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理事長交代

広々としたわずかな灯りがともる講堂で、大勢の学生や教職員を前に堂々と壇上に立つ強い光に照らされた1人の若い女性


その照らし出された美しさに誰もが見とれている


「皆さんはじめまして

新しく理事長になりました、槙島水樹と申します

まだまだこの撫子学園については、わからないことも多いのですが

皆さんが安全で充実した学園生活を送ることができるよう、理事長としての責務をしっかりと果たさせて頂きますわ


皆さんからみればお姉さんくらいの年齢でしょうか

気軽に声をかけてくださると嬉しいですわ


素敵なレディになれるように共に頑張りましょうね」


にこりと笑顔を向けると、盛大な拍手と憧れの眼差しが一気に注がれた


小学校から大学まで一貫のお嬢様学校、私立撫子

その高等学校にあたる撫子学園では、新しい理事長による挨拶が行われていた


ワンピースをさらっと着こなす8等身の抜群のスタイルに、大きな瞳を持った整った顔立ち

そして茶色いフワッとしたロングヘアながらも溢れ出す上品さ


誰もが認める美人


「槙島前理事長のお孫さんなんですって

もう、既に素敵なレディですわ」

「そんなお方が共に頑張りましょうなんて

もったいないお言葉ですわ」


あーあ、さっそく被害者が出てしまっているではないか


私は、生徒会長席に座って皆の様子を眺めたあと、呆れた眼差しを新理事長に向ける


断言しよう

あの人は素敵なレディになろうなんて1㎜も思っていない


腕を組んで若干ながら悪態をついていると、こっちに目が向けられた


うわ…目が合ってしまったよ…


私に向けられたその顔は、天使のような笑みを浮かべながらも…

この拍手を見せつけているようにも、何かを企んでいるようにも見えた


周囲にバレないように心の底から溜め息をついた


本当にこれでいいのかな…


これから槙島水樹と学園生活を送るなんて考えたら…

あー!ゾッとする!



未だに止むことのない拍手の中でそんなことを考えていると、まるで私が悪者みたいに思えてくる

でも!そんなことはないのだ!


よくもまあ、こんな大勢の人を前にあんなに堂々と振る舞えたものだ


本来なら、お嬢様でもなく、高校から撫子学園の学生となり、学費免除のために生徒会長に這い上がった私は、こんな悪態をつける立場ではない


それでも私、天野結衣は新理事長を認めることはできない…

そこにはれっきとした理由があるのです





高校3年生に進級してしばらくが経ったある日、私は理事長の家へと呼ばれた


「わざわざ呼び出したりしてすまんの

実は大事な話があってじゃな」


「はい、なんでしょう?」


優しくてちょっとお茶目な理事長は、外部から入学した私にも良くしてくれている


「前々から考えておったんじゃがな、そろそろワシも理事長の座を次に譲ろうかと思っての」


「え…そうなんですか?」


学生からはお爺様なんて呼ばれて親しまれていた理事長


そんな理事長がもういなくなるなんて寂しすぎる


でも引き留めるのも私のすべきことじゃないし、寂しさに浸ってもいられない

会長としては次の理事長が誰なのかということが先だ


たしか理事長には3人の息子がいた

ということは、長男が継ぐのだろうか?


「ワシの次は、孫に任せようと思うておるんじゃ」


「孫!?」


え、待ってよ…

理事長は私の祖父とそれほど年齢は変わらないはず

だとすれば、孫というのは私と同じくらいの年齢ではないのか…?


「入ってきなさい」


部屋の外に向かってそう言うと、重たそうな扉がゆっくりと開く

目を向けると、1人の若い男性が入ってきた

私よりもいくつか上といったかんじだろうか


「こやつが孫の槙島水樹じゃ

今年大学3年になってな、暇じゃろうし、良い経験になるじゃろうから任せることにしたんじゃが、何せ男じゃ

結衣、色々と協力してやってくれ」


協力!?


「よろしく」


槙島水樹という男は特に表情を変えることもなく、ぶっきらぼうにそう言った


「あ、天野結衣です

こちらこそよろしくお願いします」


私は丁寧にお辞儀をした


「結衣はな、男が苦手なんじゃ

水樹、その辺はわかってやれ」


「はい」


あ…いや、別に秘密とかじゃないんだけど…

そんなさらっと言っちゃうのね…


私はこの槙島水樹という男の隣ですました顔をしているが、実際は男嫌いのせいで身体中に鳥肌が立って仕方ない状態にある


男嫌いが理由でこの学園に入ったというのに、やはり男との関わりを完全に絶つことは不可能らしい


それにしても、男性の教師との関わりはまだ仕方ないと思えたけど、ここまで若い男の人と関わることになるなんて…


私は大丈夫だろうか?


まぁ、見た感じおかしな人とかではなさそうだし、1年間なんとかやり過ごせそうだ


「うむ。水樹がわかってくれれば、手を出すこともないじゃろう」


理事長は何を言い出すんだ?

また、笑えない冗談を言う悪い癖が出てきてますよ!


「お言葉ですが、じいさん

最初から手を出すつもりなんてありませんよ」


おぉ、ここで言い返せるのか、さすが孫なだけある


でも…

軽く私はバカにされたんじゃないか?


「あぁ、そういえば水樹は女が苦手なんじゃったな」


「たとえ苦手じゃなくても手は出さないのでご心配なく」


私に向かって言ってくる


あ?


「こ、こちらこそ!」


この返事が合っているのかどうかは定かではないが

侮辱されていることはわかったぞ!


やっぱり、ちょっとおかしな人なのかもしれない…


「学園のトップとして仲良くやってくれよな

仲良くと言ってもイチャつけという訳じゃないぞ」


「…」


「…」


言ってやったりみたいな決め顔をしていらっしゃいますが理事長、かなり反応に困ります


「人の話聞いてなかったのかよ、あり得ねーから

じゃあ、俺は失礼する」


うわ、言葉使いが一変した!


そう言うと、整った顔を面倒くさそうに歪めながら、部屋から出ていった


私だってないですよ!

その背中に反論してやった

もちろん心の中で


こうして、私は新しい理事長のサポートをする覚悟を無理矢理させられたのでした


まだこの時の私は、槙島水樹は少し厄介な人かもしれないという認識でしかなく、本当のおかしさには気づく余地など無かったのです

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