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旅立ち

作者: ちびひめ

彼氏の家に行ったら


真っ最中だった。



私は仕事もそれなりにやってきたし、彼氏のことだってそれなりに大事にしてきた。


それなのに、こういうことってよくないよね。

私は思い切り扉を閉め、今までのことをなくしようと思った。


それなりに可愛い彼女してたと思う。

いつもきれいにして、独り暮らしの彼に手料理を作ったり、彼が飲み会のとき送り迎えしたり……

デートらしいデートはなかったけど、彼の部屋でピーとかピーピーとかしたりして、それなりに仲良くやってたと思うんだ。


って、ちょっと待てよ。私、彼から一回も好きって言われたことがない。


血の気がひいていく。

私って、ただの都合のいい女だったんじゃあ……


頭をふる。


違う、彼はそんなひとじゃない。カラオケ代だって――私が払ったし。

いや、食事代だって――私が払ったし。


いゃあぁああああああ!


都合のいい女バッチリじゃない。



馬鹿らし……旅でもして、早く忘れるか。



かくして私は旅に出ることにした。


ちょっと長めの旅だから、キャリーバックに夢を詰め込んでみました。

旅先で出会いもあるかもしれないし?


とりあえず九州を出ることにした。


目指すはとりあえず京都。一回行ってみたかったんだよね。

リレーつばめに乗って約二時間、博多から新幹線に乗り継いで、一路、京都を目指す。

半日がかりで京都に到着、今日の寝床をさがす。


季節は秋。


行楽日和の真っ青な空。


ゆえに、宿が見つからなかった。


仕方ないので、少し高額なホテルを当たっていった。

電話しまくって、重いキャリーを転がして、一件一件当たっていった。

結果、駅の裏手にあるちょっといいホテルに泊まることとなった。灯台もと暗しとはこのことだ。


チェックインすると、私は京都の観光地図を開いた。旅本を片手に、丁寧に回る順番を考えてみた。まずは本願寺…これは外せない。

次に外せないのが東福寺。今の季節は紅葉がすごいらしい。

それから三十三間堂。仏像のチェックは欠かせない。


他にもいろんなところを見て歩きたい。

一週間も休暇を取ったのだ。片っ端から見ていく以外のなにがあるだろうか?!


女の一人旅、道中なにが起きるかわからない。

中には運命の出会いも……なんちゃって。


再度私は地図を開き、散策を始めた。


まずは東福寺で紅葉を見る。

ここはおばちゃんが集う場所だった。

せっかくの紅葉も台無し。

外人さんが後からやって来た。

めっちゃ英語でしゃべってる。それなりの高校を出た私にも通じないくらいの早口である。

早々に退散しようかとおもったが、捕まってしまった。


ブロンドの髪を持つ彼は、彫りが深く、まるでローマの彫刻のようだった。

片言の日本語で懸命に、

「写真、お願いでござる」

と、なんとまぁ、時代錯誤な感じで写真を撮ってくれと言う。


私は日本語で

「オーケー、オーケー」

と言ったが、微妙に伝わっているようだ。


写真を撮ると、

「ありがと、センキュー、どうもでござる」

と言って去っていった。


私は緊張の糸がほぐれ、肩の荷がおりる。

言葉が通じないのって、結構つらいかも。



そのあと、伏見稲荷を見たかったのだが、時間があまりないので次回?あるのか次回。にすることにした。


その足で三十三間堂を見に行った。

仏像の写真は撮れなかったけど、迫力があってすごかった。


と、ここでも外人の二人に出会う。

「おぅ、あなた、ラッキーガールね」

と言われ、再び二人の写真を撮る羽目になった。


それからも回るそばからそば、彼らが待ち受けていた。


偶然とは恐ろしいものである。

いや、同じ地区をまわっているのだから当然と言えば当然だった。


そのまま清水寺へ。

もちろん、お約束の二人が先回りしたかのようにいた。


ついでだからスリーショットを他の観光客に撮ってもらった。

一期一会だよなぁ、なんて頭に巡らせながら、私は夕食を食べに、豆腐料理がメインのお店へはいった。

ここは雑誌でも取り上げている老舗で、例に漏れず私もその記事を見てやってきたのだ。


すると、ここでも二人と一緒になった。


意気投合した私たちは、夕食を共にすることになった。


ブロンドの髪をしているのがジョン、赤い髪をしているのがロバーツだった。


片言の日本語と、ジェスチャー、それから英和辞典を片手に、私たちは二時間以上その店で飲んで、二次会は彼らがカラオケに行ったことがないというのでカラオケに行くことにした。

日本の歌を聞きたいと言うので、演歌を熱心に歌った。

「へいへいほ〜」

は世界に通じる歌だと判明した。


二人は私のことを大和撫子だという。

確かに黒髪のロングだが、会ったばかりの人間と二次会まで来れる大和撫子ってどんなんよ……


彼らが私と同じコースを辿っていたのには理由があった。

なんと参考にしていた雑誌が同じだったのである。

ちなみに、泊まるホテルも一緒だという。

なんという偶然!!

