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戦乱の異世界で、◯◯◯は今日も△気に□□□中!!  作者: 宇都宮かずし
『戦乱の異世界で、和食屋『桜花亭』は今日も元気に営業中!!』編第二部 桜の木の下で……
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次回予告 もう一人の転生者

 季節は少し戻って、夏から秋へと差し掛かる頃。


 爽やかな風が吹き抜ける、午後のひと時。ラストオーダーを作り終えたオレは、そろそろお昼の(まかな)いでも作り始めようかと、お手製の簡易冷蔵庫に手に――


「うぉお~い。シズトっちぃ~。升酒(ますざけ)、もう一杯ねぇ~」


 そう、正に冷蔵庫へ手を伸ばそうとした時だった。カウンター席の一番端の席から、呂律の怪しい声が上がった。


「ちょっと、ミラさん……? いくらなんでも、昼間から飲み過ぎですよ」

「いいんだよぉ~、たまの非番にゃんだから~」


 おっ? いま『にゃんだ』って言ったか?

 こっちに来て猫耳さんはたくさん見たけど、『にゃん』は、初めてきいたぞ。ちょっと感動した。


 そう、カウンター席の一番端で酔い潰れているのは、猫耳巨乳に露出の高いビキニアーマーを身に着けた、警備隊の一人、ミラさんである。

 オーダーストップの時間は過ぎているけど、今の『にゃん』に免じて、もう一杯だけ出してあげる事にしよう。


「はい、これで最後ですからね」

「うほぉ~♪ やっぱシズトっちは、優しいなぁ。お礼に、好きな時におっぱい揉んでいいからなぁ」


 なんですとーっ! では、早速いますぐに――

 じゃなくて……


 六つのジト目を向けられて、伸ばしかけた手を、ピタリと止めるオレ。


 危ない危ない……考えるよりも早く、反射的かつ本能適当に手を出してしまいそうになってしまった。


 ちなみに、向けられた六つの目、三人分の瞳は、ステラ、ラーシュア、トレノっちのモノである。

 そして、ココにはいない姫さまとアルトさんはと言えば、変態公子(レビン)と会談中。なんでも、お隣のウェーテリード王国関係の話なので、今日に限っては護衛にアルトさんが同行して行ったのだ。


 とはいえ……ココにはステラとトレノっちが残っている訳で……


 いつものステラならここまで酔い潰れる前に(たしな)めて止めるはず。

 トレノっちにしても、非番とはいえ警備隊の幹部クラスがここまで醜態を晒せば、お説教の一つも始めそうなものなのだけど……


 横目で二人を確認してみるが、特に何かアクションを起こすでもなく、完全に見て見ぬフリである。


「やっぱり、ここに居た」


 ウチの綺麗どころの不可思議な態度に首を傾げていると、呆れた口調の聞き覚えのある声が耳に届いた。


「いらっしゃい、プレオさん」


 そう、現れたのは、ミラさんの相方ともいうべき、ビキニアーマーのクールビューティー、プレオさんであった。

 腰に手を当て、呆れ顔でミラさんの元へと歩み寄って行く。


「でも、すみません。もうオーダーストップなんですよ」

「ええ、分かってるわ。わたしは、この子を迎えに来ただけだから」


 そう言って、カウンターへと突っ伏していたミラさんの襟首を掴んで引き起こすプレオさん。


「おう、プレオォ~。お前も飲んでくかぁ~」

「わたしは非番じゃないんだから、昼間っからお酒なんて飲まないわよ。それより、もう帰るわよ」

「なんらとぉ~っ! わらしの酒が飲めないってのかぁ! そんな無礼者は――こうだっ!!」


 何を思ったのか、ミラさんは隣に立つプレオさんの両胸を、両手でいきなり鷲掴みにしたのだった。


「うりうりうり~♪ ここか? ここがええのんか?」


 おっ、おおおっ!

 ミラさんが、楽しそうにその巨大な脂肪の塊を揉みしだくたびに、まるで軟体生物の如くムニムニと形を変形させるプレオさんの……はっ!?


