第9章 魔法少女 03
などと、観客席から信頼のお言葉を賜わっている事など露知らず。私は私で目の前の状況に驚愕し、目を見開いていた。
「オ、オーク……だと……」
通路と闘技場を仕切る鉄格子の先――タマモちゃんの背中の先の鉄柵に群がる、ブタさんの顔を持つ二足歩行の巨体の群れ。
奇声を上げ、ヨダレを垂れ流す醜悪な光景に、私は――
私は…………
私は……
私はっ!!
「生『くっころ』チャーンスッ!!」
と、歓喜の声を上げた。
巨乳騎士や姫騎士とオークさんの××は二次元で幾度となく見て来たけど、黒髪巨乳の乱れ和服とオークさんのカラミは正にゲ・キ・レ・アッ!!
しかも、それが三次元で拝めるかもしれない日が来ようとはっ!!
『お言葉ですが、カズサ。あの玉藻前がオークなどに屈するところなど、まったく想像できないのですが』
「想像できないとは情けない……こんなに妄想の捗るシュチエーション、そうそうないよっ! 思金は、少し女子力が足りないんじゃないの?」
『人工のデバイスですので、元々女子力などと言うモノは持ち合わせていません。それに、いくら玉藻前の魔力が低下しているとはいえ、オークごときに負けるとはとうてい思えません』
た、確かに、タマモちゃんとオークでは勝負にすらならないかもしれない……
だが、しか~しっ!
たとえ99%勝ち目はなくとも、1%あればそれに期待するのが私の妄想力だっ!!
「いえ、1%もありません」
乙女の夢をバッサリと切り捨てるな~っ!! アンタはトキ兄さんかっ!?
『とはいえ、一点だけ気になるのは――』
『あの、おもちゃの言葉かえ?』
アレ? 今ってタマモちゃん?
思金の言葉に続き、頭の中に直接言葉が――タマモちゃん念話が届いた。
『気付いてましたか。オーク達の手首に着けられた腕輪。恐らく、魔力ダメージを軽減する物だと思われます』
『であろうな……まっ、少しばかり軽減されたところで、あの様なブタ共を消し炭にするくらい造作もないわ』
余裕の笑みを崩す事なく、鉄柵に群がるオークさん達を見据えるタマモちゃん。
でも、魔除けの腕輪を着けたオークの群れ。1%はないかもしれないけど、万に一つくらいならっ!
「くっころっ、くっころっ、くっころ~っ!!」
観客席の声援に混ざり、オークさん達へ応援の声を上げる私。
『カ、カズサ……アナタという人は……』
呆れる様な声を出す思金。
しかし、判官贔屓は、DNAに刻まれた大和民族の証。不利な方を応援してしまうのは、日本人なら当然の心理なのだ。
『まっ、くっころはワシも嫌いではないでの。気持ちは分からんでもない。次の試験ではせいぜい、貧乳娘とブタ共のくっころを期待してやろうではないか』
うげっ……
そう言えば、次は私がオークさん達と闘うんだっけ……
てゆうか、貧乳言うなっ! 平均をやや下回ると言えっ!!
『え~っ、それでは、タマモさんのSランク試験内容を説明します』
私が抗議の声を上げると同時に、会場内にアナウンスの声が流れる。
マイクなんて文明の利器はないだろから多分、魔力かなんて拡声しているのだろう。
『試験は三十分以内にオーク100匹を殲滅、戦闘不能とさせる事。また、魔道士昇進試験の為、三十分のあいだ降参せずに生き残れば、それでも合格となります。ただし、試験開始前の強化魔法、遅延魔法、そして呪文の詠唱は禁止になります』
生き残ればぁ、とか……さらりと怖い事を言ってくれるなぁ……
でも、試験前に自分へ魔法をかけておくのはダメなわけか。じゃあ、私の場合、事前に変身してるのもダメかな?
『それは問題ないのでは? 剣士が鎧を、魔道士がローブを纏うのと同じですから』
「まっ、そっか。じゃあ、今のうちに変身しとこうかな。タマモちゃんの試験、どうせすぐに終わりそうだし」
『オークの方を応援していたのではないですか?』
「応援はしてるけど、現実的にタマモちゃんが負けるとは思えないし」
だから、タマモちゃんがオークからグチョグチョに陵辱されるのは、妄想の中だけで勘弁してやろう。
とはいえ、100匹もいるのだ。1匹くらいはタマモちゃんに、
『そ、そこは、らめぇ~~』
とか言わせるくらい、根性のあるオークさんがいる事を祈りつつ――
「AWS起動っ、急々如律令っ!」
通路の影に隠れる様にして、変身する私。と、同時に、試験開始の銅鑼が鳴り響いた。
『それでは、試験開始ですっ!!』