第四章 姫様降臨 02
「トレノに剣を突き付けられても顔色一つ変えんとは、中々に肝が座っておるな」
「そりゃどうも……」
後ろへと下がった女騎士に変り、前へと出る赤髪少女――
と言っても、年はオレと同じか少し下くらいだろう。
しかし、その堂々した威厳のある口調や立ち振る舞いは、年不相応に大人びて見えた。
「名乗るのが遅れたな。妾は、サウラント王国第四王女、シルビア・サウラント・ヴァリエッタじゃ。以後見知りおけ」
赤髪少女の自己紹介に、店内がザワ付き再び騒然となる。
お客さんはみんな箸を持つ手が止まり、ステラにいたっては完全にフリーズして固まってしまったようだ。
てか、王女だぁ? そんなお偉いさんが、こんな小さな店に何の用だよ?
「キサマッ! 姫さまが名乗りを上げたのに、何だその態度は?」
「トレノッ! 控えよ」
「しかし、姫さま……」
お付きの騎士は、お姫さまの自己紹介を胡散臭い目で見るオレの態度が気に入らないらしい。
「すまんのぉ。主は権力者や為政者、政に携わる人間に、思うところがあってな。決してソナタら個人を嫌悪しとるワケではないのじゃ」
このままでは話が進まないと判断したのか? オレ達の間にラーシュアが間に入る。
「ふむ……我がサウラント王家は、民に慕われておると思おておったが、思い上がりであったか?」
「い、いえ、姫さま! そんな事は――」
まあ、あの姫さまの言う通りだろう。この国は他国と比べて治安もいいし、税率も低い。ほとんどの国民が、王家に対しては好印象を持っている様に見える。
しかし……
「いや、この国ではなく、主の生まれた国の話じゃ。主はそこで、政治家どもの腹黒い裏の顔を散々見てきたからのう。それで為政者嫌いになったのじゃ」
「ほう、元は他国の人間かぁ……?」
「うむっ。まあしかし、主は基本的にスケベで女好きじゃからな。すぐに機嫌も良くなるじゃろう」
誰がスケベで女好きだっ!?
…………まあ、あえて否定はしないけど。
それに為政者や政治家、権力者は確かに嫌いだが、二人の大きな胸には罪はない。そう、おっぱいに罪はないっ!
これ、大事なことなので二回言っておく。
「して、その方。どこの国の生まれじゃ? ウェーテリードか? それとも――」
「日本……大陸からは遠く離れた島国だ」
とはいえ、すぐに態度が変わるワケもなく。姫さまの質問へ、ぶっきらぼうに答えるオレ。
まっ、遠く離れたと言っても、距離ではなく次元やら時空の話だと思うが。
しかし、そんな無礼な態度で返した言葉にもかかわらず、姫さまは目を見開き、驚きの表情を見せる。
まっ、この反応は慣れたもの。
この話を聞いた人間の反応は、だいたい二通り。姫さまのように絶句するくらい驚くか、ホラ話と笑い飛ばされるかの二つだ。
この世界では航海技術があまり発展しておらず、大陸の外がどうなっているのか――いや、人間が居るのかすら分かっていない。
大陸に住む人間からすれば外の人間など、さながら地球外生命体みたいなものだろう。
そして、見慣れた反応を見せていた姫さまが次にとった行動も、やはり見慣れたモノだった。
「なんとっ! ソナタ、大陸の外から来たと申すのかっ!?」
子供のみたいに無邪気な笑顔で駆け寄り、カウンター越しに身を乗り出すお姫さま。
その、あまりの勢いに、カウンターへ座っていた客が自分の食器を持って退避する。
「外の世界とはどうなのじゃ? ソナタや給女達の服も、こちらではあまり見かけんが皆そのような服を着ておるのか? 食べ物はどうじゃ? やはりここに並んでいるモノは、ソナタの国の料理なのか? それに――」
瞳を輝かせ、矢継ぎ早に質問を重ねる姫さま。
そして、そのたびに弾む、大きく揺れる胸……
て、てゆうか、そんな胸元の空いた服で、身を乗り出したらマズイから。服の隙間から、柔らかそうな山の頂きにあるピンク色が――てっ!?
突然、姫さまの後ろから剣が伸び、その切っ先がオレの鼻の下に触れる。
「キサマ……随分と鼻の下が伸びておるな。少し切ってやろうか?」
「え、遠慮しておきます……」
剣の持ち主は言うまでもなく、あの巨乳騎士。
その剣には少し切るどころか、このまま顔面を貫通させる事も厭わないくらいの殺気がこもっていた。
「なんじゃ、もう機嫌が治ったのか? 男とは単純で悲しい生き物じゃのぅ」
「むうぅ~~」
ラーシュアとステラからの非難の視線を受けながら、鼻を押さえて後退るオレ。
しかし、大事なことなので敢えてもう一度言おう。
おっぱいに罪はないっ!!