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前理事長の思惑

撫子学園の理事長ではなくなってから早いことに数ヵ月が経った


今日は水樹と結衣を呼び出して、近況報告をしてもらうこととなっている


あの2人は協力して上手くやっているのだろうか?


コンコン


ノックされる

ようやく来たか


「おう、入りなさい」


2人で来ると思ったが、入ってきたのは水樹1人


それに、撫子学園でいるときのように女装した姿で来るかと予想しておったのに、普通の男の格好


残念じゃ

少しからかってやろうと思ったのに

それにしても、こやつが女装しておる姿など想像できんのう


「なんだ、結衣は一緒じゃないのか?」


「まぁ、色々あってな

あとから来るんじゃないか?」


「まさか喧嘩したんじゃなかろうな?」


「たまには意見の食い違いだってある」


喧嘩したのか……


やはり、男嫌いの結衣と女が苦手な水樹を同じ場所に置くべきではなかったじゃろうか


ひょっとしたらひょっとすると思うたんじゃけどな


「学園の方はどうなんじゃ?」


「今度の文化祭、青城高校と合同で行うことになった」


「青城高校と?

そんなの、結衣が許可したのか?」


合同文化祭ということは、嫌でも男と関わることになる


自分が苦しめられるとわかっているのに、結衣が認めるなど信じられん


「渋々だけどな

というか、許可するように俺が追い込んだとも言える


まぁ、これで学園も少しずつ変わるだろうよ」


追い込んだじゃと!?

結衣に何をしたんだ


まったく…水樹の強引さは昔から変わっとらんで困るの


「水樹、結衣はああ見えて強がっていることが多いんじゃ


お前の無理に付き合わせては可哀想じゃぞ」


な、なんじゃ?

こやつ、今わしを睨み付けんかったか?

何が気に食わんかったんじゃ?

結衣をわかってない、というニュアンスで言ったことか?


「それくらいわかってるよ

毎日のように顔を合わせてるんだ


俺は学園のためっていう理由で、結衣のことを切り捨てたりなんかしねーよ」


ほう、驚いた

水樹がこんなことを言うようになったか


女が苦手で、女なんか皆同じだと思っておったような奴が、切り捨てずに1人の女性の為に手を延ばそうとするとは、想像もしておらんかった


「なら、安心じゃな

文化祭の準備は順調なのか?」


「最近になって男女で揉めだしてるらしいが、文句を言いながら毎日集まってるようだし、放っておいて大丈夫だろう」


水樹が大丈夫だと思うならそうなのじゃろう


「そうか」


「あぁ

もう特に報告することはない

大学あるから、そろそろ行くぞ」


「そうじゃな


結衣と仲良くするんじゃぞ」


ピクッと水樹の眉が動いて、珍しく動揺を見せた


何事もなかったかのように部屋を出ていったが、実は結衣と喧嘩してこたえておるのかもしれんの



暫くして部屋に入ってきたのは、元気な声で「お久しぶりです!」と言ってくれた結衣だ


水樹はこんな笑顔は見せてくれんの


「水樹と一緒ではないのか?」


一緒でないことなど知っておるが、敢えて聞いてみることにした


「まぁ、色々ありまして…」


同じ答えが返ってきおった

一緒にいると似てくるというが、誤魔化し方まで似てくるとは…


「そうか

学園の方はどうじゃ?」


「どうもこうもないです

酷いんですよ、あなたのお孫さん!」


結衣は滅多にこんなことをワシに言ってくることはなかった

相当水樹にやらかされておるんじゃろう


「私が男嫌いだってこと知ってて青城高校と合同文化祭するなんて言い出すし


それで、皆の思いを知ることができたと言えばそうなんですけど…


でも、この間なんか軽い女だとか言われて…

それで喧嘩になってるんですけど…」


水樹から聞いたときには、女同士の喧嘩のカテゴリーに分類されるのかと思うたが、どうやら男女の喧嘩のようだ


「それは、結衣に軽い女なんて言った水樹が悪いの


あやつに優しさというものを教えてやらんといかん」


あやつは優しくしておるつもりかもしれんが、伝わりづらいものばかりじゃ

それじゃあ、感じの悪い奴だと思われてしまう


「いや…」


「どうした?」


結衣は少し言いづらそうにしながらも、何か思い浮かんだ言葉があるようだ


「水樹は…優しいと思います


あ、時々ですよ?

それにすっごく分かりにくいですけど


でも今は喧嘩中で頼る訳にもいかないし…」


「何か問題でもあるのか?」


「撫子学園の学生達が、男子がちゃんとやってくれないって私に文句を言ってくるんです


準備に遅れは出てないですし、水樹に相談しても放っておけって言われそうだから、何もしてないんですけどね」



ほう…


ワシはただただ感心した

この子はすごい

前からなかなかやる子じゃとは思っておったが…


水樹の不器用な優しさに気付き、考えも見透かしておる


水樹と一緒におってくれる感謝を込めて、結衣が悩んでおるのなら手助けしてやろう


「大丈夫じゃよ

喧嘩をしておっても、水樹はちゃんと結衣のことを考えておる


あやつは、学園のためという理由で結衣を見捨てたりはせん男じゃ


そこはわしが自信をもって伝えておくぞ」


「そうだと嬉しいです」


癒されるような笑顔でそう言うと、結衣は帰ってしまった


そうかそうか


ワシが心配せずとも、2人は上手くやっていけそうだ


男がちょっと近づいただけで鳥肌を立てておった結衣が、水樹と喧嘩ができるまでになったか


あの自分をあまり見せようとせずに抑え込み、秘密主義者であった結衣がのう


男嫌いの結衣と女が苦手な水樹


混ぜるなキケンの液体を混ぜてしまったかとも思うたが、どうやら意外と面白い化学反応を見せてくれておるようじゃ



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