第11章 エクストラハードモード
私の初撃。突進力を活かして振るったバトルアクスの一撃で、先頭集団の8匹ほどが天高く打ち上げられ、宙を舞った。
「うりゃあっ! うりゃあっ! おりゃあぁぁーっ!!」
防御などまったく無視して、無双系ゲームの如く斧を振るいオークさんを蹴散らして行く私。
いや、そもそも防御など考える必要がないのだ。
なぜなら――
「どうなってるんだ、ありゃあ!?」
「剣が当たってるのに、怯むどころかまったくの無傷だと?」
驚きの声を上げる観客の皆さま方。
そう、オークさん達の剣も何度か私の身体を捉えていた。
しかしだ。そんなサビ付き、刃こぼれしている様な剣で、私のバリアフィールドが破られる訳がない。
敵陣に突っ込み、ひたすら敵を蹴散らしていく。気分は正に、爽快感抜群の無双系ゲームである。
そんな私の無双姿に、観客席の歓声がドンドンとヒートアップしていった。
「ふふふん♪ 私みたいな小柄で可憐な乙女が、重量武器を振り回しで敵を討つ。これぞ正に、ギャップ萌えっ!」
『なるほど――だからカズサの好きなアニメやゲームでは、カズサの様に小柄で胸の小さな女の子が大きな斧を持つという、非効率なケースが多々あるわけですね』
「そうそう、私の様に小柄で胸の小さな――って、誰の胸が小さいだっ!」
ノリツッコミと共に振り下ろした渾身の一撃っ!
が、しかし――
「あれっ?」
まさかの空振り。
今までひと振りで、コンスタントに2、3匹を空へと打ち上げていた私のバトルアクスが、初めて空を斬ったのだ。
「あっ!? コラ待て、逃げるなぁ~っ!!」
そう、全体の半分ほどが戦闘不能となったところで、オークさん達はいきなり回れ右。武器を捨て、まるで蜘蛛の子を散らす様に一目散と逃げ出したのである。
しかも中には、少しでも軽くなろうとでも思ったのか? 武器だけでなく防具すらも脱ぎ捨てる者もいて――
「コ、コラ~ッ!! 花も恥じらう可憐な乙女に、プラプラとグロいモノを見せるなぁ~っ!!」
左手で目を隠し、逃げ惑うオークさんを追いかけ斧を振るう私。
『目隠しをしていても、しっかりと指の間から見ているのですね』
「好きで見てるんじゃないよっ! あいにくだけど、私は心眼で戦えるほど達人じゃないんだよっ!!」
てゆうか、ナニ? 二次元では、ゲームや薄い本でオークの◯◯◯なんて見慣れているつもりだったけど、実物ってばこんなにグロいの?
クリスちゃん、気絶とかしてなければいいけど――
チラッと、横目で観客席を確認する私。
ああっ、アレなら大丈夫そうかな……
そこには、そっと顔を逸しながら、隣に座るクリスちゃんの両目を塞ぐティアナさんの姿があった。
まっ、ちょっと過保護過ぎの様な気もするけど。
そんな事よりも、とりあえず今はコッチを早く片付けてしまわなくては。
「こ、このぉっ! このっ!」
そもそも、全裸になろうとも、オークさんの敏捷性はそれほど高くはない。とはいえ、広い闘技場で散り散りに逃げられると、効率の悪化は避けられない……
「思金っ! バトルアクス、もう一本追加っ!」
「了解。構成原子の解析開始」
バトルアクス二刀流の荒技。おそらく、日本でやったなら失神確定の戦略だけど……
「高濃度マナ、様々だねっ!」
二本の斧で次々とオークさんを吹き飛ばして行く私。
まあ、それでも逃走する相手には、あまり効果的な方法じゃないけれど……
「思金っ、時間はっ!?」
私は、目の前に居た全裸のオークを逆袈裟で高々と打ち上げると、足を止め辺りを見渡した。
「現在、開始から53秒148」
「げっ!?」
思金からの返答に思い切り顔を顰める私。
残り時間が7秒で、残敵数が2匹。しかし、その2匹というのが、闘技場の反対――もっとも遠い場所にいるのだ。
くっ、ならば仕方ない――
私は身体を後ろへ逸しながら、二本の戦斧を大きく振りかぶった。
そして……
「くらえ~っ! ツイントマホーク・ブゥ~メランッ!!」
ブーメランとは名ばかりに、戻って来る気配など見せず回転しながら一直線に飛ぶバトルアクス。
「ブヒッ!」
「ブハッ!?」
「よっしゃー! ジャストミートッ♪」
あまりの勢いとスピードに、回避する事も出来ずにいたオークさん達。そして、恐怖に慄く表情を見せる2匹の大きなお腹へと、ちょっぴりキュートなバトルアクスがメリ込んだ。
白目を剥き、不快でグロいモノを丸出しにして倒れ込むオークさん――
「思金っ! 時間はっ!?」
「59秒027」
「シャオラ~ッ♪」
終了の銅鑼と観客さん達の歓声が湧き上がる中。私は天高く拳を突き上げた。