第24章 ぽろりも(たくさん)あるよ♪
「昔、とあるアメリカの作家さんが言いました。『誰だって、自分の人生という物語の主人公なんだ』と……」
部屋の隅に怯える様に固まる男達に向け、剣技を突き出しながらゆっくりと歩みを進める私。
そして、その後ろから威嚇する様に着いて来ている狼さん達の群れが、男達の恐怖に拍車をかける。
私は表情を殺し、淡々と言葉を綴っていく……
「そう、コレは私の物語。見知らぬ国で懸命に生きる、健気な美少女の物語。そして、この物語のコンセプトは――――『ドキッ! 女だらけの異世界冒険記♪ ぽろりもあるよ(ハート)』なのである……」
先頭の男の鼻先に、安綱の妖しく光る切っ先が触れる直前で、私はその足を止めた。
「つまり、私の紡ぐ物語に、男|(イケメンは除く)は、必要ないのです……」
そして、ニヤッと黒い笑みを浮かべながら、恐怖に言葉も出せずにいる男達に向け、静かに剣を振り上げた……
「とゆうわけで、『ぽろりもあるよ(ハート)』の謳い文句通り、皆さま方のモノを『ぽろり』と斬り落として女の子になってもらおうと思います」
「――――――――――!?」×男性一同
その厳つい顔を蒼白に染め、内股になり股間を押さえる男性たち――いや、女の子予備軍たち。
「大丈夫ですよ皆さん。この刀の切れ味はご覧になったでしょう? 痛いと感じる前に『ぽろり』と斬り落としますから、安心して下さい」
歯をガチガチと鳴らして震える未来の淑女達に向け、私は少しでも安心してもらえる様にニッコリと天使の微笑みを浮かべながら優しく語りかけた。
『おいおい……お主は仮にも日の本の国宝で、いったいナニを斬るつもりじゃ……?』
知れた事っ! ナニを斬るつもりですっ!!
ぐへっ、ぐへへへへへ……
『カ、カズサ……笑い方が下衆いです……そして、ヨダレを拭いて下さい』
『とゆうか、和沙よ……あのような豚とジジィ、それに顔面凶器みたいな不細工面どものモノを見るのが嬉しいのか?』
ふっ……思春期女子の妄想力を侮ってもらって困る。
AWSの被験者に選ばれた、学園一のイメージ力を誇る私の並外れた妄想力で、どんな顔でもイケメンに――修正してやる~っ!
『こ、これが若さか……』
そう、これが若さです! という訳で――
「は~い、それでは皆さん。パンツを下ろして『ぽろり』と出したら、一列に並んで下さいね♪ 私が順番に『ぽろり』と斬り落として差し上げますから。そう『ぽろり』と……ぐへへへへへ……じゅるっ」
「うっ、うわあぁぁぁぁぁぁ~っ!!」
「い、いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!!」
「まだ未使用なのにぃぃぃぃぃぃぃぃ~っ!!」
私が手の甲で口元を拭うと同時に、まるで蜘蛛の子を散らす様に逃げ出すお兄さん達。
そして――
「ま、まてっ、コラッ! ワタシを置いて逃げる奴があるかっ!?」
「ひっ、ひいぃぃぃぃぃ~っ!!」
と、情けなく腰を抜かし、置いてけぼりにされて仲良く抱き合うハートさまとパイパおじいさん。
もう、領主やSランクの威厳も何も、あったもんじゃないね……
私は軽く肩を竦めると、その場に座り込む二人を黒い笑みで見下ろした。
「くくく……悪党の末路なんて、そんなものなのだよ、ハートさま――ささっ、お二方、『ぽろり』と出して下さい。『ぽろり』とね……」
『先程から、ぽろり、ぽろり、と言い過ぎです、カズサ』
『まったくじゃ。サブタイトル詐欺で訴えられるぞ』
※今回のサブタイトル
『第24章 ぽろりも(たくさん)あるよ♪』
くっくっくっ……スレタイもサブタイも騙され奴が悪いのだよ、騙される奴が――そう、騙される奴が…………シクシク。
『ん? いきなりどうしたのじゃ?』
『ああ~、作者は――もとい、カズサは日本にいる時、某大型掲示板やまとめサイトで、散々スレッドタイトルに騙されていましたからね』
『ほおぉ。例えば、どのような?』
『JCのおっぱいぽろり画像を集めてみました。というスレッドタイトルを見つけ、喜び勇んで開いてみたら、上半身裸で闘うジャッキー・◯ェンのスクリーンショットが並んでいたりとか』
『ふむ。それは確かに騙される奴が悪いのう』
うるさい、うるさい、うるさ~いっ!!
ジャッキーならジャッキーとちゃんと表記しろっ! 乙女の純情を踏みにじりおってからにっ!!
えぇ~いっ、思い出したら腹が立って来たっ! ホントにこの二人のモノを、ぽろりと斬り落としてやろうかなっ!!
涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにして震える二人に向け、剣を振り上げる私。
「ひっ!? な、何をしておる、お前達っ! 早くワタシを助けろっ!!」
逃げだしたコワモテお兄さん達に向け、声を張り上げるハートさま。
しかし、お兄さん達はお兄さん達で、逃げたしたはいいけど、今は狼さん達と鬼ごっこの真っ最中。しかも、部屋の出入り口は他の狼さんに塞がれているので外に逃げ出す事が出来ず、結局ダイニングの中をドタバタと逃げ回る事しか出来ていないのだ。
まあ、中には他の人達より少しだけ頭の回る人もいるようで――
「そ、そうだっ! 窓だっ!!」
「おい、みんなっ! 窓から外に逃げるんだっ!!」
誰ともなく言い出した『窓』という言葉に従い、一斉に窓側の壁へと走り出すお兄さん達。
ガイルおじさんが壊した窓の他、幾つもの窓が並ぶ壁――
確かに、ここは一階だ。窓を出れば簡単に庭へと逃げられる。
逃げられるのだけど、しかし……
「そう、上手く行くかのう……?」
狼さんの頭を撫でながら口元に笑みを浮かべ、ポツリと呟くタマモちゃん。
どうやら、庭の状況を把握しているようだ。
まっ、私も少しは察しているのだ。人間より五感が遥かに優れたタマモが分かってないわけないか。
「おい、和沙よ。もう、そっちの扉を固めておく必要はあるまい? もうすぐお主のお友達が来るようじゃから、空けておいた方が良いぞ」
特に辺りを観察するでもなく、膝の上で眠る狼さんへ慈しむ様な視線を落としながら、まるで独り言の様に告げるタマモちゃん。
てか、そんな事まで分かるの? 凄いな、妖狐の五感……
「お前達、こっちにおいで」
タマモちゃんのアドバイスに従い、部屋の前と後ろ――二つある出入り口を固めていた狼さん達を呼び寄せる私。
と、同時に『ガシャーンッ!!』という大きな音が、連続して幾つも鳴り響き、全ての窓ガラスが一斉に砕け散ったのだった。