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幸せイルミネーション

クリスマスパーティーが行われている会場に階段を下りて足を踏み入れると、きらびやかな会場に負けじと着飾った人々が目に入ってくる


そんな奴等が一気に視線を向けるのだが、どんなに高い宝石をみにつけていても、今俺の隣でビビってる奴に勝てる女なんてどこにもいない


いつもの調子で、かわいいね、とでも言えば良かったのに、瞬間に目を奪われた俺は言葉が出なかった


そして、無理に出した言葉が『悪くない』って…

何やってんだか


会場では女達が近く同士でコソコソと話すと、その視線は結衣へと向けられる


おそらく

「あれが槙島様のお孫さんよ」

「隣にいるのは誰かしら」

「見たことないわね」

なんて会話が繰り広げられているのだろう


結衣もそれを感じ取ったのか、俺の後ろに隠れようとしている


こう頼られる行動をされると、笑みが溢れそうになるが、今は我慢だ


すると、前方から男性が数人近づいてきた

これはマズイな


思った通り、結衣は更に隠れようとする


「はじめましてになりますかな

そちらの会長さんには何度かお目にかかっていますよ

娘が撫子学園に通っていましてね


これからもよろしくお願いします」


その言葉に結衣はサッと姿勢を正して俺の隣に立った


「そうなんですか、こちらこそよろしくお願いいたします」


なんて丁寧に返している

男嫌いとはいえ、学園が絡んでくると会長としての立場で接するらしい


「そういえば、撫子学園は理事長が交代されたそうですね

娘は綺麗な女の人だと言っていた気がしますが…


あなたが理事長ですか?」


俺を見ながらそう聞いてくる

結衣を目の端で捉えると、しまった!という顔をしているが、こんな質問がくるであろうことは俺にとっては想定内だ


「理事長をやってるのは槙島水樹という僕の姉です

今日はどうしてもやらなければならない仕事があるようでして、代わりに来たんです


僕は槙島ひかるといいます

どうぞよろしくお願いします」


つらつらと出てくる俺の嘘に、結衣は絶句してしまっている


そんな挨拶を何十回と繰り返した後、やっと集団から解放された


結衣は場の雰囲気にも慣れてきたのか、シラッとした目で俺を見上げてきた


なんだよ…


「よくもあんな平気な顔で適当なことばっかり言えるよね」


そうか、結衣にはまだ話したことなかったんだっけ


「全部適当でもない

実際に槙島ひかるっていう双子の姉がいる

その結衣が今着てるドレスもひかるのだし」


「そうなの!?初耳


それでも、名前が入れ替わってるんだからバレるかもしれないじゃん」


「俺もひかるもめったにこういう場所には顔を出さない


次あいつらに会うことがあったとしても、どっちが水樹でどっちがひかるかなんて覚えてないだろ」


俺が女装して理事長やってるなんて気づけるほど、あいつらは俺に関心など持っていないだろうし


「そんなもんなの?」


「この世界はそんなもんだ」


移動する度に女の視線が追ってくる

でも隣に結衣を連れてるため誰も声をかけてこない


今の結衣は、この周りの女達に自分でもイケるかもしれない、という隙を与えない程の魅力を放っているのだろう


そんな結衣が大きな窓のまえで不意に足を止めた


「わ…すごい」


一瞬にして目を輝かせた


そこから見えたのは、広大な敷地一杯に彩られたイルミネーションの光


「行ってみるか?」


「うん!」


小さい頃から何度も目にしてきて、見慣れてしまったこの景色が結衣の目には輝いて映るらしい


そのままで出ていこうとしている結衣を追いかけて俺のコートを着せる


「すごいよ、大きい!」


まず目に飛び込んでくるのはたくさんの装飾が施された大きなクリスマスツリー


噴水は青く光り、水にライトが反射している

植えられた木々も1本1本が明るく光を放っている


奥へ行ってみると光のトンネルがあった


結衣はそれを見つけた途端に、ブカブカのコートをなびかせながら駆けて行った


「色使いが絶妙だね

見てて心地いいもん」


まるで花を愛でるように電球を眺めている


「ね?」


同意を求めて俺の隣に戻ってくるが、色使いに関してはまったくわからない


ただ綺麗だとは思うけど…


「今日、来てよかったなー」


結衣がそんなことを呟く

それだけで俺は嫌々来たパーティーでも、そんな思いが溶けていく


この長いトンネルを結衣と2人でこの温かな光に包まれながら歩いていると、幸せな気持ちになっていった



「そろそろ戻るか」


「うん、満足できた」


会場に戻ると使用人が耳打ちしてきた


「安西様がお見えになりました」


「わかった」


俺が今日、このパーティーに参加するようにしつこく言われた理由は、じじいの旧友である安西に挨拶するためだった


「結衣はここで待ってて

すぐ戻ってくるから

ウロウロするなよ!」


「子どもじゃないし!」


小さい子どものように扱われたのが不服だったのか、強く言い返してきた

結衣を1人にするのは気が引けたが、さっさと挨拶を済ませようと急いで安西の元へと向かった


「安西さん、はじめまして

槙島ひかるです」


「おぅ、君が槙島の孫か

槙島は元気にしとるか?」


「はい、お陰さまで」


安西の隣には結衣と同じ年齢くらいであるが、生粋のお嬢様というのがすぐにわかる女が立っている


どこかで見たことがあるような気もするが…

そう思ったが、それよりも強烈に嫌な予感がした


「この子はワシの孫でな

明日香というんじゃ

どこに出しても恥ずかしくないように育っておる


ひかる君、どうかね?」


予感が的中した

どうかね?じゃねーよ


「とんでもないですよ

僕にはもったいない」


そう言って乗りきろうとすると、横で立っていた女が口を開いた


「会長というポジションを手に入れれば、あなたに相応しい女性になれるのでしょうか?」


澄ました顔だったのが、俺を試すような目付きを向けてくる


「どういう意味ですか?」


「少し2人でお話しませんか?」


ここで会長というワードを出してくるってことは、結衣のことを言っているだろうが…


意味深な気がしてその女の案内する場所へとついていった


到着したのは会場から少し離れた誰もいない部屋


「私には嘘も隠し子とも通用しませんわよ?





撫子学園理事長の槙島水樹さん」


「そういうことか…」


この女は、俺が理事長をやってることも、結衣と付き合ってることも知っているというわけだ


「幼い頃、水樹さんの写真を見たときから、私の相手はこの方しかいないって思いましたの」


大事そうに取り出した1枚の写真

覗いてみると、小学校に投稿者しているらしい俺が写っていた

でも、この写真…どうみたって


「隠し撮りじゃねーか」


「えぇ、よく撮れていますでしょ?


小さい頃からずっと水樹さんを見てきたんです

知らないことなどありませんわ


女装して理事長をやっていることが極秘事項となっていることも、もちろん知っていますわ


バレてしまえば水樹さんだけでなく、天野結衣まで追い込まれる」


結衣の名前を出されると、冷静ではいられなくなる


「何が望みなんだ?」


怒りを全面に出して言う


「そんなに怒らないでください


簡単なことですわ


私が水樹さんの秘密を黙っておく代わりに、私と婚約していただきたいのです」


そうきたか…


「かつては女遊びが激しかった時期もありましたよね?

女が苦手だなんて、そんなのどうにでもなりますわ

なんなら私が治してあげます


ですから…」


距離を縮めてくると、自分のドレスの肩の紐をほどいて脱ごうとする


「やめろ」


ギリギリの所でドレスを掴み、脱げ落ちるのを防ぐ


しかし、次の問題が俺の目には映っていた



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