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戦乱の異世界で、◯◯◯は今日も△気に□□□中!!  作者: 宇都宮かずし
『戦乱の異世界で、和食屋『桜花亭』は今日も元気に営業中!!』編第二部 桜の木の下で……
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第十五章 反撃の狼煙 01

「いたぞっ! コッチだっ!!」


 背後から聞こえる野太い声。膝を突いていたアルトさんとレビンは、その声に呼応する様にスクッと立ち上がり険しい視線を向けた。


 背後から感じる気配は人間の物が二つ。更に、オレのよく知る気配――式神の微弱な霊波の気配が二つ……

 そう、オレの放った三つの式神(ホタル)の内の二つだ。


 茶髪の男に付けたホタルは、対象が消滅すると同時に式札へと戻ったので、この二つホタルはアゴヒゲとスキンヘッドの男に付けたモノである。

 つまり、二つの人間の気配とは、アゴヒゲとスキンヘッドのモノであると、すぐに理解出来た。


「ほほう、これはこれは――」


 膝を突くオレの後方、約ニ間半(にけんはん)(約4.5メートル)のところで立ち止まった男達。


 そして、瞬時にこの現状を把握したアゴヒゲは、ニヤけた声を出した。


 もっとも、把握出来たのは目に見える状況だけ。自分の仲間が骨まで灰にされ、殺された事など知る由もなく。

 もし、そこまで把握出来ていたら、そんなニヤけた声など出しはしないだろう。


「ふふっ、 予定は狂ったけど、これは(かえ)って好都合だ」

「まっ、押し込む手間が省けたが、その分、(むくろ)を運ぶ手間が増えちまったけどな」

「という訳で、イチジョウバシ卿――恨みはないが、コッチも仕事でね。アンタらには、ここで死んで貰いますよ」

「そっちの女には、その前にタップリと(たの)しませて貰うがなっ」


 下卑た事を好き勝手に語り出すアゴヒゲとスキンヘッド。そんな男に達に、ラーシュアは呆れ顔で肩を竦めた。


「仕事のう――殺しを生業(なりわい)とする者が、対峙する者と己の力量差も測れんとは……この国の刺客(しきゃく)は、よほど人手不足らしいのう」

「返す言葉もありません」


 ラーシュアの呟きに、深く被ったフードから覗く口元へ苦笑いを浮かべるレビン。

 確かに、暗殺を本業にしているとは思えないくらい、スキだらけだ。


 まあ、それだけコチラを舐めているという事なのだろう。


「さて。ウチの(かしら)が、その娘の頸をご所望でな。とりあえず、その亡骸(なきがら)を渡して貰おうか?」

「まっ、用が済んだらオマエらの亡骸と一緒に、あの桜花亭とかいう店ごと火葬してやるからよ」


 格下相手の身の程を知らない発言に、いちいち目くじらを立てるほどオレも子供ではない。


 しかし――


 愚かな……と、ため息混じりに漏らしながら、額を押さえて首を振るアルトさん。


 そう、モノには限度が、そして越えてはイケない一線というモノがある。そしてあの男達は、その一線を軽々しく越えて来たのだ。


「コイツを頼む」

「お任せを」


 オレはゆっくりと立ち上がり、抱えていたコロナの遺体をレビンへと託した。

 純白の服が血で汚れる事に、躊躇いの素振りすら見せず小柄な身体を両手で受け取るレビン。


 もう一度、穏やかな顔で眠るコロナに目を落とし、オレは男達へと振り向いた。


「しかっし、その女も馬鹿な女だよな。密入国は匿った奴も罰を受けるなんて与太話、簡単に信じやがってよっ。あん時の真っ青なツラ、テメェーらにも見せてやりたかったぜっ! ハハッハッハッハッ!」


 越えてイケない一線を越えながら、無防備な姿を晒し大口を開けてバカ笑いするスキンヘッド。


 オレは、懐から一枚の呪符を取り出しながら、冷やかな目を向けて静かに口を開いた。


「おい、そこの木偶の坊(デクのボウ)……」

「ああんっ!? 誰が木偶の坊だっ、コラ!!」

「オマエだよ……」


 顔を真っ赤にして、怒りの矛先を向けるスキンヘッドの大男。オレは、その矛先を受け流す様に、抑揚のない声で淡々と言葉を綴った。


「今すぐ、その臭い口を閉じろよ。それとも、二度と塞がらない様にしてやろうか……?」

「ハッ! 面白いれぇーっ! 出来るモンならやっ――」

「オン イダテイタ モコテイタ ソワカ……」


 スキンヘッドの挑発する様な言葉を遮り、オレは精神を集中させながら静かに『真言(しんごん)』を唱えた。


 そして――


「なっ!? き、消え……うっ!?」


 驚きの声を上げたのは、スキンヘッドではなくアゴヒゲの男の方。しかし、そのアゴヒゲの男も、直後に自分の顔へかかった、生温かい『モノ』に視界を塞がれ、言葉を詰まらせる。


「くそっ! な、何が――うわぁーっ!?」


 慌てて服の袖口で顔を拭う、アゴヒゲの男。

 そして、開けた視界に飛び込んで来た惨状に、驚きの声を上げ、後ずさった。


 アゴヒゲのその目に映ったモノというのは、大口を開けたスキンヘッドの口から生えている様に伸びる血塗られた刀の切っ先……

 後頭部から口へと貫通した備前長船の名刀、長船康光(おさふねやすみつ)の切っ先である。


 そう、アゴヒゲの顔へ飛び散り、その視界を奪ったのは、スキンヘッドの鮮血だ。


「主は相変わらず甘いのう。そのような者まで、苦しまぬよう、一息に死なせてやるとは……」


 呆れる様なラーシュアの呟き。

 その言葉通り、中枢神経が集中する延髄をひと突きにされたスキンヘッドの男は、ほぼ即死で苦しむヒマなどなかったであろう。


 ラーシュアの言葉に眉を顰めるオレ……

 言いたい事も分かるが、今のオレにはコイツらをいたぶってやる程、心に余裕などないのだ。


 貫かれた刀にぶら下がる様に白目を剥き、大口を開けたマヌケ面で事切れる大男……

 オレはその無様な死に(ざま)を見せつけるように、アゴヒゲの男へと突き出した。


「ノウマク・サマンダ・ボダナン・ラタンラタト・バラン・タンッ!」


 スキンヘッドの後頭部へと突き刺さる刀へ霊力を込めながら、真言を唱える。


「な、なっ!?」


 驚きの声を漏らすアゴヒゲの眼前で爆炎に包まれる、スキンヘッドの巨体。


 煉獄(れんごく)(ほむら)に巻かれ、刀身二尺二寸の太刀へぶら下がる様に突き刺さっていた大柄な男の身体は一瞬にして焼失した。


「まったく……断わりもなく、勝手にワシの能力(ちから)を使いおって……」


 愚痴る様な呟きとは逆に、口角を上げて不敵に笑うラーシュア。


 そう、先ほど唱えた真言は『阿修羅真言』。そして、そこから発した炎は、万物全てを焼き尽くすと言われる浄化の炎だ。

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