表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/19

脆く儚い心

水樹ってばすぐ戻って来るって言ったのに、全然戻って来る気配がないじゃない!


怒りや不安や心配を募らせながら、私は水樹のカエリヲ待っていた


「あの…お1人ならご一緒しませんか?」


ぱっと顔をあげると見知らぬ男性がグラスを持って立っていた


な…!


「い…いえ、大丈夫です」


ほら、どうしてくれるのよ!

水樹のせいで知らない男の人に声掛けられちゃったじゃない!


あー、鳥肌が治まらない


もー…


そういえば

安西って人の所に挨拶に行くって言ってたっけ…


なら、腹をくくって私も行ってみるとするか



会場の奥へと足を運ぶと、そこには人だかりができていた

おそらくあの中心に安西という人はいるのだろう


男の人ばかりが周囲にいるためあまり近づけずに様子を窺っていると、話し声が聞こえてきた


「いやー、そういえば凄く綺麗と噂の安西さんのお孫さんが見当たりませんが…」


「あー、槙島の孫とどこかへ行ってしもうたわい

今頃若い2人で仲良くしておるじゃろ」


「おや、2人でなんていいんですか?」


「槙島の孫ならワシも文句はない」


「そうなんですか

今夜はクリスマスですからね

若い2人なら気分が盛り上がってもおかしくないですしね」


はぁ!?


全然戻って来ないと思ったら女の人といる!?


しかもこの人達は何勝手なこと言ってくれてんのよ!


そんなこと…

そんなことあるわけないでしょ!


私を突き動かしたのは怒りの感情だった


しかしホテル中を探し回るが、何せ広くて見つかりそうもない


疲れた私の頭の中には…


もしも…もしも、お嬢様とどうにかなってたらどうしよう


そんな不安がよぎる


でも、そんなのあるわけない、と考えを振り切ってしっかりと心を保つ

水樹がそんなことするはずないと信じていた



歩き回っていると、扉が半開きになっている部屋があった


その中では人の気配を感じる

覗いてはいけない気がするけど…

思いに反して体はその扉へと吸い寄せられていく


大丈夫

絶対に大丈夫


自分にそう言い聞かせて中を覗き込んだ

女の人の背中が見える

その瞬間、私の思いはあっけなく打ち砕かれた


女の人の奥に見えた水樹が、その人のドレスの肩の部分を握っている


これは…脱がそうとしている…


ショックな現場を目撃してしまったというのに、頭の中は妙にクリアだった


怒鳴りこんでやろうか、なんて考えていると水樹と目が合ってしまった


うわ、見られた

何故か私が悪いことをしたように思ってしまい、そそくさと逃げることにした


水樹達ってば、コソコソするならちゃんと扉を閉めなさいよ!


なんて走りながら考えてみるも、どうしようもなく悲しくなって涙が溢れてくる


ホテルの階段を駆け下りた私は、寒さも忘れてホテルを飛び出した

すると、ちょうど車から降りてきた1人の女の人にぶつかってしまった


「あっ、ごめんなさい…」


すごく気まずい…


寒空の下こんな格好で変な女だと思われているだろうが、謝って俯きながら通りすぎようとした


「ちょっと待って」


なのに、私はその女の人に呼び止められてしまった


「なんでしょう…?」


心の中では色々言っていても、やっぱりショックは受けていて、酷く疲れていた


「そのドレス…

あなたもしかして水樹の彼女!?

天野結衣ちゃん!?」


ズキッ


今それを言われるのは、傷口に塩を塗られるようなものだ


それにしても、なんでこの人から私の名前が出てくるのだろう…?


「私、水樹の双子の姉で、ひかるっていうの」


え?


そう言われて顔をあげて見てみると、確かに似ている


というかそっくりだ


ひかるさんは黒髪のロングだけど、水樹が女装した時と同じ年齢メイクと髪型にしたらたぶん見分けるのが難しいくらいだろう


「あれ、泣いてる?

まさか水樹に何かされた!?」


はっとして、私は慌てて手のひらで涙を拭った


「いえ、大丈夫です


それと、私は天野結衣で合ってます

けど、水樹の彼女かどうかは怪しいところです


ドレス貸してもらってありがとうございます

失礼します」


「え?待って待って!

帰るなら送って行くから、ほら乗って」


そんな格好で外にいたら風邪引くわよ、と言われ腕を掴まれると、車の中に押し込められる

この姉弟は強引さが半端じゃないな…


「あの…ひかるさんは用事があってホテルに来たんじゃないんですか?」


「そうだよ

でも、もう済んだからいいの


私、結衣ちゃんに会うために来たのよ


水樹がね、電話で急にドレス借りるから、なんて言うから何事かと思ってお爺ちゃんに聞いてみたら、結衣に着せるんだろうって教えてくれたの


それで、水樹がそんなことをする女の子を見てみたかったのよ

今までこんなことなかったから」


今まではこんなことはなかった


ちょっと前の私がその言葉を聞いていたら、特別扱いされているように思って舞い上がっていたかもしれない


でも、今は違う


ひかるさんに頼んだ時点では、まだ私のことを思ってくれていたのかもしれない


でももう、今夜会ったお嬢様にコロッとやられてしまっている


「で、水樹に何をされたの?」


あの光景がよみがえってくる

子どもの私が見てはいけなかった光景


私は1人で抱え込んでいられなくなり、ひかるさんにすべてを話した



「はぁ!?女のドレスを脱がせようとしてた!?

あのバカ、何が女は苦手よ!

女癖悪いままなんじゃないの!?」


「待ってください、女癖悪いんですか?」


突っ込まずにはいられなかった

これは問題発言だ


そう言えば、水樹の過去のことなんて聞いたことがない

人の過去は散々調べてるくせに



「あー…今はそんなことないはずだったんだけど

もともと女は苦手だったんだけど、大学に入ったばっかりの頃に、来るもの拒まず去るもの追わずの酷い男になったのよ


そこで、やっぱり女はどいつも同じだってなって女遊びは止めたんだけど、それでも寄ってくる人は絶えなくて…更に苦手になっていったんだけど


ってこれ、彼女の前で話すことじゃないわよね」


「いや、もうすぐ元カノって言われるようになると思うので」


悲しいことなのに、さらっと言えてしまっている自分が怖い

まだ現実として受け入れられていないのかもしれない


「そっか

そうよね、あんな男となんて別れたいわよね」


「え?」


違う違う

私がフるのではなくて、私がフラレるのですよ


水樹に新しい人ができて、用済みになった私が捨てられるのだと、そうとしか考えていなかった


「違うの?


そっかそっか、じゃあまだ水樹のこと好きなんだ?


だったら、自分の思いをぶつけるべきよ

水樹はバカだから言われないとわかんないの


それに、水樹も少しは変わってると思うのよね…

私にドレスを貸せって言ってきたってことは、結衣ちゃんの存在が知られることはわかってたと思うの


今までは自分の女性関係なんてひた隠しにしてきた水樹がよ?

ってことは、そのうち結衣ちゃんを紹介するつもりでいたんじゃないかしら?


だから少なくとも、水樹の中で結衣ちゃんは特別で真剣な相手なはずよ

自信もっていいんじゃない?」


「…はい」


社内がシンとすると、ブーブーという機械音が響いた


「ひかるさん電話鳴ってませんか?」


「あー、大丈夫大丈夫

でなくても良い電話だから」


そんなものがあるのか!?なんて思っていると、あっという間に寮に到着した


ここで、私は思いきってみることにした


「あ、あのひかるさん…

お願いがあるんですけど…―」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