表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

譲れない思い

「会長、安西明日香さんです」


新年を迎えて、ボーッとしながら仕事をしていた私は、深雪のこの一言で眠気が吹っ飛んだ


「あ…」


入口に立っている安西明日香は、私と目が合うとにっこりと笑った


「会長さんにお話がありますの

よろしいかしら?」


「はい…

では、会長室にどうぞ」


とうとうこの時が来てしまった…

私も出ていこうとすると、深雪と七海に腕を掴まれた


「あの人、選挙で会長に敗れてから、生徒会室のある棟にすら近づこうとしなかったんですよ


なのに、わざわざ訪ねてくるなんておかしいですよ」


「七海もそう思います

お姉さまに何か危害を加えようとしてるのかも」


いつにも増して真剣な表情で訴えてくる2人


「ちょっと、怖いこと言わないでよ


何かあったら、2人に助けを求めるから」


「わかりました」


そうだよ

2人が言うように安西明日香がわざわざ来るなんてただごとじゃない


水樹が絡んでくるのはわかってるんだけど…

面と向かって色々言われるんだろうなと考えると憂鬱だ



「なんだかこうやって話すのは久しぶりですね

選挙の時以来でしょうか

会長さん?」


会長のところをわざと強調して言ってくる


そうだ、安西明日香とはこういう人だった

気が強くて自分の思い通りに物事が進まないと気がすまない、生粋のお嬢様


「お久し、ぶりです…」


その雰囲気に飲まれてか、語尾が小さくなってしまう


「今日私が伺った理由はもうおわかりでしょう?

嘘つきの会長さんには」


嘘つき!?

まぁそうなんだろうけど…


でも、ここで私が怯んでいると水樹に迷惑がかかってしまう


「水樹に取引を持ちかけたらしいですね?」


「えぇ

取引といっても私の条件をのむ以外には道は無いのではないでしょうか


私とあなたを比べたときに、理事長の座を捨ててまであなたを選ぶはずがありませんわ


そんなことはない、なんて自信をお持ちかもしれませんが、早めにお捨てになったほうがあなたのためですよ」


「どういうこと?」


「あなたにはわからないかもしれませんが、私達の世界では恋愛結婚なんて夢のまた夢

自分と、そして自分の家柄に相応しい方と結婚するようになっていますのよ


あなたが水樹さんをどれ程思っていても関係ない

逆もまた然り


そうやって私達の世界は成り立っていますの」


恋愛結婚なんて夢のまた夢…

こんなにも現実的なことをぶつけられるとは思わなかった


理不尽に思えるけど、これが彼女たちの世界…


どうしよう、不安になってきた


私と一緒にいたところで、水樹には…もっと言えば槙島家には何のメリットもない


でも安西さんと水樹が婚約したら…?


どちらの家のためでもある良い縁談ではないか…!


だめだめ

こんな考え…安西さんに隙を与えてしまうだけだ


負けるな私!

何があっても水樹を信じるって決めたんだもん

ここでなんか揺るがない


「そこで、あなたから水樹さんに別れを切り出されてはいかがでしょうか?


私もこんな提案は心苦しいのですよ

ですがあなたの為なのです

あなたから別れを告げることで、女としてのプライドは保たれるのではないですか?」


心苦しいなんてこれっぽっちも思ってないでしょ!


「私が水樹をフるなんて無理よ

それが嘘で、まだ水樹のことが好きだってこと、すぐにバレてしまう


それに、私はプライドを捨ててでも水樹と一緒にいることを望んでる

だから…



安西さんが思うようにやりなよ

私達はそれに全力で抵抗するだけだから」


「ふっ、そうですか

でしたらそのように致しますわ


残り短い学園生活を楽しんでいてくださいね」


安西さんが最後に言った言葉が頭のなかをぐるぐると回る


残り短い学園生活ってことは、撫子学園を追い出されることになるというわけで…


1人になって冷静さを取り戻してから、自分がとんでもないことを言ってしまったことに気がついた


あー、思うようにやれ、なんて言っちゃって!

私が止めなきゃいけなかったのに何やってんだ!


