りが軽くなれば、口も軽くなるやもしれんのう」
くっ……この巨乳キツネさんは、どうあっても私に肩を揉ませたいらしい。
「はいはい、わかったよ。こっち来て、背中向けて」
私はお風呂の縁に腰を下ろし、その正面にタマモちゃんを誘った。
お湯に浸かり、ほんのりと桃色に染まった白い肌。濡れない様にアップに纏めた髪。そして、白いうなじを流れる雫……
ち、ちくせう……マジで色っぽいじゃねぇか、この女――って、何をドキドキしてんだ私はっ!?
お、落ち着け、私――確かに懐の広い私はLGBTに対して、海よりも深い理解と共感を持ち合わせている。
更に二次元限定なら、そこへもう一つのLと、ついでにPが入ってLGBTLPになっても、私は怯まずに立ち向かって行ける自信もある。
だが、しかぁーしっ!
BLも百合も、あくまで見るのが好きなだけで、私自身はノーマルなはずっ! だから、相手がいくら傾国の美女とはいえ、こんな色気なんかに負けるな、私っ!!
なぜか赤らむ頬を誤魔化す様に、私は目の前の色っぽいうなじからそっと目を逸し、柔らかな肩を揉み始め――
「んっ、んん……あ、あっ……そ、そこじゃ……」
だから、変な声を出すなぁ~っ! そして、私の心を惑わせるなぁ~っ!
もし私がリアル百合の趣味に目覚めたら、責任取って娶ってもらって、そして養って貰うからなっ!!
「ふむ。こんな引きこもり小娘を養うなぞ御免こうむるからの、冗談はこの辺にしておくか」
ぐぬぬぬ……
からかっていやがったなっ、この性悪キツネめ……
私は肩を揉む両手へ、思い切り力を込めた。
「ふむふむ。ちょうど良いチカラ加減じゃ。その調子で頼むぞ」
とはいえ、AWSを装着していない私の握力なんて知れたもの。タマモちゃんに取っては、ちょうどよいチカラ加減にしかなってないらしい……