第25章 これにて、一件落着
「うわあっ!?」
「あぶなっ!!」
「なっ、ななな……」
「なんじゃこりゃ~っ!!」
ちょうど、窓の方へと向っていたお兄さん達。
全身にガラスの破片を浴び、驚きと戸惑いの声を上げながら、ある者は後ずさり、またある者はその場に尻もちを着いている。
そして、そんなお兄さん達の前へ、見覚えのある格好をした方々が、割れた窓を乗り越えて立ちはだかった。
お揃いの革の胸当てを身に着け、揃いの幅広の剣を腰に下げた一団――
そう、街壁前で見た、警備の兵隊さんと同じ格好をした人達だ。
割れた窓の前で横一列に整列し、コワモテお兄さん達を威嚇する兵隊さん達。
ホント、こんな夜分遅くにご苦労さまです。ウチのタマモちゃんがご迷惑をおかけして、どうもすみません。
タマモちゃん救出の為、クリスちゃんが集めてくれたのであろう警備の兵隊さんに心の中で労いと謝罪をする私。
しかし、そんな日本の社畜さんに、負けず劣らずお仕事熱心な兵隊さんへ向け、領主さまが声を張り上げる。
「なっ、何をしているか、キサマらーっ!! 自分達が何をしてるか分かっているのかーっ!!」
まあ、この反応は当然かな? 領主さまから見れば、警備の兵隊さんは従業員で自分はその雇い主。いわゆるシャチョサンなのだから。
『なぜ、カタコトなのですか……? それに、厳密には社長と従業員という関係ではありません。強いて日本のシステムに当てはめるなら、市長と地方公務員という関係が近いです』
『まっ、給金の出処は、領主が集めた税収からじゃろうがな』
オウッ! ワタシ、ムツカシーニホンゴ、ワ~カリマセ~ン。ノミホウダ~イ、サンゼンエン、ポッキリデ~ス。
『ですから、カタコトはやめて下さい。正直、読みにくいです』
うん、この喋りは私も疲れるので、もうやめます。
ちなみに、客引きが三千円ポッキリとか胡散臭い事を言う店は、ほぼ100%ボッタクリなので、良い子のみんなは絶対に着いていかないように。お姉さんとの約束だっ!
『とゆうか、客引きは良い子になど声をかけんじゃろ?』
『そもそも良い子は、こんなにも穢れたヒロインの話など読まないでしょう』
誰が穢れてるだっ、コラーッ! あたしゃ、腐ってはいても穢れてはいないぞっ!!
『ふむ。もしかして、上手い事を言ったつもりか?』
………………ちょっとだけ、テヘッ♪
と、念話でおバカなガールズトークを繰り広げている間も、ハートさまのお怒りは收まらないご様子。
私に剣を向けられているのも忘れ、おじいさんと抱き合ったままで、ずっと声を張り上げていた。
「聞いているのかっ、お前たちっ! こんな事して、タダで済むと思っているのかっ!?」
「いえ、タダで済まないのは――」
「貴方の方ですよ。ハート伯爵」
がなり立てるハートさまの問いに答える、第三者の声。
ハートさまのダミ声とは対照的に、よく通る澄んだ綺麗な声――
静かに開かれた、出入り口の扉から現れた、ドレスのお嬢さまと騎士甲冑の美女。
少々近寄り難い、凛とした雰囲気で立つクリスちゃんと、正に威風堂々と言った感じで立つティアナさんの声だ。
そして、その美人主従の登場を、踵を鳴らし敬礼で出迎える警備の兵隊さん達。
「な、ななな、なんだっ、貴様らはっ!? だ、だだ誰の許しを得て――」
「控えろっ! 下郎っ!!」
事の成り行きに着いて行けずに、慌てふためき大声を上げた領主様を、一喝して黙らせるティアナさん。
そして、隣りにいたクリスちゃんが、一歩踏み出しながらペンダントを――さっき、辻馬車のおじさんに見せた、向かい合う二匹の竜が刻まれたペンダントを見せつける様に突き出した。
