第8章 冒険者 01
「つまり、身分証とは別に、その冒険者というのに登録すると色々と特典があるって事?」
「もう、和沙……ざっくりと言えばそうですけど、少しざっくりし過ぎです」
一通り、冒険者に付いて説明を聞き終えた私達。そして、その私の口から出た質問に、隣で同じ話を聞いていたタマモちゃんが、ため息混じりに肩を竦めた。
すみませんね。語彙力がなくて……
ちなみに、私の言った特典とはどんなモノがあるのかと言えば、まず冒険者ギルドがある街であれば、無審査で入る事が出来る事。そして、宿屋などにも割引価格で宿泊出来、入手したアイテムなどをギルドが適正価格で引き取ってくれると言う。
これは、コチラに来たばかりで、物価の相場を知らない私達にはかなり魅力的である。
更にギルドは、魔物の討伐に対しても報奨金を出してくれると言う――
正に、ゲームなどによくあるシステム――私のよく知る、ファンタジー系RPGのシステムだ。
これはもう、タマモちゃんの仮説が正しいと思って良いのではないか?
「それで、クリスちゃん。その冒険者って、どうすればなれるの?」
「はい。まずその冒険者なのですが、SからEまでの六つのランクがあります」
SからEとなっ!?
この世界にも、アルファベットがあるの?
『いいえ、ありません。本来は全く別の単語ですが、カズサに分かり易い表現で翻訳しています』
ああ、なんだ、そういう事か。
ヘッドセット越しとはいえ、あまりにも自然に聞こえてくるもんだから、同時翻訳されている事を忘れてたよ。
思金の解説に納得し、内心で頷きながらティアナさんの説明に再び耳を傾ける。
「最初のEランクですが、これは学科試験だけ――つまり、筆記試験にさえ合格すれば貰えます」
ひ、筆記……だと……?
終わった……何もかも……
「カズサさん? どうかなさいました?」
「いえ、別に…ハハハ……」
乾いた声で笑いながら、真っ白な灰の様になって力なく椅子に持たれ掛かる私。
だって、筆記とか言われても、どんな問題が出てくるのかも想像出来ないし、何よりコッチの文字なんて読めないし……
「とはいえ、筆記に関しましては、私の方で免除する様に要請しておきます」
「えっ?」
真っ白な灰から復活して、軽い感じで免除とか言ってのける騎士さまに驚きの目を向けた。
「え、え~と……いいの? とゆうか、そんな簡単に免除とか出来るの?」
「はい。私の実家――バレンタイン侯爵家は、各街にあるギルドのまとめ役。いわゆる理事長をしていますので、そのくらいは問題なく」
侯爵家となっ!?
思わず『爆発しろっ!』とか言いたくなる、リア充イベントみたいな家名だけど、それはとりあえず置くとして……
侯爵といえば、貴族の中でも高位貴族だったはず。さすがに女性だし、跡取りという事はないだろうけど――そんな人を護衛にお忍び旅行とか、クリスちゃんってば、ホントに何者なの……?
驚きの目を向ける私に、クリスちゃんはイタズラっぽく舌を出して笑みを見せる。
な、謎だ……
「とはいえEランクでは、カズサ殿が言う所の特典と言うものは殆どありません。物品の適価買い取りと討伐の報酬を受けられるくらいです」
「それに、その討伐報酬もランクが上がるほど上がる様になっておりますから、EランクとSランクでは、同じ魔物を討伐しても報酬は倍近く違うようです」
なるほど……ならば、早く上のランクになった方がお得だ。
「じゃあ、そのランクっていうのは、どうやって上げるのかな? やっぱり、たくさん討伐して、経験値を上げて行くの?」
「いえ、コチラは実地試験で、それに合格すれば上がる様になってます」
「実地……試験?」
「はい。闘技場のある街に出向き、ギルドの試験官を前に規定の敵と戦い、規定をクリアすれば合格となります」
規定の敵に規定をクリア?
なんか持って回した言い方だな……
「その、規定のクリアってどういう事? 単純に倒すだけじゃダメなのかな?」
「いえ、ダメという事はありません。ただ……そうですね、例えばAランク以上の試験は、一人でも冒険をこなせるという事を見せなくてはなりません。つまり、一人で複数の敵に囲まれた時にそれを対処出来るかと言う事」
「例えば、魔道士ならば本来、味方の後ろで呪文を詠唱し、敵を殲滅するのが役割です。試験では、そんな魔道士が一人で複数の敵と遭遇した場合、どう対処するかというのを見る訳です」
「はい。だから同じAランクの試験でも、剣士と魔道士では、戦う敵が異なりますし、倒せなくとも、その複数の敵から上手く逃げ切れれば合格となる場合もあります」
なるほど……結構、複雑な仕組みだなぁ……
しかも、審判の印象も強そうだ。
「横から少々、失礼――」
ここまで口を挟む事なく、静かに話を聞いていたタマモちゃん。少しだけ眉を顰めながらも、穏やかな口調で話に割って入る。
「そのランクとやらですが、順番に上げて行く必要があるのですか? それとも、いきなりSランクを取る事も可能なのでしょうか?」
おおっ! それは確かに気になる所だ。私達は、一年以内にタマモちゃんの魔力を回復させる方法を見つけなくてはならない。ちまちまとランクを上げて行く暇などないのだから。
「いえ。Eランク取得後は、どのランクにも挑む事が可能ですよ」
「ただ……上位のランクなどは、失敗して大怪我をする方などが絶えません」
「そうですね。それに、怪我で済めば良い方です。毎年、死者も多く出ていますし」
何それ、怖っ!?
ダメだよ、試験で怪我人とか死人とかだしちゃ。安全管理がなってないよ、まったくっ!!
『このお気楽娘は、何を平和ボケした事を申しておる……? この世界は、戦乱にして数多の魔物がおる世界。死が常に隣り合わせの世界なのじゃぞ』
そ、そうかもしれないけどさぁ……
『そも、冒険者とは元々、命を掛けるのが生業じゃ。それに日の本とて、この世界くらいの時代には同じ様な――いや、それよりも命を軽んじておったぞ』
うっ……
み、見てきた様な事を……って、ホントに見てきたのか。
『主君の為に死す事が武士の道。世界でも、最も忠高き臣と謳われた武士達が、その身命を賭し、多くの血を流して築き上げたのが、今日の日の本じゃ。じゃが、その末裔が、こんな平和ボケのお気楽娘になっておるとは……先人達も草葉の陰で泣いておろうよ』
ぐ、ぐぬぬぬぬ……
言いたい放題のタマモちゃんを、横目で睨み付ける私。
な、何もそこまで言わなくったて……それに、私のご先祖さまは、武士じゃなくて農民かもしれないし。いや、士農工商の比率を見れば、武士の可能性の方が少ないよ。
『いや、お主の先祖は、確かに武士であったよ』
えっ? そ、それって……
タマモちゃんから出た、とても意味深な言葉。
私がその真意を問おうとすると、タマモちゃんは更に意味深な笑みを浮かべ、話を逸らす様にティアナさんの方へと目を向けた。