運命の再会
はぁ…
7月の強い日差しに照らされながら、私は大きな溜め息をついた
水樹の前で合同文化祭をやると言い切ったものの、いざ青城高校の学生と顔合わせをするとなると胃が痛い
それに、納得できない問題がある
「大体、文化祭の会場は撫子学園なんだから、顔合わせだってうちでやればいいじゃない
なんでわざわざ出向かなきゃいけないのよ!」
そう
水樹に連れられ、七海と深雪、私の4人は青城高校へと向かっていた
やっぱりこんなのおかしい!
「往生際が悪いですわよ
いい加減覚悟を決めてくださらないと」
「七海もついてますよ!
それにしても…なんで理事長がお姉さまの隣を歩いてるんですか?
そこは七海の特等席なんですよ!」
「理事長と会長が並んで歩いて何がいけないのですか?」
ただでさえ暑いというのに、隣で言い合いを始めてしまった水樹と七海
どうやってもこの2人は互いに受け入れられないらしい
まぁ、怒ってるのはいつも七海で、水樹はその様子を楽しんでいるようにも見えるのだが…
「会長、確かに男子校に乗り込むなんて初めての経験ですし、不安もありますが大丈夫ではないでしょうか?
水樹さんも付いてくれているのですし」
「そ、そうかな…」
水樹がいることによって、私の不安は何倍にも膨らんでいる気がするのだが…
どんなちょっかい出してくるかわかったもんじゃないし
あー…
何の問題も起こらずに今日が終わりますように…
そんな願いを込めながら…
「あ、正門が見えてきましたわ」
エリート男子校、青城高校の門をくぐった
バチバチバチバチ
そんな効果音が頭の中で響くほど、門をくぐった途端、その辺を歩いている男子学生の視線が一斉に私たちに集中する
突き刺さるような彼らの視線に、私は俯きながらしか歩けない
すると、あちこちから声が聞こえてくる
女子じゃん、なんでいんの?
あれ、撫子の学生?
てか、めっちゃ美人だし
こっち見てくんねーかな
…私たちは見せ物じゃないっつーの!
心のなかでそう叫びながらも何も言えない私は、こんなに暑いのに寒気を感じながら進んでいた
他の3人は平気そうにしている
すると、ふわっと…
水樹が隣にくっつくように近づいてきた
なんだろう?
あ、もしかして男子の視線を遮るように壁になってくれた、とか?
「すごく見られてますわね
これから文化祭が終わるまで、結衣さんは彼らの視線に曝されることになるのですわ」
…
「そんなのわざわざ言わなくてよくない!?」
しーん
辺りが静まり返る
さっきまでぺらぺらと喋っていた彼らが急に黙った
あ…
私の水樹に対するイラつきを、自分達に発せられた言葉だと思ってしまったらしい
「ちが…」
「急に大きな声なんてだしてどうかしましたか?
早く行きますよ」
「ぅわ…」
私の小さな否定の言葉を遮り、水樹はしれっとした顔で私の手を引いた
彼らにはきっと、変な女だと誤解されたままだ…
エリート男子校というだけあり、撫子学園には及ばないものの綺麗な校舎で、スタイリッシュな雰囲気が漂っている
長い廊下を進み、生徒会室というプレートがかけられた教室へと到着すると、水樹は戸惑うことなく扉を開いた
ん?
中へ足を踏み入れると、そこには20人近い男子生徒
なんでこんなにいるの?
不思議に思っていると、1人だけ椅子に座っている茶髪の男子が口を開いた
「3年副会長の大谷英二です
会長は仕事が立て込んでいるらしく、もう少ししたら来ると思います」
遊んでそうな見た目で、副会長になど見えないのだが、青城高校の制服を着ているからには学生で間違いないのだろう
ただ、今は会長がいないとかいうよりも別の問題があるのではないだろうか
「あの、お、多くないですか?
皆さん生徒会役員なわけ…ないですよね?」
大谷君の後ろにずらっと並んでいる男子達
なぜこんなにいるのかがさっぱりわからない
「あー、これは会長のせいなんですよね
青城に女子が来るから!ってビビっちゃって
全部活動のキャプテンまで呼んでるんです」
「はぁ、そうなんですか…」
なんて奴なんだよ、こんなに男子ばっかり集めて!
そうか、自分の回りを身内で固めたいがために、顔合わせの場所を撫子ではなく青城にしたのか!
絶対文句言ってやる
早く来なさいよ、生徒会長!!
「会長も可愛いとこあるんですよねー
ある1人の女性を引きずって引きずって
引きずりすぎて、おかしくなりそうって噂とかあるし!」
1人でケラケラとお腹を抱えて笑っている
そんな情報どうでもいいんだけど!
「そんな情報はどうでもいいですわ」
私の心の声に被さるようにして、透き通るような声が隣から飛んできた
うわ、水樹と同じこと考えちゃった…
「取り敢えず、部活動のキャプテンの方々には席を外してもらいましょう
男性が多いと、こちらとしても話づらさがありますので」
そう言うと水樹は一瞬私の方を見た
あれ?もしかして遠回しに私を助けてくれた?
めったに見せない優しさに気づいてしまったみたいで、私の方が恥ずかしくなる
ぽっと顔が染まるのを隠そうとしていると、ガラッと扉が開いた
「すいません、お待たせしました!」
元気な声が耳に入った
やっと来たか!
私が男嫌いだと知らなかったとはいえ、嫌がらせのように大勢の男子をここに待機させたことを後悔させてあげよう!
思いっきり文句を言ってやろうと声のした方を見た
「あの!…あ」
言葉が止まり、血の気が引いていき、頭が真っ白になる私
目に映った彼も驚きの表情をしている
「……。
……結衣?」
私は目の前の彼と2人、その場から切り離されたような感覚に陥った
もう会うことはないと思っていた、私の男嫌いの原因を作った男
こんな形で再会するなんて思ってもみなかった
「お姉さまの…お知り合いですか?」
名乗ってもいないのに彼が私の名前を呼んだことに、その場にいる全員が不思議そうにしている
「あ…えっと、同じ…中学校出身なの
同級生…」
「そうなんですよ
まさか再会できるとは!
どうも、会長の岸谷明良です」
再会を喜ぶように、窓から入ってくる風に短い髪を揺らしながら爽やかに満面の笑みを浮かべている
明良は私が男嫌いだとは知らないし、その原因が自分にあるとは夢にも思っていないはず
だからこんなこと思うのは心苦しいんだけど…
私は明良と再会して、1人、どん底に落とされた気持ちになった
それから話し合いが進められているが、上の空で何も頭に入ってこない
「お店を出す際は男女共同で、ということにしますか?」
「そんなことして大丈夫なんですの!?」
深雪も、男性が苦手な七海も積極的に意見をいっているというのに…
私はというとそれらの会話が全て抜けていってしまう
話を聞いていないことが水樹にバレたら、後でとんでもないことになるよな…と思いながらも、その場にいるのが辛くてただ、縮こまるだけだった