 三方から放たれる巨大な殺気。

 オレが慌てて、その巨大な山脈から視線を逸らすと、そこには木製のトレーを振りかぶる三人の乙女達の姿があった。


 あ、あぶねぇ……

 もし、視線を逸らすのが、あとコンマ1秒遅れていたら、オレの命は無かったかもしれない……


 デッドエンドの回避に胸を撫で下ろすオレ。

 そんなオレが視線を逸した視界の片隅では、ミラさんによる暴挙に、プレオさんは大きくため息をつく。


 そして……


「いい加減にしなさいっ!」

「ぐおっ……」


 手刀一閃。ミラさんの首筋にチョップを叩き込んだ。


 白目を剥いてカウンターに突っ伏すし、気を失うミラさん……

 マンガやアニメなのでは、よく目にする光景ではあるけど、コレは人間よりも身体の作りが頑丈な獣人ならではの攻防である。


 もし、人間に対して行えば、首の骨が折れたり頚椎がズレたりと大変な事になる可能性もあるので、良い子は決して真似しない様に。お兄さんとの約束だ!


 とはいえ……


「プレオさん――今日のミラさん、ちょっと様子がおかしかったですけど、何かあったんですか?」


 確かにミラさんは大酒飲みではあったけど、非番とはいえ昼間から酔い潰れるほどお酒を飲む姿は初めて見た。

 しかし、オレの素朴な問いに、プレオさんはちょっと驚いた表情(かお)を見せ、なぜかステラとトレノっちは気まずそうに視線を逸した。


「ああ……そういえばシズトくんは他所の国の人だから、知らないのはムリもないわね……」


 ちょっと寂しそうな目で微笑むプレオさん。

 そして、カウンターで潰れるミラさんの頭を撫でながら、ゆっくりと語り始めた。


「シズトも、北と東の話は聞いているでしょ?」

「北と東……ノーザライトとイーステリアの話ですか?」


 この大陸には四つの王国があり、この大陸の南に位置するサウランと王国の北と東には、ノーザライト王国とイーステリア王国が存在する。

 四王国の中で、最大の支配地域と最大の軍事力を持つノーザライト王国と最小の支配地域しか持たないイーステリア。この二つのあいだに最近、大きな武力衝突があったらしい。


 街の人たちの噂では、もう一度、大きな衝突があればイーステリアは壊滅するだろうと言う話だ。


「わたしもミラも、イーステリアが故郷なのよ……」

「!?」

「まっ、戦災孤児だったわたし達は、子供の時に難民としてこの国に来たのだけれどね。国を捨てたわたし達なんて、残っている人達から見れば、裏切り者でしかないのだけれど……それでも、故郷が滅ぶかもなんて言われるとね……」


 寂しそうに笑いながら、静かに語るプレオさん。

 国を捨とか裏切り者とか、オレも人の事は言えないけど……それでも、もし日本が滅ぶなんて言われたら、やはり冷静ではいられないだろう……


 その後、酔い潰れたミラさんを豪快に肩へ担いで、店をあとにしたプレオさん。

 オレたちは、そんなプレオさんの寂しそうな背中を、店の外まで出て見送った。


「どうして、戦争はなくならないのかな……?」


 オレの隣で悲しそうに呟くステラ。


 難しい質問だな――


 人の歴史とは戦乱の歴史だ。戦争はいけない。戦争は間違っている。

 殆どの人がそう思っているはずだし、分かってもいる。

 ただ、そう思い、分かっていてもなくならないのが戦争であり、人の歴史が続く限り終わらないのが戦乱だ。


 オレは、寂しそうに肩を落とすステラの頭を――


「「っ!?」」


 ステラの頭を撫でようと手を上げた瞬間っ! 全身を突き抜けるような悪寒が走った。

 この、巨大な魔力が衝突したような感覚は――


 くっ……!!


