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私と死神とあれやこれ。  作者: 志筑あおい
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第4話-死神と言えばやっぱり鎌。

「おはようございます」

 気持ちを上げるように心もち大きめな声で挨拶をする。すでに出社していた同僚から「おはよう」と声が上がる。上司は顔を上げずに手を挙げてみせた。自席にバッグを置き、そのまま上司の席へと向かう。今日の上司の機嫌はどうだろうか。緊張で鼓動が早まる。

 上司のデスクの前に立ち、改めて「おはようございます」と声をかけると、上司の笹原はメタルフレームの眼鏡のブリッジを右手中指で押し上げながら上目遣いでこちらを見る。機嫌はさほど悪くなさそうでほっとする。笹原は三十代後半で長身痩躯のいかにも切れ者という雰囲気で、普段は若干近寄りがたい。

「あの、ちょっとご相談が」

 すでに書類に目を落としていた笹原が眼鏡を外して私を見る。

「なんだ。急ぎか?」

「あの…」

 切れ長の涼しい目が少し険しくなる。

「急ぎじゃないなら後にしろ。急ぎなら早く言え」

 ふいに笹原の背後の壁にぼんやりと黒い影が映った。その影からにょっきりと巨大な三日月型の鎌が飛び出る。その鎌に引きずられるように黒いスーツの袖、そして例の男が姿を現す。相変わらずの醒めた表情に蔑みの眼差しで私を見やると巨大な鎌を笹原の首筋にあてがった。

「ほれ。早く言わないとヤっちゃうよ?」

 なんですか、この脅迫。まだ死に時じゃない人間が死ぬの困るんじゃなかったの。邪悪な笑みを浮かべながら鎌をぎらつかせているヤツの目は笑っていない。笹原はいけ好かないが目の前で死なれては寝覚めが悪い。思い切ってがばっと頭を下げてほとんど叫ぶように私は言っていた。

「すみません、有休使わせてください!」

 やっと死神は笹原の首から鎌を離し一歩身を引く。

「いつから。何日」

 頭上から笹原の声が降ってくる。恐る恐る顔を上げるといつの間にか鎌をしまった死神が笹原の首に腕を回してニヤニヤ笑っている。心なしか笹原の表情が精彩を欠いている。

「えっと。今日から一週間ほど…」

「わかった。お前もう2年くらい有休取ってなかっただろ。最近集中力も落ちてるみたいだし、しっかり休め」

 あれ?この人こんな優しいこと言う人だっけ。あまりにあっけない展開に思わず戸惑う。

「上田に今の案件引き継ぎしたら帰れ」

「はい、ありがとうございます」

 気が付くと死神は姿を消していた。今日は金曜日、土日は元々休みなので来週は丸ごと休み、再来週から仕事に復帰することになり、私は会社を出た。


 自宅の最寄り駅で降りふらふらと歩いていると、先日ロープとブルーシートを買ったホームセンターの前を通りがかった。

「七輪って、売ってるかな」

 ふと思いつく。浴室内側から目張りして七輪で練炭焚いたら一酸化炭素中毒でいけちゃうんじゃないのか。そう思うと足は勝手にホームセンターに向かっていた。

「七輪、練炭、焚き付け」

 ぶつぶつ呟きながらホームセンター内をうろつく。キャンプ用品を扱っているコーナーでそれらを見つけると迷わずカートに積み込む。

「あ、そうだ、目張り用のテープ」

 カートを押して歩き出そうとした瞬間、誰かがぺしりと頭を叩いた。

「人間ごときが何勝手に死のうとしてくれちゃってんの?仕事増やさないでくんない?」

 肩が急に重くなったと思ったら、例の男が私の肩に腕を回して下からのぞき込むように私の顔を見ている。蔑みの視線が痛い。

「せっかく上司操って有休取らせてやったのにさぁ。何しようとしてるんですかテメーは」

「えーと、あの、練炭焚いて一酸化炭素中毒、とか?」

「見たらわかるわ、ボケ」

 またぺしりと私の頭を叩くと、死神はカートに積まれた七輪などをどんどん元の場所に戻していく。

「ほれ、とっとと帰るぞ」

 死神に手首を掴まれた私は、引きずられるように帰途に着いた。

拙作をお読み下さりありがとうございます。

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よろしくお願いいたします。

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