運命なのだろうか……


翌日は最初から一緒に回った。

南禅寺を見て三門の大きさに驚き、平安神宮でその美しさに見惚れ、京都御所を見て回った。


秋だなぁ、と感じるのは紅葉のせいだけじゃない。

空が高く済んでいて、雲が流れるようだ。


私たちはここで一旦食事休憩を挟んで、下鴨神社で水の冷たさを感じ、金閣寺でその荘厳さを身体にひしひしと感じた。





ジョンは日本語の留学のために日本へ来たと言う。


ロバーツはそんな彼を追って観光に来たと言う。


道理でジョンは日本語の理解が早いと思った。

将来は日本語の先生になりたいと言う。その割には片言だが……


私たちは毎日一緒に見て歩き、価値観が同じだということに気づいていった。

ジョンは特に、日本への憧れが強い気がした。

ジョンと話すのは気楽で楽しい。

別にロバーツが嫌いとか、そんなんじゃないけど、ジョンといるときは自然体でいられた。

私の地元の言葉を教えたりもした。

「ジョンはなんでもすごいって言う」

と笑いながら

「日本っていうのがそれだけいいってことさ」

と片言で返してきた。



「ねぇ、ジョン。ジョンが日本語の先生をするのは日本なの?それとも地元なの?」

「日本でしようと思ってるよ」

「それなら私の地元に来ない?熊本っていう素晴らしい場所なんだけど」

「それはいいね!君の家族もそこにいるのかい?」

「えぇ、そうよ。家族みんなが仲良く暮らしているの」

「そうかぁ……君がいてくれると、それだけでホッとするからね」

そう言われて私は紅葉のように赤く染まった。


私はジョンにとってどういう相手なのだろう。


深く考えないようにしよう、と思った。また傷つくのは嫌だったから。


四条河原の見下ろせるレストランに行き人がほんの少しまばらになった鴨川をみつめる。

「この辺はうまくいけば舞妓さんが見れるよ」

と言うと

「舞妓さん、私、舞台みた、よかったすごく」

「舞台って?」

「オチャヤサンでご飯を食べながら見ました」

こ、これは……!


普通お茶屋さんに行っても一見さんはお断りされる。つまり、お茶屋さんにコネがなければ入れないのだ。

誰から紹介されたのかと聞くと、車会社のテヨタの社長のつてだという。

これは私もぜひ一度見ておきたいものだ。

駄目を承知でジョンにかけあってみる。

するとすんなりオーケーが出た。

お茶屋さんにも電話してくれて、今日なら見れる、ということになった。


服は正装がなかったので、間に合わせのワンピースにボレロを合わせた。高かったけど、ジョンが払ってくれるお茶屋さん代と比べれば屁でもない金額だった。


ロバーツも合流し、お茶屋さんへ向かう。


どうやらジョンはどこだかの御曹司らしい。

だからお茶屋さんにもコネがあるんだと。ロバーツ談。

ロバーツの言うことだあんまりあてにはならないが。


お茶屋さんで舞妓さんと芸妓さんの躍りを見て、とても感動した。日本人でよかったなと思ったほどだった。

感激のあまり、涙が出た。でも芸舞妓さんたちは、それを見て見ぬふりをしてくれた。


こういうサービスがまさに日本人だなと思わせる。



お座敷の時間も終わり、どこかで飲んで帰ろうと言うと、ロバーツは

「俺は飲み過ぎたから帰る。あとはお二人さんでよろしく」(ジョン翻訳)と行って帰ってしまった。仕方がないので、ホテルの最上階にあるバーで飲み直すことに。

京都タワーがちょうど見えるこのバー、ジョンには似合うけど、私にはちょっと大人っぽすぎたみたい……


するとジョンが

「今日の服装、とても素敵です。舞妓さんに負けてない」

と褒めてくれた。

外国の方はこういう歯が浮くセリフをさらっと言ってのけるからやっかいだ。


でも、今日の私はちょっとだけ違った。


「私ね……明日で休暇終わりなの。だから、明日夕方の便で熊本に帰ります」

名刺の裏に走り書きのようにメアドを書いてジョンに渡した。

「よかったら、連絡くださいね」

それで精一杯だった。


すると、ジョンは私の腕をつかんで、言った。

「絶対、連絡、シマス」


翌日、高速バスに乗る私を二人が見送ってくれた。



ジョンからの連絡は来なかった。



一年と半年が経ち、旅行のことなんて忘れた頃にメールが入った。

また迷惑メールだろうと思って消そうとしたが、指が止まった。


それはジョンからのメールだった。

「念願の先生にやっとなりました!熊本市内のマルセン日本語教育センターに配属になりました!これであなたにも、会えますか?」

私は

「バカ野郎、メールが遅すぎだ」

と私は言い、涙ぐんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] うん、すてきなお話です。 ジョンのひととなりの良さで心が浄化されました。
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