第4章 お友達 02
えくすきゅーずみー、あてんしょんぷりーず。ふいっしゅ おあ ちきん? それとも、わ・た・しぃ(ハート)?
私はフライトを終え、キャリーケースを後ろ手で引きながら歩くスッチーさん(死語)の如く、優雅な足取りで無舗装の街道を進んでいた。
まあ、優雅に後ろ手で引いているのは、キャリーケースではなく馬車なのだけど。
クリスちゃんとティアナさん。どちらが街に行くにしても、大きなデメリットある。かと言って、馬車を残して二人で行くわけにもいかない。
なら、どうするか? 話は簡単だ。馬車を修理して全員で行けば良いだけの話である。
そう、今の私はなら、車輪や車軸程度の錬成など簡単に出来るのだから。
しかも――
「こ、これは、驚いた……」
「凄いです。馬車が全然揺れませんわ」
そう、ショックを吸収しない木製の車輪ではなく、アルミフレームのゴムタイヤにバージョンアップしてあるのだ。
とはいえ、馬車自体にサスペンションが着いていないのだから、『全然揺れない』と言うのは少し大げさだろう。
「しかし、カズサ殿。本当に良いのですか? これだけの事をして貰って、あんなに少ない報酬で……?」
「はい、構いませんよ。なにより情弱では、生きていけませんから」
「じ、じょうじゃく……?」
私の発したネットスラングに首を傾げるティアナさん。
ちなみに、そのティアナさんが口にした、少ない報酬とは何か。
この件に対して、私が提示した即物的な報酬は数日の宿と食事の保証だけである。
クリスちゃん達は、この先の街に3、4日ほど滞在するらしい。なので滞在のあいだ、私の宿と食費もお願いしたのだ。
しかし、当然それだけではない。即物的な報酬とは別に、この世界の事を教えて貰う事にもなっている。
特に、思金の能力ではサーチ仕切れない、この世界の情勢や文化などを教えて貰おうと思っている。
そうっ! 元がネット世界の住民である私。
情報こそが最大の武器。情弱は淘汰され、情報を制す者が世界を制すっ!!
と言うのが、私の信条なのだ。
「でも、カズサさんが異国人だったとは、本当に驚きました。ところで、カズサのお国はなんと言うのですか?」
「えっ? ああ~と……そ、そう! 遥か東方の国、ジパングと言うんだよ」
クリスちゃん口から出た、異国人と言う言葉。
異世界から来たなどと言っても、恐らく意味が分からないだろうと思い、とっさに外国から来たと言ってしまったのだ。
聞けば、この世界では航海技術があまり発展しておらず、大陸の外がどうなっているのか――いや、人間が居るのかすらも分かっていないらしい。
なので、『船で航海中に大きな竜巻に飲み込まれ、気が付いたらあの森にいた』と、いう事にしてある。
少々――いや、かなり厳しい言い訳だとは思ったけど、あっさりと信じた二人。
クリスちゃんだけでなくティアナさんも、もう少し人を疑う事を覚えた方がいいですよ。
でないと、悪い男に騙されて、最後にはオークに囲まれ『くっ……殺せ……』な展開に――
い、いや、それはそれで見てみたいかも。
『カズサ。妙な妄想は、程々にして下さい。鼻血が出てますよ』
おっと、いけねぇ。
ヘッドセットから聞こえる思金の忠告に、私は慌てて鼻の付け根を摘んだ。
後ろの二人を警戒しているのか? それとも気を使っているのか?
先ほどから思金は、ヘッドセットを通して声を伝えて来ているのだ。
「ところで、カズサさん。そのジパングでは皆さん、その様な奇抜な格好を着ているのですか?」
き、きば……
天然お嬢さまの歯に衣着せぬ物言いに、思わず頬を引きつらせる私。
「い、いやぁ……あまり見かけない……かな?」
「そうなのですか?」
夏と冬に、ビックサイトで行われる大型イベントなんかでは見かけるかもだけど。
まあ、セーラースク水に、肩当てなんかのギミックを着けた様な格好……確かに奇抜と言えば奇抜格好である。
設計者のDr杉田曰く。とりあえず、コンセプトは魔法少女という事らしい。しかし、当然にして日曜日の朝に放送していた様な子供向け魔法少女でない。
深夜にやっていた大きなお友達向けの魔法少女に近い様な気もするけど、それよりも若干露出が高く、どちらかと言えばエロゲーの戦う変身ヒロイン系魔法少女に近い気がする。
えっ? なんでJKなりたてのぴちぴち15歳が、18禁ゲーの事なんか知っているのかって?
