こっちがホントのエピローグ
騒ぎの原因って……
正直者で品行方正なオレとしては、そんな事になる原因なんて、全く心当たりがないぞ。
まあ、強いて上げれば、この黒い悪魔っ子がやらかした、賭けの不正行為くらい、って痛い痛いっ! 無言で足踏み付けるなっ!
「いや、招待された貴族やその関係者の連中が、二人の料理を食ってみたいんだとよ」
「ええ。皆さん、シルビア殿下が絶賛するシズトくんのたこ焼きとラーシュアちゃんのクレープを食べない事には、領地に帰れないと言い出されまして……」
ステラの説明へ補足をする様に、言葉を綴るミラさんとプレオさん。
「おおっ! そう言えば、昨夜の晩餐会でもシズト達の料理をさんざん宣伝して回ったわ。これもシズト達を勝たせる為の内助の功と言うやつじゃな」
うん、その内助の功は全て無駄になったけどな。しかも、こんな騒ぎを引き起こすというオマケ付きで。
「なあ、姫さま。『びーきゅうこんてすと』とやらも終わったんだから、シズトっち達に屋台をやって貰っても大丈夫だよな?」
「うむ、問題ない。妾もちょうど、シズトのたこ焼きとラーシュアのクレープを食べたいと思っておったしのう」
姫殿下からの了承を得て、安堵に顔を輝かせる三人。
「よ~しっ! そういう事なら、善は急げだっ!」
赤い髪に猫耳を生やしたミラさんは、オレの傍らにいたラーシュアを抱えあげると、自分の肩へと肩車で座らせて土手を駆け上がり始めた。
「これっ、猫耳娘っ!! ワシを子供扱いするでないわっ!」
「ハハハッ! 大人扱いして欲しかったら、もう少しおっぱいを膨らませな」
「なっ!? ぶ、無礼な事を申すと、燃やして消し炭にするぞ、猫娘っ!!」
「出来るもんならやってみなぁ~♪」
ああぁ……ミラさん? その悪魔っ子は、ホントにやりかねないから、あまり煽らない方がいいですよ。
「じゃあ、シズトくんは私が肩車しようかしら」
そして、今度は銀色の髪に猫耳を生やしたプレオさんが、口元へ艶っぽい笑みを浮べながら、とんでもない事を言い出した。
「はい、是非ともおね――い、いえ、遠慮しておき……」
ラーシュアの抜けた穴をステラが埋める形で、再び身体中を襲う激痛……
身長差か胸の体積の差か? ラーシュアに踏まれていた時より、五割増しくらいで痛いんですけど……
「ほら、シズトさん! バカな事を言ってないで、わたし達も行きますよっ!」
頬を膨らませ、俺の手を取り走り出した出すステラ。
桜の花びらが舞い散る中、その中学生にも見える背中に笑みを浮かべるオレ――
「なあ、ステラ……?」
「なんですか?」
「もしオレが、何も言わず旅に出たら、どうする?」
オレは、振り向く事なく返事を返すステラの背中へと問いかける。
「探しますよ」
「探す?」
「はい、シズトさんを探しに、わたしも旅に出ます」
「い、いや、でも……女の子の一人旅は、危ないぞ」
「覚悟の上です」
土手を登り切り、ようやく立ち止まったステラは、真剣な表情を浮かべて、ゆっくりと振り返った。
「シズトさんは、あの店にとっても、わたしとっても必要な人です。命を懸けてでも探すのは当然じゃないですか?」
「必要な人……? ステラにとって、オレはホントに必要な人なのかな?」
「はい、必要です。当たり前の事を言わせないで下さい」
ちょっと怒った様に、頬を膨らませながら断言するステラ。
その、嘘偽りのない真っ直ぐ視線を受け、オレの目頭が一気に熱を帯びていく。
それでも、涙が溢れそうになるのを必死に堪えるオレ。、
そして、いま出来る精一杯の笑顔を浮べながら、金髪の柔な髪を撫でる様に、そっと頭にへと手を置いた。
「そっか……ありがとう……」
万山重からず、君命重し。一髪軽からず、我が命軽し……
己の命など、一本の髪の毛よりも軽いものだと説かれ、自身もそれを疑わずにいたオレ……
しかし、そのオレの軽い命が失われたら、自分も跡を追うとまで言うアルトさん。
そんなオレの事を必要な人だと言い、いなくなれば、命懸けで探すと言うステラ。
そして、オレの事を自分の命の火が消える直前まで案じ、オレの腕の中で笑顔のまま逝ったコロナ……
オレは今、オレの中で、オレの命が万の山々などよりも遥かに――主君の命令など比べ物にならないくらいに、重くなって行くのを感じていた。
「ちょっと、シズトさん? いきなりどうしたのですか…………? って、まさかっ!? ホントに旅へ出る気なんですかっ!?」
いつもと違うオレの様子に、キョトンと首を傾げていたステラの顔が急変する。
詰め寄る様に身を寄せて、見開いた目で不安げに問うステラ。
「いや、大丈夫、大丈夫。ステラを置いて、旅になんて出ないから」
「ほ、本当ですか……?」
不安げな表情を見せるステラに、努めて優しく微笑むオレ。
「ああ。本当だよ。ただ……旅じゃなくて、旅行とか行きたいなぁ、と思ってさ」
「旅行……ですか?」
「そう、旅行。祭りの準備で、みんな頑張ってたからさ。温泉でも行きたいなぁ、って話していたんだよ。だからさ、祭りが終わったらみんなで行こうぜ、温泉旅行」
オレの話に、ステラは一気に顔を輝かせる。
そして――
「はいっ!!」
幼さの残る綺麗な顔に、満面の笑みを浮かべながら出た元気な返事。
その、満開に咲き誇る桜の様な笑顔へつられる様に、オレも口元をほころばせた。
「そういう事なら、シズトさんっ!! 頑張って旅費を稼ぎますよぉー!!」
俺の手を取り、元気に走り出すステラ。そして、前方に見えるのは、オレとラーシュアの屋台前に出来た人だかり――
まっ、旅費はラーシュアに出させるつもりだったけど、お土産代くらいは、ここで稼いどかんとな。
「おしっ、ステラッ! 桜花亭、桜並木支部の開店だっ!!」
「おおぉ~~~~っ!!」
すでに甘い香りを漂わせ、クレープを焼き始めているラーシュアの元へと走るステラ。
そして、いつの間にやら先回りし、火を起こして鉄板を温めていたアルトさんに出迎えられ、屋台に入るオレ。
よしっ! 戦闘準備完了。これより、資金確保の為の迎撃戦を開始する。焼いて焼いて焼きまくれ~っ!!
そう、オレ達の温泉旅行は、これからだっ!!
To Be Continued……?
長い間、お付き合いありがとう御座いました。
これで、第二部の完結になります。
長かった……
途中、仕事のトラブルや災害などあり、何度もエタりそうになりましたが、なんとか完結出来ました。
これもひとえに、読者皆様のおかげです。
自分で読み返してみても、誤字脱字の多い拙い作品にも係わらず、応援頂き本当にありがとう御座います。
第三部に関しましては、只今構想中。
近い内に再開出来たら良いと思っております。
出来ましたら、ここまでの感想などを是非ともお願いいたします。
最後にもう一度。
本当にありがとう御座いました。
ぜひ、第三部でお会い致しましょう。
See you again.