表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦乱の異世界で、◯◯◯は今日も△気に□□□中!!  作者: 宇都宮かずし
『戦乱の異世界で、『もと』ひきヲタ魔法少女は今日も吞気に冒険中!!』編 第一部 ホントに異世界来ちゃったのっ!?
176/328

第21章 六つ胴斬り

 刃先を潰していた、切れ味など無いに等しい戦斧。それほど、錬成に霊力を費やした物ではない事も確かである。

 ただ、それでも普通の(ハガネ)程度の強度である事は間違いない大斧。


 その斧刃(ブレード)部分を、こんなにも簡単に両断するなんて……


 斬られたブレードに目をやり、そのあまりにも滑らかな斬り口に私は息を飲んだ。


「いい事を教えてやる――」


 驚きを隠しきれない私はとは対照的に、嬉しそうな笑みで手にする大剣を見せつけるガイルさん。


「この剣はよっ、とあるドワーフの刀匠が創った一点物でな。どんな武器を相手にしても、その武器ごと相手をぶった斬るってぇーんで、(ちまた)ではこう呼ばれてんだ――武器殺しの大剣ってな」


 武器殺し――

 コチラの世界では、精鉄技術が未熟だって思金が言ってたけど……


 その未熟な精鉄技術で創った鋼で、コレだけの剣が打てるとは、さすがドワーフさんと言うべきか。


「実際、コイツは今まで幾百(いくひゃく)って武器を葬って来た。まっ、(めい)はねぇが、実戦なら正にコイツは最強の剣だ」


 ピクッ……


「そんな剣を、最強の剣士である俺が使ってんだ。俺達に勝てる相手なんて、存在しねぇよ」


 ピクッ、ピクッ……


 ガイルおじさんの言葉に、ピクピクと頬を引きつらせる私。


 最強の剣に、最強の剣士ぃ?

 何言ってるのこの人……?


「ふっ……ふふふ……」


 私は手の中にあったバトルアクスを消去(デリート)させ、ゆらゆらと立ち上がった。


「はは……あははははははははははははっ! ちょっ、最強の剣士とか、マジ笑えないんですけどぉ~っ!」

「いや、笑っておるぞ」

『ええ、笑ってますよ』


 しゃらっぴっ! 今は、そんな細かい事を気にしている場合ではありません。


「さっきまで、少し頭に血が(のぼ)って熱くなっていたけど、勘違(かんちガ)イルさんの、恥ずかしい勘違い発言で一気に熱が冷めたよ」

「ああっん!?」

「いや、むしろ、こんな自意識過剰の勘違いおじさん相手にムキになっていた、自分が恥ずかしいわ……」

「………………」


 私は、チラッと後ろを振り返り、タマモちゃんの膝で眠る狼さんに目を向ける。


「(頭は冷えたけど、ちゃんと仇は取るから待っててね……)」


 そう口の中で呟き、再び正面のガイルさんに目を戻した。


 私の煽る様なセリフに、勘違イルさんはコメカミをピクピクさせながら、引きつった笑いを浮かべている。


「おい、クソガキ……何が勘違いだ、コラ……」


 オシッコ臭いの次はクソガキね……

 さっきまでは、オシッコ臭いとか言われて腹がたったけど、相手が格下だと思えば腹も立たない。


 私は、先程までとは一転。余裕の笑みでガイルさんの剣を指差した。


「その自称最強の剣――確かに、強力なのは認めるけど、最強は言い過ぎだよ。その剣よりも強力な剣はたくさんあるし、それこそ、その『武器殺しの大剣』を真っ二つに出来る剣だってあるのだよ」

「はあぁっ!?」

「それと、自称最強の剣士さんより強い剣士さんや剣豪さんだってたくさんいる。それに――――剣で戦うのなら、おじいさんよりも私の方が強いよ……」

「………………」


 口角を吊り上げ不敵に笑う私に、言葉を失うガイルさん。そんなガイルさんを煽る様に、私は更に言葉を(つづ)った。


「私の国ではね、そう言うのを『()の中の(ナマズ)』と言うのだよ、ガイルくん」

『カズサ……それを言うなら『井の中の(かわず)』です』

「えっ……? あ……ああと……し、知ってるよっ! ちょっとした魔法少女ジョークだよっ!!」

此奴(こやつ)、素で間違えておったな……」


 う、うるさいっ! 鯰も蛙も同じ水の生き物だよっ! オタマジャクシはナマズの孫なんだよっ!!


