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戦乱の異世界で、◯◯◯は今日も△気に□□□中!!  作者: 宇都宮かずし
『戦乱の異世界で、和食屋『桜花亭』は今日も元気に営業中!!』編第一部 異世界の和食屋さん
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第三章 陰膳 03

「ハラへった……」


 秋晴れの爽やかな午後。レンガ造りの街並みをふらつきながら歩くオレは、豪快にハラの虫を鳴らして呟いた。


 朝と昼に伝説のスーパーブローを一発ずつ食らったが、食べ物は料理の味見以外は何も口にしていない。

 もし今、目の前に半額弁当があったならオレは、きっと氷結の魔女にだって戦いを挑んでいるだろう……


「たかだか二食を抜いたくらいで情けないのぉ。武士は食わねど高楊枝と申すじゃろ?」

「武士じゃねーし」


 てか、そもそもの原因は、両方ともお前じゃねぇかっ!


 気絶から復帰したオレは今、ステラ、ラーシュアと一緒に、市場へ食材の買い出しに向かっているところだ。


「ぶし……? ぶしってなんですか?」

「えっ? ああ、武士っていうのは――」


 ちなみにオレが目を覚ました時には、すでにステラの機嫌は回復していた。

 そういう、気持ちを後々まで引きずらないのがステラの良いところだ。


 それと最近ではオレがいた世界――日本の事に興味があるようで、よくこんな感じに色々と聞いてくる。


「でも、マナのない世界かぁ……どんな感じなんだろう?」


 いま、ステラが口にした『マナ』と言う言葉。

 一応、日本でも概念だけは存在する。神秘的な力の源とされ、魔法や霊能力のような特別な力の源とされるモノだと言われているモノだ。


 そしてコチラの世界では、大気中にそのマナと呼ばれるモノが大量に含まれている。

 魔導師が使う神聖魔法や四大元素魔法、そしてエルフの使う精霊魔法は、このマナを使い発動するモノらしい。


 つまり、魔法を使えるのが当たり前のエルフにとって、マナのない世界イコール魔法の使えない世界なのだ。


「でも日本にだって、昔は魔導師みたいな人もいたんだぞ。例えば、陰陽師と呼ばれる人達とか」

「おんみょうじ?」

「そう、式神っていう――概念的には、使い魔みたいなモノかな。その式神を使って、天気を占ったり、悪霊を退治したりしていたらしい」

「えっ? でも、マナも無いのに、どうやって使い魔を動かしていたんですか?」

「むろん、己の体内に宿る霊力を使ってじゃ」


 ステラの疑問に、三歩先を歩くラーシュアが答えた。


「ええーっ!? 体内の霊力だけでぇーっ!?」

「だけ……という訳ではないがの。コチラとは比べものにならんが、アチラにも微かだか霊気――マナは存在するからのぉ」


 大仰に驚くステラと、それに対して淡々と説明を続ける幼女。


 ホント、外見と言葉使いや知識がかけ離れたヤツだ。


「じゃが、大きな術を使おうと思おたら、大掛かりな儀式でマナを掻き集めんとならん。とはいえ、そんな儀式なぞ毎回やっておれんからの。式神なぞは己の霊力だけで動かすのが基本じゃ」

「でもそれじゃあ、ずっと霊力を放出してる事になるんじゃないのかな?」


「無論、そんな事をしとっては霊力が保たん。じゃから普段は式札という呪符に宿し、必要に応じて呼び出し使役するのじゃ」

「へえぇ~、じゃあじゃあ、その式神っていうのは、どんな使い魔なの? やっぱりネコとか小鳥とか?」


「ピンキリじゃな。ネコや鳥みたいな小者から、虎や鳳凰に龍みたいな大物。それに神と同等の力を持つと言われる鬼神まで様々じゃ」

「神さまと同等って……一時的にでも、そんな使い魔を人の霊力で操れるなんて……」


 驚き、そして感心しながら、ラーシュアの説明を聞いているステラ。


 確かにラーシュアの解説は上手いけどさぁ……オレの出番が全くないんですけど。


「でも、そんな人がコッチの世界に来たら、どうなっちゃうのかな? やっぱり宮廷魔導師なんかより強くなっちゃうのかな?」


 そんな素朴な疑問に、オレは一瞬頬を引きつらせる。

 そんなオレを、ラーシュアは横目で見ながら含みのある笑みを浮かべた。


「どうじゃろうなぁ? とはいえ、コレだけ大気の中に霊気が満ちた世界じゃ。ネコや鳥くらいなら常時使役しておけるじゃろうな。いや、虎や鳳凰とて姿を変え、霊力を抑えた形なら常時使役が出来るじゃろう」

「姿を変える?」


「そうじゃ。式神は術者のイメージで、姿や能力をある程度は変える事ができる。じゃから虎をネコの姿、鳳凰を雀の姿、そして鬼神は幼女のすが――」

「あーっ! あーっ! あぁーーっ!!」


 ラーシュアのセリフを遮るように大声を上げるオレ。


「シ、シズトさん?」

「なんじゃ? 己の童貞を(はかな)んで、とうとう気でも()れたか?」

「童貞ゆーなっ!」


 童貞で悪いかっ! つか、キスすらまだで何が悪いっ!?


 って、ヤベェ……涙が出てきそう……


 いや、枕を濡らすのはベッドの中にして、今は――


「い、いや、なんかもう、空腹の限界だ――あそこの串芋でも食べて行こうぜ」


 ちょうど市場に差し掛かり、オレはその入り口近くにある屋台を指差した。


 中学生くらいの女の子がやっている屋台。

 竹の串に刺さった里芋を、味噌ダレを付けて炭火で焼いているモノだ。味噌の焼けるいい匂いがここまで漂って来て、オレの空腹を刺激している。


「うむっ、賛成じゃ。そうゆう事ならワシもひとつ頂こう」

「う~~ん……」


 オレとラーシュアの提案に、人差し指を唇に当てて悩むステラ。

 おそらく頭の中で、財布の中身と相談しているのだろう。


 ウチの店は、見た目ほど儲かっていないからなぁ……


 桜花亭をオープンさせるまでの一年半の間、街の人達には色々とお世話になった。

 その恩返しも兼ねて、ウチの店は赤字が出ない程度の低価格設定でやっているのだ。


 まっ、その利益度外視の価格も、街の人限定だけど。

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