表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

殺人の音

作者: ぐろーりあ

ちょっと暗いかも知れないです。

午前1時、バイトが終わり自転車を走らせ帰路につく。

街灯や街明かりが柔らかに街の輪郭を浮かび上がらせている。真っ暗だという印象はないが、明るいとも言い難い。物陰は濃く、いつ何が飛び出してくるともわからないのだ。そんな道を、自転車を漕ぐ力を利用して光るライトが、申し訳程度に行く先を照らす。

ゆるい坂を登っていくと、急な下り坂が始まる。

自転車の流れるままに坂を下り坂始めると、夜風が心地よく、加えてペダルを踏む。数十メートル先、信号は赤く光っている。さすがに深夜、車はもう走ってはいない。故に、ブレーキを掛けずとも、車に轢かれることはないだろう。

だが、もしも、と想像する。私が流れるままに身を任せ、赤信号に一時停止しなければ、そのことを知らない車が走ってくるかもしれない。そうなれば、私は自転車もろとも吹き飛び、いろんな箇所に傷を負って、地面に叩きつけられることだろう。死んでしまうかもしれない。

はたまた、車なんぞ来なくとも、これだけ鋭い坂道であるなら、勢い余って私と自転車は簡単に飛び上がって、いつの間にか降下し、奈落の底まで転がり落ちて、遂には、死んでしまうだろう。

刹那の間に、その事を考える。

何故自分が生きているのか、自分には到底理解出来ない。生きるのは恐ろしいことだ。恥の多いことだ。それならいっそ死んだ方が楽である。自殺したら、霊にまでなっても自殺を繰り返すと聞いたことがあるが、生きるなどという恐ろしい事に比べれば、死に続ける事など優しいものだろう。死ぬ理由はある。生きる理由はない。ブレーキを握らなければ、きっと死ねる。

「まあ、どうせ生きるのだけれど」

閑静な夜中に、空気を裂くような甲高い音が響く。私が私を殺す音だ。

握りしめたブレーキがタイヤに擦れるか何かして出た音である。

私を殺そうとした私を殺す音。

信号の前で止まっても、車は一つも通らない。赤から青へ色が変わると、自転車を進ませ、緩くブレーキを掛けながら、この長い下り坂を下りていく。その甲高い殺人の音を、毎晩毎晩自分の住む町に響かせて、私は生きているのだ。

私が死ぬまでに、私は一体何人の私を殺さねばならないのだろう。

読んでいただきありがとうございます。

感想などいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