第19章 推理と謎解き 01
なぜ、森にいた狼さん達が――クリスちゃん達を襲っていた狼さん達がココにいるのか?
私は脳ミソをフル回転させて、いくつもの予測を立ていく。
そして、20年以上も小学一年生をしてる名探偵の、
『不可能な物を除外していって残った物が、たとえどんなに信じられなくても、それが真相なんだ』
という言葉に従い、不可能な物を順番に除外していく。
『正確にはその言葉、1926年に発行された、シャーロック・ホームズシリーズの短編小説「白面の騎士」に出て来た言葉ですけどね』
はいはい、それは失礼致しました。
それよりも、残った推理がこれなんだけど、どう思うかね、思金くん。
『変なルビを振るのはやめて欲しいですが、カズサにしては大変に的を射た推理です。恐らくは間違いないでしょう』
思金のお墨付きを得て、ニヤリと口角を釣り上げる私。
では、読者諸君っ! 謎解きを始めるとしようではないかっ!
まあ、それほど大層な謎でもないけれど。
『確かに。カズサがあっさりと解けたくらいですからね』
ホント、一言多いなチミは……
私は思金の余計な一言に眉を顰めながら、戸惑いを隠せずにいるパイパおじいさんと、その隣で怯え切ってるハートさまに目を向ける。
「ねえ、おじいちゃん……この子達って、街のすぐ近くにある森にいた子達だよね?」
私のカマかけとも取れる言葉に、おじいさんの眉が一瞬だけピクンっと跳ね、隣のハートさまは驚きに目を見開いた。
そんな、二人の様子を楽しむ様、更に問いを重ねる私――
「もしかして、ハートさまと共謀して、旅人なんかの馬車を襲わせ、荷物をネコババしていたんじゃないのかな?」
「な、ななな何を馬鹿な事を言ってるんだっ!? しょ、しょしょしょ、証拠を見せろっ! 証拠をっ!!」
「た、大した推理だな、お嬢さん。キ、キキミは冒険者ではなく小説家にでもなった方が、い、いいのではないかい?」
はい。典型的な犯人の自白いただきました。
真っ赤な顔で逆ギレ気味の声を上げるハートさまと、冷静を装いつつも、裏返った声で話を逸らそうとするおじいさん。
でも確かに、犯人フラグは立っても物的証拠はない。
物的証拠はないのだけれど、この子達が街の近くにある森にいた狼さん達だという事なら証明出来る。
私はその証明する為に、強い思念、そして強い霊力を込めながら大きく息を吸い込んだ。
そして――
「お座りっ!」
私の号令と共に、一斉にお尻を床に着ける狼さん達。
思金曰く、強い思念と霊力を込めた言葉は、種族を超えて伝わるモノだそうだ。
その言葉を信じて、更に強く思念と霊力を込めながら、間髪入れず号令を発していく。
「伏せっ! ちんちんっ! 三回まわってワンッ!!」
「ワンッ!!」×21
「よしっ、集合~っ!!」
一糸乱れぬ動きを見せる狼さん達は、私の周りへと集まり、嬉しそうに尻尾を振り始めた。
「よ~、しゃしゃしゃしゃしゃ~」
そんな狼さん達を前に片膝を着き、順番に頭を撫でていく。
そして、この光景に言葉を失い、呆然とするおじいさんを、口角を吊り上げ見上げる私。
「実は昨日、この子達が森で馬車を襲っている所に出くわしたんだよね」
「なっ!?」
「そん時に、私は全員を当て身で気絶させた。そしてそのあとに、こう言って開放したの――――『次はない』って……」
そう、その言葉を覚えていた――いや、覚えていたと言うより、その言葉が恐怖と生命の危機として心に刻まれていた狼さん達は、私に飛び掛かる事を恐れ、おじいさんの命令に抗っていたのだ。
「そして、ここでもう一つ重要なポイントは、おじいさんの笛……その笛は魔力のこもった音色で、順位制を狂わせる物だよね? そんで、それを使ってこの子よりも――リーダーよりも自分の順位を上に持って来て、群れに命令をしていた――」
額にバッテン傷のある群れのリーダーを抱き寄せ、頭を撫でながら、私は笑みを崩さずにおじいさんに見据える。
私よりも、笛の特性に詳しいおじいさん。私の言いたい事が理解出来たのだろう。顔色が一気に蒼白へと染まり、額からは滝の様な汗が流れ始めていた。
獣使いである、おじいさんの持つ獣を操る笛――
その特性とは、あくまでも笛の音で順位制を狂わせ、群れのリーダーの上に自分の順位を持ってくる物であり、自分がリーダーに取って代わると言う物ではないという事。
そしてこの子達は、おじいさんの命令よりも私の命令を優先した。
それはつまり――
狼さん達の定めた順位制において、おじいさんよりも私の方が上になっているという事なのだっ!
その事に気付き、ガチガチと恐怖に身を震わせるおじいさん。
私はそんなおじさんに目を向けながら、ニヤリと黒い笑みを浮かべ、ゆっくり立ち上がる。そして、バッと右手を振りかざし、親分として子分達に号令を発した。
「お前たちっ! や~っておしまいっ!!」
アラホラサッサとばかりに、一斉に走り出す狼さん。そしてすぐに分散して、パイパおじいさんやハートさま、そしてコワモテお兄さん達へと襲い掛かった。
「ぎゃあぁぁ~っ!!」
「ひいぃぃぃ~っ!!」
「う、うわあぁぁぁ~っ!!」
正に阿鼻叫喚のおじいさん達。一瞬にして、ダイニングは修羅場と化していった。
「あっ、でも殺さない程度にねぇ~っ!」
「ガウッ!」
追加の指示を伝え、辺りを見渡す私。
まっ、後ろからは、
「甘いのう……」
と、タマモちゃんの、ため息混じりの声が聞えてくるけど……