第四章 姫様降臨 04
「まっ、払うもんを払ってくれれば構わんぞ――なあぁ、ステラよ?」
「えっ? ええ、あっ、は、はひっ! しょ、しょれは、もちももちろん、ででしゅっ、」
王族相手でもマイペースなラーシュアから突然話を振られて、噛みまくるステラ。てゆうか、オレの意見は聞かんのか?
「そうか、感謝する。とはいえ――何を作って貰えば良いか分からんな……」
壁に掛かった品書きを見渡す姫さま。そりゃあ、姫さまにとっては異世界のメニューだ。初めて聞くモノばかりだろう。
「んっ? あの『かいせきりょうり』と言うのはなんじゃ?」
そんな姫さまが目を付けたのは、並んだ品書きの最後。オープン以来、まだ誰も頼んだ事のない料理だ。
そして、そこにはこう書いてあった。
懐石料理。料金応談、二名様以上から、要予約――
「それは懐石料理とゆうてな、まあ簡単に言えば、少量の料理を数種類、順番に出してゆく料理じゃな」
「ほう、それは料理人の腕を見るに、もってこいじゃのう。要予約とあるが、明日の夜でも大丈夫か?」
「無論じゃ。それと、懐石なら店の貸し切りが前提じゃからな、その料金も最初から含まれておる」
「ますます好都合ではないか」
ラーシュアの説明に、頬を緩ませる姫さま。
てゆうか、キミたち喋り方が被っていて分かりにくいよ。
「しかし、その料金応談とはどうゆう意味だ?」
「そのまんまだよ。そっちの予算がいくらなのか? その予算に応じて料理を作っていく……まぁもっとも、最低は一人三百ベルノからだけど」
姫さまの後ろで品書きを眺めていた巨乳騎士の疑問に、視線を逸らし仏頂面のまま答えるオレ。
「最低が三百だと? 随分と大きく出たな」
三百ベルノ――日本円にして約三千円。
日本ならちょっと贅沢な夕食レベルだけど、コッチの生活水準だと結構な金額だ。
「予算に応じてのぉ…………フフン♪」
唇に指を当て、真剣な表情を浮かべていた姫さまが、まるで新しいイタズラを思い付いた子供のような笑みを浮かべた。
「おい、料理人のソナタ――」
「静刀だ」
「シズト……?」
「一条橋静刀。オレの名前だ」
「シズトか……変わった名じゃのう」
大きなお世話だ。
「ではシズトよ。ソナタ、コチラの予算に合わせて料理を作ると申したな?」
「それがなにか?」
「ならば、五千ベルノの料理は作れるか?」
姫さまの言葉に驚いて、店中か再びザワめき出す。ステラに至っては、驚きのあまり再びフリーズしてしまっているようだ。
まあ、驚くのも無理もない。コチラの世界で五千ベルノもあれば、一家四人がひと月は生活出来る金額だ。
たとえ宮廷の料理でも、一食にそこまでは掛からんだろう。
「姫さまっ! いくらなんでも――」
「黙っておれ――シズトよ、出来るのか、出来んのか?」
何か言いたげな巨乳騎士を制して、挑発的な笑みを浮かべる姫さま。
ふんっ、おもしれぇ……
その挑発的な笑みに、コチラも挑発的な笑みで返してやる。
「それは、一人分か? それとも二人で、五千ベルノか?」
「なんじゃと?」
「品書きに書いてあるだろ? 懐石料理は、二人以上からだ」
「そう言えば、そうであったな。無論――」
オレ達のやり取りを――いや、姫さまの次のセリフを、固唾を呑んで見守る客達。
そして……
「一人、五千ベルノ――私とトレノの分、二人合わせて一万ベルノじゃ!」
姫さまの言葉に、周囲からは驚愕と歓喜の声が上がる。そして、あまりの事に、気を失って崩れ落ちるステラ――
ふむっ、責任者であるオーナーが不在なら仕方ない。ココからはオレが仕切らせて貰おう。