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戦乱の異世界で、◯◯◯は今日も△気に□□□中!!  作者: 宇都宮かずし
『戦乱の異世界で、『もと』ひきヲタ魔法少女は今日も吞気に冒険中!!』編 第一部 ホントに異世界来ちゃったのっ!?
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第15章 めざせ、花園ラグビー場

「ほら、この先に見える門が、伯爵さまのお屋敷だ」

「ど、どうもした……」


 ぐったりと馬車のシートにもたれかかり、なんとか声を絞り出す私……


 まさに、豆腐屋さんの86(ハチロク)並みのドリフトと片輪走行を繰り返して走ること数十数分。ようやく辿り着いた伯爵邸。


 てゆうか、辻馬車でこのドライビングテクニック……

 このおじさん……きっと若い頃は、名のある走り屋だったに違いねぇ……


 涙目で馬車を降り、おじさんの指差す方を見上げる私。

 なだらかな丘の上に見えるのは、大きく頑丈そうな鉄の門。そして、その先には大きなお屋敷が見える。


 これは、クリスちゃん達の言うように、かなり悪どく儲けているようだ。


「じゃあ、ここまででいいかい? あまり長くうろついてると、警備の奴らに目を着けられちまうんだ」

「うん、ありがとう、おじさん」


 私は、街中へと戻る馬車の背中を見送ると、軽く屈伸をして身体をほぐしてからペンダントを掴んだ。


「AWS起動っ、急々如律令っ!」


 走りながらAWSを起動させ、ウェアを装着すると右の拳に霊気を集中させた。


 そして――


「うおりゃあぁぁぁぁ~~っ!!」


 気合一閃っ! 突進の勢いをそのままに、目の前の頑丈そうな門に向け右の拳を打ち込んだ。


 のだが……


「あれ……?」


 私の予想を遥かに上回る規模で吹き飛んだ豪華な鉄製の門。そして、予想を遥かに超える轟音に半分以上消えていた部屋の明かりが一斉に灯った。


『カズサ。何度も言いますが、この世界はマナの濃度が日本とは違います。更に言えば、精鉄技術や溶接技術も未熟で鉄製品も向こうと比べればかなり脆いです。少しは加減して下さい』

「すみません……」


 思金のお小言に、しょんぼりと肩を落とす私。

 そんな私の元へ、騒ぎを聞きつけた方々が屋敷からゾロゾロと現れ、こちらへと向かってやって来る。


 無駄に広い庭を走る、揃いの執事服みたいな正装にとは不釣り合いな怖い顔のお兄さん達。


 さて、どうしよう……


 いくら悪の手下とはいえ、殺してしまう訳にはいかないし、かと言って普通の人間相手に闘うのは、加減が難しい。

 てゆうか、今も加減を間違えたばかりだし……


『そもそも、こんな派手な訪問ではなく、コッソリと忍び込めば良かったのではないですか?』


 ふむ。確かにその通り、実に正論である。しかるに、次回からは先に言って下さい。


 とはいえ、過ぎた事を気にしていても仕方ない――


「思金、錬成をお願い」


 そう言って、私はとある楕円形の球体をイメージする。


『御意。構成原子の解析開始』


 私のイメージする物体の構成を解析し、霊力を変換、結合させる思金。

 肩の水晶が輝き、私のイメージした通りの(いびつ)な球体が現れ、ポトリと地面に落ちる。


 不規則に弾む球体。それを踏み付けて止めてから、つま先で(すく)い上げると、私はその球体を両手でキャッチした。


『ところで、なぜラグビーボールなのですか?』


 そう、現れた球体といのは、いわゆるラグビーボール。そして、なぜそんな物を錬成したのかといえば……


「そんなの決まってるじゃん。そうゆう気分なのだからだよっ!!」


 そう断言する私。


 屋敷から現れた結構な数のお兄さん達。その全てを、手加減して気絶させると言うのは、正直めんどくさい。

 なら、そんな人達をいちいち相手にしていないで、ただひたすらにトライを目指し突き進むラガーメンのように蹴散らしながら進んで行けばいいのだ。


 そうっ! ここでラグビーボールを持つ事は、何事も形から入るというヲタクの本能とも言えよう。


「それに、かよわい乙女の体当たりで、大怪我するような人はいないでしょう」

『かよわい乙女の体当たりと言うより、ブレーキの壊れたダンプカーといった感じになりそうなのですが?』

「誰がダンプカーだっ!! 仮にそうだとしても、走行中のダンプカーの前に飛び出して来るなんて、そんなん怪我しても自己責任でしょ?」


 自己責任という都合の良い言葉で、自分自身に言い訳をする私。


「と言うわけで、OK思金っ! スクール◯ォーズの曲かけてっ!」

『ワタシを、アメリカの大手総合通信企業が出している、スマートでホームなスピーカーみたいに使わないで下さい。そして、ここで一般の歌謡曲をかけるのは、大人の都合的に色々と問題があるので出来ません』


