第2章 異世界よこんにちは 01
『落ち着きましたか、カズサ?』
「うん……」
0.000000001%という、人型決戦兵器の起動並の確率を引き当てた私。
その受け入れ難い現実に思わず取り乱し、何故か一人ラジオ体操という意味不明の暴挙に出てしまった。
しかも、第一だけでなく、第二まで……
そして只今、最後の深呼吸を終え、地面にペタンとおしりを着いたところである。
しかし、ラジオ体操なんて小六の夏休み以来なのに、身体は結構覚えているのもだなぁ……
『では、落ち着いたところ大変申し上げにくいのですが――まず最初にとても残念なお知らせをしなくてはなりません』
「え……?」
残念な……?
まさかっ! 異世界は異世界でも、人類が存在してない世界とか、そういう――
『先の魔力衝突の衝撃にAWSが破損し、カズサの両乳房が丸出しになっています』
「だからそう言う事は、早く言えぇぇぇ~っ!!」』
私は慌てて立ち上がると、右手で胸のペンダント――思金を掴んだ。
「AWSパージッ、急々如律令っ!」
発光と共に私の霊力で物質化していたウェアが消え、粒子化され思金に収納されていた学校指定の制服姿へ――AWS起動の直前まで着ていた服装へと戻る。
ちなみに、思金のこの機能。粒子化された時にホコリや汚れが綺麗に除去されるので、洗濯要らずという、チョー優れ物なのだ。
さすが三種の神器の一つ、八坂瓊勾玉を元に、科学と魔術の粋を集めて作った自立型デバイス。
とても、あの変態ロリコン博士が作ったとは思えない、至高の一品である。
『しかしカズサ。いくら洗濯要らずと言っても、年頃の娘が一週間以上も同じパンツを履き続けているのはどうかと思いますよ』
「うるさい黙れ。そして、私の思考をトレースするのはやめろ」
『御意』
ま、まあ、こういうところは、いかにも『Dr杉田・作』と言った感じだけど……
しかし、いくら洗濯要らずと言っても、それはあくまで衣類の話であり、本体の方は別の話である。
私は自分の腕を鼻に近付け、匂いを嗅いだ。
「うっ……汗臭い……」
まあ、あんな激闘の後だ。それも当然と言えば当然である。
とはいえ、周囲に銭湯やシャワー完備の漫画喫茶あるようには見えない。とゆうか、こっちで使えるお金を持っていない……
『カズサ。もし行水を希望なのであれば、西へ300メートルほど行った先に湖がありますよ』
「ホントッ!?」
思金からもたらされた情報に、私は目を輝かせる。
『はい。カズサが乳房丸出しで眠りこけている間に、半径20キロ圏内は全てサーチ済みです』
「余計な事は言わんでいい……」
『御意――更にその湖から4キロほど進めば、大きな街もあります』
「街っ!?」
『はい。街の状況もサーチ済み。比較的治安は良いようです。更に使用言語も習得してます。AWSでヘッドセットを装着すれば、同時翻訳も可能です』
「おおおぉぉ~」
思金のいい仕事っぷりに感嘆の声を上げる私。
いや~、ホント使える奴だな、キミは。キミが男なら、あたしゃあ惚れてとるよ、きっと。更にイケメンだと言うのなら、純潔を捧げても――
『別にいりません』
「失礼だなっ、チミはっ!!」
『文化形態と文化レベルは中世のヨーロッパに近く、国王を頂点とした君主制国家。通貨は金、銀、銅と、三種類の硬貨のみで、単位はベルノ――』
近くにあると言う湖への道すがら、思金からの報告に耳を傾ける私。
詳しい原理は分からないけど、この便利アイテムちゃんのサーチ能力は、霊気の動きや流れから約五十キロ先まで見透かせ、会話の内容まで把握出来るらしい。
しかも、動力はエコに優しく、使用者|(この場合は私)の霊力のみ。まあ、使い過ぎると、私の方が貧血をおこしたりするけど。
『更に、この大陸には人間の他、獣人と呼ばれる亜人やエルフにドワーフ、はては龍族に魔族などといった様々な種族が生息している様です』
エルフにドワーフ、それにドラゴンに魔族……
なるほど、アニメやゲームなんかでよく見る、標準的なファンタジー世界か。
『また、大気の成分に、人体へ悪影響を与える物は検出されず、酸素濃度も20%前後と地球と大きく変わりません。ただ、大気中のマナの濃度が、日本とは比べ物にならないくらい高いです』
「マナ……? それって確か、神秘的な力の源で、魔法や霊能力の源とされるモノ……だっけ?」
授業で習った聞きかじりの知識を引っ張り出す私。
学校が霊能力を集めた学校だから一般教養の他にも、そういった授業もあったのだ。
『はい。これだけ高い濃度でしたら、AWS起動時における身体への負担もかなり軽減されますし、怪我の治りも早い。何より、日本にいる時よりも高出力の魔術が使用可能です』
そうなんだ……
そういえば、玉藻前戦で霊力をかなり消費したはずなのに、もうすっかり回復してるし怪我も殆ど治ってる。
「なんにしても、怪我が治ってるのはいい事だ。乙女の柔肌に大きなキズでも残ったら、嫁の貰い手がなくなるところだったよ」
『えっ?』
私の安堵の言葉に、何故か疑問符を浮かべる思金。
「なに? 私なんか変な事、言った?」
『いえ、キズが無ければ嫁の貰い手があるとでも思って――もとい、カズサに嫁へ行く気があったのかと』
「ホント失礼だなっ、チミはっ!!」
思金の私へ対する認識に、不満が爆発寸前の私。
が、しかし――