「ごめんっ! すぐ戻るっ!!」

「お主らは、後片付けをしておってくれっ!!」


 反射的に走り出すオレとラーシュア。後ろから上がる、ステラ達の声をスルーして、裏路地へと入ると左右の壁を蹴りながら屋根の上へと飛び乗った。


 そのまま、屋根伝いに中央広場にある宿屋――この街で一番高い建物の屋上へとやって来た。


「あ、あれば……」


 オレ達がそこで目にしたのは、遥か北の先の空。まるで隕石の様に長い尾を引く、二筋(ふたすじ)の光。黒と白の、光輝く粒子の(おび)……


 ただ、あの光が視えている者など、この大陸でも殆どいないだろう。

 あの粒子は普通の光ではなく、霊力と魔力の粒子なのだから……


 落下地点は、王都よりも遥かに北――おそらく、ノーザライト王国の中腹くらいだろう。

 それだけの距離が離れているのに、ここまでハッキリと感じる霊力の波動――何なんだ、アレは……


 警戒心を全面に出し、眉を顰めるオレ。


「ほおぉぉ……これはこれは」


 ただ、そんなオレとは対象的に、ラーシュアは口元に笑みを浮かべた。


「おい、ラーシュアッ! 何か分かったのか?」

「ああ。この波動――思金(おもいかね)のモノじゃな」

「思金ぇ?」


 ラーシュアの答えを聞き、更に眉を顰めるオレ。

 思金――常世思金神とこよおもいかねのかみ。思慮の知有る神と知られる八百万の神々の一人である。


 ただ、この思金と言うワードに、オレはもう一つ思い当たるモノがあった。


「じゃあ、あっちの黒い方は――」

性悪女(しょうわるめ)ギツネのものであろうよ」


 やはりか……


 オレの所属していた、政府直属の内閣調査室。その内調(ないちょう)内で一つ、大きなプロジェクトが動いていた。


 そして、その名称が『思金プロジェクト』と呼ばれるモノである。


 別部署なので詳細までは分からないけど、プロジェクトの開発チームには、オレや姉さんも協力していた。

 まあ、オレの方は完成するという前に、コチラへと来てしまったけど。


 ただ、プロジェクトの被験者は、15歳から18歳の女子になるという話だ。

 つまり、現れた二つの粒子。その一つがラーシュアの言う所の性悪女キツネのモノであるとすれば、もう一つの方がプロジェクトの被験者なのであろう。


 プレオさんの話ではないけど、オレも国を捨てた人間。

 そんなオレに、こんな事を言う資格はないのかもしれないけど……


 それでも、あの光の正体は、おそらく日本人の女の子。そして、名前も顔も知らないけど、内調の後輩でもある。

 もし、助けが必要なのであれば、コチラの世界へ先に来た先人として協力したい。


 したいのだけど……


「遠いなぁ……」

「遠いのう……」


 ポツリと呟くオレ達。


 のぞみやひかりはおろか、快速ラビット号すらないこの世界。最速の移動手段である馬車で移動しても、あそこへ辿り着くまでに何日、いや何ヶ月かかる事やら……


「まっ、仮にも思慮の知有る神が一緒におるのじゃ。そう心配する事もないじゃろうよ」

「だな……まっ、一応、式神(てがみ)くらいは出しておくか」


 オレは懐から一枚の(ふだ)を取り出した。


「急々如律令……」


 青白い発光と共に、式符がツバメの姿へと変わり、北の空へと飛び立って行く。

 ラーシュアの言う通り、思金がいるのなら、プロジェクトの関わったオレの事も知っているだろ。


 あの式神が無事に届けば、コチラとのパスが出来るし通信も出来るようになるかもしれない。

 とはいえ、ツバメの式神であっても、届くまでに何日かかる事やら……


「さて、とりあえず帰って賄い(メシ)にするか」

「そうじゃな。ワシは久方(ひさかた)ぶりに、海老天丼が食いたいのう」

「贅沢ぬかすなっ! かき揚げ丼で我慢しろ」

「どうせ、そのかき揚げ言うのも、具材は玉ねぎだけであろう? ホンに主は相変わらずセコいのう……セコいオノコはオナゴにモテんぞ」

「大きなお世話だっ!」


 そんな、他愛もない事を言い合いつつ、我が家への帰路につくオレ達。


 名も知らぬ、後輩の無事を祈りながら――

 次回予告!


 戦乱に包まれるジェルブラテトラ大陸――

 サウラント王国の北。ノーザライト王国にやって来た、もう一人の日本人。

 静刀の後輩にして、思金プロジェクトの被験者である少女……


 戦乱に包まれる世界で、彼女は何を見るのか?

 そして、この二人の日本人は、見知らぬ異世界の地で出会う事があるのだろうか?



 番外編。『もと』ヒキオタ魔法少女の、ドタバタ異世界冒険記。

「戦乱の異世界で、『もと』ひきこもり魔法少女が今日も元気に冒険中!!」


 本編のスピンオフ的お話です。乞うご期待っ!!

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