 おのれ……ネット民とクリエーターの敵、JAS(ピー)ACめ……


『色んな人を的に回す様な、過激な発言は控えて下さい。それに、間もなく接敵しますよ』


 拳を握りしめ悔しがる私に向かって、物凄い形相で迫り来るコワモテお兄さん達。


「仕方ない、BGMは脳内再生だけで我慢しよう……行くよっ、思金っ!!」

「御意」


 私は一つ大きく息を吸い込むと、ボールを抱え、そのお兄さん達に向かって勢いよく走り出した。


「うおりゃあぁ~っ! めざせ和沙(カッ)ちゃん、甲子園っ!!」

『カズサ、ラグビーなら甲子園ではなく、花園ラグビー場ではないのですか?』

「あっ、そっか。じゃあ、テイク2――めざせカッちゃん、秘密の花園っ!!」

『何やら、途端に卑猥な感じになりましたね』


「うん、私もそう思う……」

『そもそも、なぜ「秘密の」などと言う余計な形容詞を付けたのですか?』

「い、いや~。花園だけじゃ、語呂が悪いような気がしたから……」

『それには同意します。しかし、もっと他に適切な言葉があったのではないでしょうか?』


「めざせ――の所を、突っ込め――に変えてみるとか?」

『どうして、そちら側を変えるのですか? それでは、カズサが隠し持っていた薄い本のタイトルみたいになってしまうではないですか?』

「確かに『突っ込め、秘密の花園へ』と言うタイトルの薄い本を持っていた事は認めよう。しかし、今は私のピュアなイメージが損なわれる様な情報を開示する時ではない――」

『御意』


 と、日本語の難しさと、情報管理の重要さを話し合いながら、向かってくるお兄さん達を次々と蹴散らしていく私達。


 程なくして辿り着いた屋敷のドアを蹴り破り、私はロビーへと入り込んだ。


「思金っ! タマモちゃんの気配はっ!?」

『一時の方向。正面右手通路の先と思われます。魔力反応、生命反応(バイタル)、共に低下中』


 くっ……と言う事は、思金の予感が当たったと言う事か……?


 私は急ぎ、思金の示す右手の通路へと――


「うげ……」


 急ぎ、右手の通路へと向かった私。しかし、そこには、表で蹴散らした男達の倍はいようかと言う人数が、狭い通路にひしめいていたのだ。


『どうしますか、カズサ?』

「どうするって……やっぱ、初志貫徹(しょしかんてつ)しかないでしょ」


 タマモちゃんは魔力もバイタルも低下中――一刻を争うって状態だ。そんな時に、こんな大人数を相手になんてしてられないよ。

 てゆうか、この屋敷には、どんだけの護衛がいるのよ、まったくっ!


 そんな事を毒づきなら、狭い通路で待ち受けるお兄さん達に向って走り出しだす私。


「そこをどけぇ~! って、コラァ、キサマーッ! どこを触ってんだっ! えっ? あまりに平ら過ぎて、どっちが胸か背中か分からないって? ふざけんなっ、コンチクショーッ!!」


 背後からタックルを仕掛けて来たお兄さんの股間を後ろ足に蹴り上げ、先へ先へと進んでいく私。


 とはいえ、そこは広い庭と違って狭い通路。状況は正に乱戦状態。強引に先へと進む私の動きを止めようと、飛びかかり、しがみつき、まとわり付いてくる男達……


 これが全員、爽やかイケメン集団だと言うのなら、もみくちゃにされてテンシヨも上がるのだろうけど……


 まあ、そこはやはり悪徳領主、ハートさまの部下達。日本で絡まれたら、財布を差し出して、ソッコー逃げだすコワモテお兄さんズである。

 もみくちゃにされても、まったく嬉しくない。てゆうか、セクハラで訴えたい。


「だから、まとわり付くなぁ~! そして変なトコ触れるなぁ~っ! そこは、背中じゃなくて、乙女の清らかなおっぱいだぁぁぁぁぁぁぁ~っ!!」


 そして、いい加減、有象無象に湧いて出て来るコワモテお兄さん達のセクハラ行為にブチ切れた私。


 手にしていたラグビーボールを、正面のお兄さん達に向って思い切り蹴り飛ばした。

 とはいえ、そこは楕円形のボール。更にほとんどラグビーなど見た事のない私。正面を狙ったボールは、右の方へと逸れていってしまったのだ。


 まあ、私的には完全なミスキックであったけど、それでもボールは正面右手にいたお兄さんに直撃。更にその後方にいた方々を巻き込みつつ、右手にあったドアを突き破りながら吹っ飛ばされていった。


『カズサ、ビンゴです。いま突き破った扉の先にある部屋から、玉藻前の魔力反応あり』


 よっしゃっ!


 ミスキックではあったけど、結果オーライだ。まっ、これも(ひとえ)に日頃の行い。きっと神様は、私の日々善良な(おこな)いを見守って――


『いえ、八百万(やおよろず)の神々の一人と言わせて貰えば、神は個人の(おこな)いなど、いちいち気にしてはいませんよ』

「夢もチボーもなくなるような情報はいらんわっ!」


 思金の、空気を読まない的確な正論にツッコミを入れながら、私は扉の吹き飛んだ部屋へと走り込んだ。

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