第四章 姫様降臨 01
「はいっ! 天丼大盛り二丁、お待ちっ!」
「はーい」
ステラはカウンター越しに天丼が乗った二つの御膳を器用に受け取り、それをテーブル席で待つネコ耳巨乳のお姉さま達の元へと運んで行く。
昼間に引き続き、また足を運んでくれたミラさんとプレオさん達だ。
「おおっ! うまそぉっ!」
「それに、とってもいい匂いだわ」
ちなみに丼の上に乗っているのは、車エビ二尾に穴子と鱚、そして舞茸とナスにカボチャの七品。そこに豆腐とワカメの味噌汁とキュウリの浅漬けが付いている。
「いや~、魚にこんなたくさんの食べ方があるとはなぁ」
「ホント。今までは、塩で焼くくらいしか無かったからね」
穴子にかじり付くミラさんの言葉に、鱚を頬張るプレオさんが同調する。ネコの獣人だけあり、魚料理が好物なようだ。
さて、夜の営業時間も終盤。店内は満席状態だけど、料理は一通り出し切ったので、少しずつ後片付けでも――
「邪魔をするぞ」
片付けでも――そう思った時だった。店の扉が開き、よく通る澄んだ声が聞こえてくる。
「おおぉぉおっ!」
その声に振り返ったオレは、思わずカウンター越しに身を乗り出した。
驚きと感嘆の声を上げるオレの視線の先に立っていたのは、胸元の空いた露出の高い甲冑を纏う美女と、礼装風でありながら胸あきのトップスにタイトなミニスカートの美少女。
甲冑美女が後ろでひとつに束ねた長い銀髪で、ミニスカ美少女が赤髪のセミロング。
髪色はウチの常連美女達と被っている感じだが、ワイルド系のミラさん達に対してコチラはどこか気品があり、厳かで上品な印象だ。
何より甲冑美女の持つ山脈は、ミラさん達のモノよりも大きいのではないか?
そう、それはまるで、遥か遠い故郷の富士山の如く。そして白い肌は、富士の山頂に積もる万年雪の如し。
やはり、日本人なら富士の山は心の拠り所。その山に心惹かれるのは、DNAに刻まれた大和民族の証。
どうして山を凝視するのか? それはそこに山があるからだっ!!
「主よ、山だ山だと言いながら、なぜ谷間ばかり見ておる」
「うるさい、黙れ。そして、勝手に人の考えを読むなっ!」
ラーシュアの突っ込みに反論しながらもオレの目は、その魅惑の谷間に釘付けになっていた。
「はあぁぁ~、主よ……その一点しか目に入らぬ驚異的な集中力には、シビレもせんし憧れもせんが、その視点を右に五寸ほど動かしてみよ」
五寸? 約十五センチ――
いや、確かにそこには最も拝みたい山の頂きがあるけど、さすがのオレでもあの鋼の鎧は透視出来ない……ぞ?
それでも、一応確認とばかりに視線を右にずらしてみると、オレ視線は再び釘付けになる。
しかし、気分は先程までと正反対。正に富士QのFU・JI・YA・MAなみに急降下した気分だ。
そう、そこにあったのは、鷹をモチーフにした王家の紋章。
一応、隣の美少女の左胸も確認してみるが、やはり同じ紋章が刺繍されていた。多分、王国に仕える人間と、その護衛騎士ってところだろう……
つまり、オレの嫌いな権力者……政治に携わる人間だ。
「随分と小さな店ですね」
「ああ、そうだな――しかし、噂通り見た事のない料理ばかりだ」
入り口で店内をキョロキョロと観察している二人組に、パタパタと駆け寄るステラ。
「す、すみません。ただいま満席になっていまして――」
「という訳で、お帰りはあちら」
「ちょっと、シズトさんっ!?」
王家に仕える人間に、少し緊張気味だっだステラ。
そんなステラのセリフへ、ぶっきらぼうに言葉を被せるオレ。
当然のようにステラから非難の声が上がるが、視線を反らしスルーするオレ。
大人気ないとは分かっていても、こればっかりは簡単に変えられるもんじゃない。
そして、そんなオレの態度に、お付きの騎士さまが前に出る。
「随分と無礼な料理人だなっ! キサマ、ここにおわす御方をどなたと心得るっ!?」
「どなたと心得るって……水戸の黄門さまかっ?」
「こ、こここ……肛門だとぉーっ!? キサマーッ! 不敬罪で頸を刎ねられたいかっ!?」
なんてお約束な勘違い……
顔が真っ赤になる程に逆上した女騎士は腰の剣を抜き、その切っ先をオレに突きつけた。
そんな女騎士の行為に、店内は騒然とし、ステラはオロオロ、ラーシュアはため息。そして当のオレは、顔色を変える事なく、漠然とその切っ先を眺めていた。
「やめんか、トレノ」
「し、しかしっ!」
「いいから、下がっておれ」
「は、はい……」
トレノと呼ばれた女騎士は赤髪少女の言葉に従い、渋々と剣を収め、後ろへと下がった。