……
…………
………………
こまけーこたぁ、いいんだよっ!!
ま、まあ、とにかく……
当初はめちゃくちゃ抵抗があったし、製作者のドクターには殺意すら覚えたものだけど…………慣れというのは恐ろしいものだ。
「こ、この格好は、戦闘服というか、魔法を使う為の服というか……まあ、普段はちゃんと普通の服を着ているよ」
この世界で、セーラー服が普通かどうかは分からないけど。
「なるほど。では、カズサ殿のそれは、魔道具みたいな物なのですか?」
「そうですね。この格好をやめて普通の格好に戻ったら、馬車の車輪も消えてしまいますし」
何より、こんな大きな馬車を引く力なんて、私にはないし。
「では、街へ入る時には、普通の服装に戻るのですね?」
「はい、そのつもりです」
「そうですか。少し安心しました」
「ん?」
ティアナさんの物言いに、首を傾げる私。
「安心……ですか?」
「はい。この先にあるカノープスの街は、領主ハート伯爵が治める大きな商業都市なのです。高い街壁に守られており、出入り口は東西南北の四つだけ。そして、その四つは関所になってまして、街に入るのに厳正な入領審査が必要なのです」
に、入領審査……? それって、空港の入国審査みたいなやつ?
私、パスポートもビザも持ってないんですけど……
「カズサさんは、異国から来たのですから、身分証をお持ちではないのでしょう?」
「え? ああ、まあ……」
学生証なら持っているけど……ダメだよね、きっと。
「とはいえ、身分証がなくとも、お嬢様の家の家格を考えれば、その賓客であるカズサさんの入領を拒むなどという事はないでしょう」
「はい。カズサさんの身分は、お友達のわたくしが、保証致しますわ」
おおっ! さすが良家のお嬢様。人助けはしておくものだ。
「それと、街に着いたらすぐにでも、カズサさんの身分証を発行させますわね」
「何から何まで、お手数おかけします。いや~、ホント助かります」
「お友達なら当然です」
ふむ、やはり持つべき物は友達だ。
私的には、いつの間に友達になったのかも、こんな簡単に友達になれるものなのかも分からないけど。
「それはそれとして、カズサ殿の服装……その少々淫らな――」
「み、みだっ!?」
「い、いえ、少々露出の高い奇抜な服装が普段着だとすると、入領審査で少々手間取るかと思っていましたが、着替えるのでしたら問題ありません。杞憂でした」
いやいや、言い直しても、大して変わってないよっ! それに、ティアナさんの胸元の開いた半乳丸出しの甲冑も大概だよっ!!
「でも、もしもの時には、わたくしの服をお貸し致しますわ。背丈は同じくらいですし」
ごめん……身長が同じくらいでも、とある部分がスカスカになりそうだから遠慮します。
てゆうか、ティアナさんの陰に隠れて目立たないけど、よく見るとクリスちゃんのモノも、馬車が揺れる度にプルンプルンと弾んでやがるし。
お、おのれ……確かに愛希も、私より3カップほど大きかったけど、そんなトコまで似なくてもいいだろうに……
心に血の涙を流しながら街道を進んで行くと、前方に石を積み上げて作られた大きな防壁が見えて来た。
おおっ! ファンタジーアニメやゲームでよく見かける街壁だ。
コッチに来て初めて見る本格的な大型建造物に、ホントに異世界に来たのだという実感が湧いて来る。
「カズサ殿。少し停めてもらえるか」
「え? はい」
私が馬車をゆっくりと停車させると、御者席に座っていたティアナさんヒラリと馬車を飛び降りた。
「お嬢様。先行して、入領手続きと馬車の受け入れ準備を進めて参ります」
「はい、気を付けて下さい」
「はっ!」
純白のマントをなびかせ、颯爽と走り出すティアナさん――
って、だから、乳を揺らすなぁ~っ!!