もう何も手がない


いや、私が身を引くっていう手は残ってるんだけど…


そんなことできない


私は水樹の幸せを願ってて、私は水樹と幸せになりたくて…


安西さんと一緒になった水樹の幸せを願えるほど、私は出来た人間じゃない


なんとかしなくちゃ…




次の日登校すると、事件は起きていた


「うそ…なにこれ」


安西さんが動き出したんだ…


校内中に貼られているビラの数々


『槙島水樹理事長は心も体も男だった!!』


『天野結衣会長と理事長の淫らな関係』


そこにはあることないことが書かれていた


「会長、まずは剥がしましょう」


「うん、そうね…」


動揺を隠せない私に代わって、深雪が集まっていた学生を教室に戻してくれた


「お姉さま…こんなの嘘ですよね?

嘘だと言ってください!」


私はそんな七海の潤んだ目を見て、何も答えることが出来なかった


嘘をつくことができなかったのだ



「まさか…本当に…



本当に理事長と淫らな関係にあるんですか!?」


「ないわよ!

無いに決まってるでしょ!」


なんなのよ淫らな関係って!


七海の関心はそっちに向いているらしく、なんだか拍子抜けというか…


お陰で少し元気が出た


でも…これからどうしようか

おそらく多くの学生がこのビラを目にしているはずだし、深刻な問題だ





不安通り、午前中の授業が終わる頃には噂は学園中に広まっていた


それは私達、本人の知らないところで尾ひれを伸ばしていっているらしいが…



「学園中が大混乱です


理事長は正真正銘の男なのに、皆を騙すためにこんなことをやってる

それには会長も協力してるんじゃないかって」


「もう七海達じゃどうにもできない…」


「ごめん2人とも…

絶対になんとかするから」


そう言ったものの、なんとかする方法なんて何も思い付かない


悩んでいると、1本の電話が入った



「はい


…はい、わかりました」


その電話の相手に私は一気に危機感が増した


「どうしました、会長?」


「前理事長に呼び出された…」





前理事長の耳にもこの騒ぎが報告されたんだろう


急いで向かうと水樹が先に到着していた


「水樹…」


「悪いな学園のこと結衣に任せっきりで

もう大丈夫だから」


根拠もないのに大丈夫だなんて…


でも不思議だな

水樹と会えただけで、さっきまでの大きな不安が嘘のようにしぼんでいく



「揃ったようだな」


前理事長が渋い顔をして部屋に入ってきた


「学園が大変な騒ぎになっておるようじゃな

このままじゃ学生に迷惑がかかる


それを終息させるための手段の1つが…これじゃ」


そう言うと前理事長が1枚の封筒を出した


「これが安西から送られてきての」


「なんだそれ?」


「最終通告とやらだ

水樹が安西の孫の婚約者になれば今回の騒動は終息させる


でも断るのなら、徹底的に追い詰めると書いてある


水樹、よく考えろ

これはもはやお前と結衣だけの問題ではない

槙島家の未来がかかっておる」


その言葉を聞いて、私は広い真っ暗な空間に1人ポツンといるような気持ちになった


水樹の決定には重いものがのし掛かっている


私がどうにかしようなんて、考えが甘かった


唯一私にできることといえば、身を引くことだけ…



「あの、…」


「そんなことはわかってる

でも安西の条件はのめない


俺ら2人の未来を軽く見てもらっては困るんだよ

槙島家の未来も俺らの未来も背負う覚悟だ」


2人の未来…


水樹の力強い口調で私の言おうとしたことは掻き消され、私もどん底から引き上げられた


「お前にそんなことができるのか?」


「やるしかないだろ」


「水樹はこう言っておるが、結衣もそれで良いのか?」


ここまでのことを水樹に言ってもらっていて、反対などするはずがない


「私は水樹についていきます」


「まったくお前達は…


そこまで言うならやってみなさい

安西にはワシから伝えておく」


前理事長から安西さんに正式に断りの旨が伝えられたら、いよいよ全面対決だ


安西さんが動く前に何かできればいいのだけれど…


水樹はどうするつもりなんだろう





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