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過去を越えろ

水樹と顔を合わせてはマズイと思った私は、今日は少し早めに寮を出た

その甲斐あって、夕方まで水樹とは会わずに済んでるのだけれど…


もう合同文化祭を明日に控えたというのに、問題はこういうときに舞い込んでくる


「会長大変です

ちょっと来てもらえますか?」


私を呼びに来た深雪の顔には、焦りの色が窺える

いつもクールな深雪がここまでになるとは、もしかしたらかなり深刻な事が起きたのかもしれない


そう思って急いで深雪についていく


到着したのはメインステージの前


「ここのステージなんですけど、バックパネルに貼りつける絵が発注ミスで届かないらしいんです」


「申し訳ありません

私のせいなんです…」


ステージの設営を任された学生達が頭を下げてくる


見てみるとステージの背景が真っ白なままになっている


んー…

これだけ大きな絵を今から頼んでも間に合わないだろうし…


「見方によっては、ステージの背景が真っ白っていうのも、悪くないなかも…

敢えて白にしましたっていうのを全面に出せば…


…駄目かな」


無理やりこれでいいんじゃないかと思おうとするが、やはり無理がある


「今更どうすることも出来ないですもんね

仕方ないですよ」


深雪がまとめてくれて、仕方ないけど諦めることにした


「会長、戻らないんですか?」


「うん…もうちょっと考えてみる」


私は諦めるのがなんだか勿体なくて、もう少しその場に留まることにした


でも考えたところで何も案なんて思い浮かばない


中途半端に飾ったら、こんなに立派なステージだからそこだけ浮いちゃうし…


「絵が届かないなら、お前が描けばいいだろ」


急に声がして振り返ると、そこには大量のペンキが入ったかごを持って立っている水樹がいた


ドキッと、胸のトキメキが蘇ってしまう


「な、なんでいるの」


「副会長が俺の所に来たんだよ

会長が悩んでるんで助けてあげてくれませんか、って」


「深雪が…」


「だから、ほら」


ペンキをステージの上に置く


「こんなでっかい絵描けるのなんて、お前しかいないだろ」


「描けないよ…」


「なんで?」


「水樹が持ってきた新聞記事、あったでしょ?

あれで賞をとってから、絵を描こうとするとプレッシャーに押し潰されそうになって、描きたいものを描けなくなって…

最後には描きたいものすらわかんなくなった」


そんな私がこんな大きな絵を描けるはずがない


「中3の頃の結衣はそうだったんだろ?

今の結衣もそうなのか?


この文化祭の準備をする皆を見てきて、何も感じなかったのか?

会長としてたくさん見てきただろ?


今こそ、過去の自分を超える時だ」


そう言って、絵筆を渡された


そりゃ皆のことを見てきたわよ!

最初は合同文化祭なんて、って思ったけど、皆の反応はすごく良くて…

準備を進める姿は楽しそうで、これぞ青春って感じで

男女でお互いに文句を言いながらも協力し合ってて


誰もがここで諦めたくないと思ってるのはわかってる



目の前に壁のように立つ大きな白いパネル


ここに絵を描けるのは私だけ…


ふざけないでよ

そんなこと言われたら、期待もプレッシャーも半端なく感じちゃうじゃない!


でも不思議なことに、押し潰されそうになんてならなかった

それはきっと、賞なんか関係なくて、私の絵に対する純粋な期待だから


なんだろうこの感じ…

今なら描けそうな気がする



ステージに上がって水樹を見た


見てなさい!

ぎゃふんと言わせてやるんだから!


置いてあったマイクを掴むとスイッチをオンにして息を吸い込んだ


「テーマは

理事長のわがまま聞いてあげる!」


そうマイクを通して水樹に向かって叫ぶと、絵筆をペンキの缶の中に突っ込んで、大胆に描いていく


下書きなんて必要ない

頭の中にもうイメージは出来上がっている

描きたいものがあって、描きたいものを描けるという久し振りの感覚を取り戻した


時間が経つのも忘れて、次々に色を加えていく

一瞬、もう空が暗いな…なんて思ったけど全く気にしない

とにかく描くことだけに集中した

でないと、明日の開催時間に間に合うかどうかわからない



身体中にペンキを飛ばしながら描き続け、最後に一呼吸おいて真っ黒に一部を塗った


フラフラと数歩後ろに下がり、出来を確認する


「よし…完成した…」


そう呟くと、後ろから盛大な拍手が聞こえてきた


驚いて振り向くと、もう登校時間になっていたらしく、撫子学園、青城高校の学生がたくさん集まっていた


「ありがとうございます!」


昨日謝っていた学生が駆け寄ってきた


「私がこんなに描けたのは、理事長のお陰よ」


そう、全てが水樹のおかげだ



さすがに疲れた私は、七海と深雪に支えられながらステージを後にした


「深雪が水樹に言ってくれたんだってね

ありがとう」


「いえ…

実は私、知ってたんです、会長が絵を描くのが得意だってこと


でも、私には説得できないだろうなって思って、それで理事長にお願いしたんです」


「え、知ってたの?」


恐るべし深雪


「はい

私も七海と同じくらい会長に憧れてますから


でも、理事長には敵いません

私が朝早くに、ステージ前に行った頃にはいましたから多分、一晩中会長のことを見守ってたんだと思います」


「あー!深雪さんもお姉さまを狙うのですか!?


例え深雪さんがライバルでも、七海は遠慮しませんからね!」


「はいはい」


そう言いながら、深雪は七海を適当にあしらっているが、その光景がなんとも微笑ましい


私はこんなにも優秀な後輩に支えられているんだ


会長室に入るとすぐに、私は深い眠りに落ちていった



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