「貴様らっ! この紋章が目に入らぬのかっ!?」
「なっ!?」
「そ、それは……」
ティアナさんの怒声。そして、クリスちゃんの持つドラゴンの紋章に、目を見開いて驚愕する領主さま達。
更にティアナさは、そんなハートさま一味を睨み付け、大きく息を吸い込んだ。
「このお方を何方と心得るっ! 畏れ多くも、ノーザライト王国第四王女、クリスチーナ・セス・ノーザライト殿下にあらせらせるぞっ!!」
「はっ!! ははぁ~っ!」
その、水戸のご老公さま御一行の如きティアナさんの口上に揃って片膝を着き、一斉に頭を下げるハートさま達。
ちなみに、私はと言えば――
「して、なぜお主まで、平伏しておるのじゃ?」
「いや、まあ…………なんとなく?」
そう、反射的に身体が動き、思わず両膝を着いて床に頭を擦り付けてしまっていた……
で、でも、コレは仕方ないでしょっ!? コレは日本人のDNAに刻まれた業のようなもの。ボケに対して条件反射的にツッコミを入れてしまう様なものだよ。
日本人なら、誰だって跪いちゃう予定調和の流れ。マンネリなんかも何のそのだよっ!!
ちなみに私の後ろでは、なぜか狼さん達まで横一列に並び、私と一緒に平伏していた――――って!?
「だ、第四王女殿下って、お姫さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~っ!?」
『カズサ、反応が遅過ぎです』
突然のカミングアウトに、素っ頓狂な声を上げる私と冷静なツッコミを返す思金。
『いや、カミングアウトでも何でもなかろうよ。昨日、今日と、あの天然小娘の言動を見ておれば、王族か、それに近しい者であるのは分かりそうなもんじゃろ?』
まあ、確かに……
侯爵家のご令嬢をアゴで使ったりとか、入領審査がフリーパスだったりとか――まあ、その他にも、それっぽいフラグは立ちまくっていたけど……
今までの出来事を思い出す私に、とても悲しそうな目を向けるクリスちゃん……
その憂いを帯びた瞳に、まるで親友を――愛希を悲しませてしまった様な錯覚に陥り、胸がチクリと痛くなった。
しかし、クリスちゃんはすぐに王女様らしい凛とした表情へと戻り、ゆっくりとした足取りでハートさまの前へと歩み寄って行く。
「ハート伯爵――貴方の行っていた数々の悪行は、わたくしの方でも確認済です。領主という地位にありながら、税収の改竄、麻薬やご禁制の品の密輸密売に人身売買――そして何より、数多の女性に対する非道な行い……王家に名を連ねる者として、決して許す事は出来ません。追って、王都より審問官ならびに検察官が参ります。厳しい裁きがある事を覚悟しておいて下さい」
「ぐっ…………は、はい……」
品位と風格を感じさせるクリスちゃんの言葉を受け、ハートさまはその場にがっくりと崩れ落ちた。
「皆さん。この方々を捕縛、連行して下さい」
「「「「「はっ!!」」」」」
クリスちゃんの指示に、窓際に並んでいた警備の兵隊さん達が一斉に動き出し、ハート伯爵とその一味にロープを掛け、捕縛を始める。
その気力もないのか、それとも無駄と諦めているのか? 抵抗する事なく、お縄に付くハートさま達。
いや、ぽろりと斬り落とされるくらいなら、塀の中の方が安全と考えているのかも……
まあ、何はともあれ――
「うむ。これにて、一件落着じゃな」
「ちょっ!? タ、タマモちゃんっ! それ、私のセリフッ!!」
『いえ、この場合は、カズサではなくクリスチーナの台詞でしょう』
いや、締めのセリフは、メインヒロインの役目だからぁぁぁぁ~っ!!