第四章 姫様降臨 03
「姫さまも、はしたのうございます」
「お、おお……そうであったな。許せ」
巨乳騎士が剣を収めると、姫さまも背筋を伸ばし威厳のある顔つきへと戻った。てゆうか、素の姫さまは、多分さっきの無邪気な笑顔の方なのだろう。
「それに時間も押しておりますゆえ」
「分かっておる――ソナタ。今度ゆるりと、ソナタの国の話を聞かせてくれ」
そう言って、再び店内を見渡し始める姫さま。
「ところで、この店の責任者は誰じゃ?」
姫さまの言葉に、店内の客全員の視線が一点に集中する。
「えっ? わ、わたし……?」
そう、驚いた顔で自分を指差し、裏返った声を出す、白い和ゴス服を着た美少女ハーフエルフへ……
「ソナタが……?」
その視線を追った姫さまと巨乳騎士は、訝しげに顔をしかめた。
そりゃあそうだろう。ステラの外見は、どう見ても十代半ばくらいにしか見えない。
しかし――
「ソナタ……エルフか?」
お姫さんは目敏く、ステラの大きな耳に気が付いたようだ。
「は、はい。ま、まあ、ハーフですけど……母はエルフで、父は人間でした」
「そうか、納得した」
軽く顔を伏せ、口元に笑みを浮かべる姫さま。エルフであるならば、見た目通りの年齢じゃない事は、この世界の常識である。
「今日はソナタに折り入って頼みたい事があって参った」
「た、たた、頼みたい事……で、でしゅか?」
「ふむ。来年は、我が父が王に即位して二十年目にあたる、節目の年であることは知っておろう? そこで――」
王族を前に、緊張して噛みまくりのステラ。姫さまはそんなステラを相手に淡々と語り出した。
まあ、内容を要約すればこんな感じだ。
来年は王様の即位二十周年。そして、王様の子供達――姫さまとその兄姉達は話合い、新年を祝う晩餐会で、各々が何かサプライズ的なプレゼントを用意しようと企画したそうだ。
そこで姫さまが考えたのは、王様が今まで食べた事も無いような料理を用意する事らしい。
そして、王都でも珍しい料理とウワサになっている、ウチ店の視察に来たそうだ。
てか、王都でそんなウワサが流れているとか初めて知ったぞ。
「どうじゃろう? 費用や謝礼は十分用意しよう。じゃからその折には、ここの料理人を貸しては貰え――」
「お断りします」
姫さまとステラの話に割り込んで、被り気味に拒否の返事を返すオレ。
そんな金持ちの道楽に付き合っていられるか!
しかし、その返事に対して、真っ先に噛み付いたのは姫さまではなく巨乳騎士――
「うぬぼれるなよ、小僧――これはキサマが相応の腕前であることが前提の話だ。そして私は、キサマのような無礼な小僧にそんな腕前があるなどと、端から思っていない」
鋭い眼付きで睨む巨乳騎士。しかし、その刺すような視線を仏頂面で受け流すオレ。
てゆうか、そんな腕前がないと思っているのに、こんな田舎街まで遥々やって来るとは――
この騎士様も、姫さまの道楽に付き合わされているクチか? 宮仕えも大変だねぇ。
「控えよ、トレノ」
「しかし姫さまっ!」
「良いから下がっておれ」
巨乳騎士を下がらせて一歩コチラへ踏み出すと、軽く頭を下げる姫さま。
「部下が失礼な事を言ったな。許してくれ」
「そ、そんなっ! 姫さまが頭を下げるなど――」
前に出ようとする巨乳騎士を、姫さまは姿勢を崩さずに軽く手を上げて制する。
そして、この態度には為政者嫌いなオレでも、少なからず好感が湧いた。
「気にしてないよ。見ての通り、生意気な小僧だから」
「さようか、安心した――じゃが、トレノの言った事も一理じゃ。そこでソナタの腕を見せて貰いたい。明日、この店を貸し切りたいのじゃが、どうじゃろう? 無論、その分の金も払おう」
姫さまの言葉に店内がザワ付く。店を貸し切るなんて、庶民にはない発想だ。
とはいえ、王族のお姫様が下々の者達と一緒に食事なんて出来んわな。