「クッ……ハハ……ハッハッハッハッハッハーッ!!」

「コラーッ! 笑うな、そこっ! 小粋な魔法少女ジョークだって言ってるでしょーっ!!」


 豪快に笑うガイルさんに、顔を真っ赤にして振り返る私。


「この剣を超える剣が――真っ二つにぶった斬る剣があるとは、随分と面白い事を言ってくれるな、オイ」


 あっ、なんだ、そっちか。


「しかも、言うに事欠(ことか)いて、俺よりも強えぇだぁ? ぜひ、見せて貰いてぇもんだな。その剣とテメーの強さってぇーのをよっ!」

「いいよ。見せて上げる――」


 心底楽しそうに笑うガイルさんに、不敵な笑みを返す私……


「思金。今の私なら『安綱』の錬成が出来ると思うんだけど、どうかな?」

『はい。この世界のマナ濃度なら、充分に可能です』

「OK! じゃあ、錬成お願い」

『御意――構成原子の解析開始』


 伝説の魔剣や聖剣と違い、安綱は実在する刀。しかも、内閣調査室経由(ないちょうけいゆ)で実物を見た事もある。

 今の私はなら、充分に錬成可能だと思っていたけど予想通りだ。


「ふっ……あんなデカイだけの鈍刀(なまくらかたな)相手に、童子切(どうじぎ)りとはのう。牛刀で(にわとり)を――いや、大根を(さば)くようなモノじゃそ」


 それでいいんだよ。格の違いってヤツを見せ付けてやるんだから。


 まるで、どこぞの悪役令嬢の如く、優雅に椅子へ腰かけ、狼さんの頭を撫でながら微笑むタマモちゃん。

 そのタマモちゃんの口から出た『童子切り』という言葉――


 そう、安綱とは日本の国宝に指定され、天下五剣にも数えられる『童子切安綱(どうじぎりやすつな)』の事。


 かの源頼光さんが、タマモちゃんと並ぶ日本三大妖怪の一人、酒呑童子(しゅてんどうじ)を斬ったとされる刀だ。


 刃長80.3cm。反り2.7cm。元幅2.9cmで先幅が1.9cm。刀身の厚さは0.6cm。

 造り込みは鎬造(しのぎづくり)庵棟(いおりむね)。刃文は小乱れで、砂流(すなが)し、金筋(きんすじ)入り――


 錬成の精度を上げる為、正確な寸法、製法、そして伝えられる数々の伝承をイメージし付加させていく。


 急速に消耗していく霊力――しかし、その消耗した分が、高濃度のマナによってどんどんと回復していく。


 ホント、高濃度マナ様々だ。


 やがて、原子化された私の霊力が収束し、右肩の水晶から伸びる様に姿を現し始める刀。

 柄、(ツバ)、そして鞘に収まった刀身が姿を現したところで、私はその鞘を掴んだ。


 そして、鈍い光沢を放つ黒塗りの鞘を引き抜きながら、ガイルさんに向い、ゆっくりと口を開いていく私――


「私の国では昔ね、死罪になった囚人の死体で剣の試し斬りをしていたんだって……」

「へっ! おもしれー習慣だな。ぜひこの国にも取り入れて貰いてぇもんだ」

「いや、面白くはないし、誇れる様な文化でもないんだけど……まっ、その試し斬りで、この剣は六つ胴斬りの刀って言われていてね――」


 私は、完全に姿を現した鞘から剣を抜き放ち、その切っ先をガイルさんに突き付けた。


「囚人六人の死体を重ね、その胴体を一太刀(ひとたち)で切断したって逸話があるんだよっ!」


 胴斬り、または胴落としと呼ばれる試し斬り。


 死体を二つ重ね、それを一太刀で両断出来れば二つ胴斬りの刀。三つなら三つ胴斬りの刀と呼ばれる。

 有名どころで言えば、新撰組局長、近藤勇の愛刀、長曽根虎徹(ながそねこてつ)が四つ胴斬りの刀だ。


 記録に残っている物としては、関兼房(せきのかねふさ)備前長船基光びぜんおさふねもとみつの七つ胴が最高とされている。しかし、この童子切安綱の六つ胴斬りは、六人の死体を切断しただけでなく、刃が土台にまで達していたという……


 六人の死体を一刀両断し、あまつさえ酒呑童子の(くび)()ねたと言い伝えられる童子切安綱。


 その冷え冷えする凛とした波紋と、妖しく光る切っ先を向けられたガイルさんは――


「って、なんだその目はっ!? 全然信用してないなぁっ!!」


 そう、安綱の切っ先を向けられたガイルさんは、ジト目にも似た、どこか呆れる様な目を向けていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングも一日一ポチお願いしますm(_ _)m
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