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9話 3人目

「「いや、私達(俺達)は仲間じゃないから」」



声が見事に重なった。

なんやかんや一緒に行動を共にしていただけであって、実際には仲間パーティーでも何でもない。たまたま命を救ってもらい、たまたま同じ店で夕食を食べ、たまたま一緒にオークを討伐し、たまたま同じ宿に泊まっているだけだった。

 ……たまたまが多すぎる気がするが、気のせいだろう。人生、そういうものだ。



「力不足なのは分かって――えっ、えっ?違うんですか?」



 案の定、ハリスは困惑している。

 尖がり帽子を手にしたまま、状況が理解しきれていないらしい。恐らく、仲間に入れてもらえるように、あの手この手を考えて来ていたのだろう。だが、可哀そうに――それ以前の問題だったというわけだ。



「残念ながら、違います」

「そうだな。こんな足を引っ張るしか脳の無い新米冒険者――まっ、仲間にしたいとも思わねぇ」

「……ルートさん、言いすぎですよ」



佳織は、ぷぃっとルートから顔を背けた。

ルートのことは、頼りになると思っていたが、こうも卑下されてばかりだと腹が立って来る。彼が事実を口にしているのだから、なおさらだ。



「私、これから『アイヴォリーの迷宮』に挑戦しようと思っているんです。

迷宮を突破して、必ず封印された宝具を手に入れてやるんですから。そしたら、足を引っ張る無能な冒険者なんて言えなくなりますよ」



腕を組み、胸を張って応える。

ルートとハリスは、ぽかんと口を開けた。信じられないものでも見るかのように、佳織を見つめた後、



「っぶ、ははははは!!傑作だ、傑作!!」



ルートは、腹を抱えて笑い始めた。笑いすぎて、目じりに涙が滲んでいる。佳織は、思いっきりルートを睨みつけた。



「なんで笑うんですか!?」

「『アイヴォリーの迷宮』は、確かに初心者向きの迷宮さ。だがな、セブンスコードを手に入れると大法螺吹くなんて、馬鹿じゃねぇの?

今まで何人もの冒険者が挑んで来たけどな、見つかってねぇんだぜ?」



どうやら、本当に信じていないらしい。

 現在の佳織の様子を見ていれば、無理なのは一目瞭然だ。笑われるのも無理もないだろう。佳織は、ルートを一瞥するとハリスに向き直った。



「ということなんです。1人では迷宮突破するのが心細いので、こちらからお願いします。

ハリスさん、よろしければ仲間パーティー組みませんか?」



 ハリスは、アホみたいに口を開けたままだった。佳織が差し出す手を、ぼんやり見下ろし、我に返ったように尋ね返してきた。



「僕でよろしいんですか?」

「もちろんです。私、魔術系統はからっきしなので、ハリスさんがいると心強いです」



それを聞くと、ハリスは嬉しそうに笑う。そして、佳織の手を握り返し、力強く頷いた。



「奇遇ですね。実は僕も、『アイヴォリーの迷宮』に興味があったところです。

こちらこそ、ぜひ御同行させてください」



ハリスは、快く受け入れてくれた。

冒険者として初めての仲間の存在に、心なしか緊張していた気持ちが解れる。



「それでは、さっそく出発しますか?アイヴォリーの迷宮は、この次の街です」

「いいですね、行きましょう!!」


「って、お前ら。ちょっと待て!!」



立ち去ろうとした佳織たちを、ルートは引き留める。

ルートの手が、伸ばされたまま、どことなく宙をさまよっていた。

ルートの手は、行き場所を無くした様に宙をかいた後、耳の後ろを面倒くさそうに掻き始めた。



「あー、本当に2人で行くつもりか?」

「え?」



 その瞬間は、ルートが何を言いたいのか分からなかった。

だが、すぐに何を言いたいのか漠然と思い至る。佳織の推測通りであれば、これほど心強いことは無い。だけれども、なんとなく―――ここを曖昧にしてはいけない気がする。

「しっかり真意を突き止めなければ!」と、直接問いただそうと思ったが、いざ言葉に出すのは気恥ずかしい。開きかけた口を、なんどか閉めたり開けたりして、ようやく言葉を紡ぎ出す。



「……まぁ、今のところは。

ルートさん、稽古付けてくださり、ありがとうございました」

「……」



結局、何が言いたいのか聞き出すことが出来なかった。

ルートは何も答えない。

ハリスも何か言いたげな表情を浮かべていたが、ずっと黙って2人の様子を見ている。

佳織は、ルートを上目づかいで見上げた。なかなかいい言葉が見つからない。ハリスを誘う時は、結構すんなりと話すことが出来た。何故、ルートを誘う時に限って上手く切り出せないのだろう。佳織は、自分の行動力の無さに苛立っていた。



「えっと、その――」



 言葉に悩む。

 こうしている間にも、時が無情に流れていく。沈黙が続く時間ほど重苦しい時はない。手に汗を握ってしまう。悩んで悩んで、悩んだ末、佳織は、これ以上ないくらい顔を赤らめ、1つの結論を口にした。



「わ、私達を死なせたくなかったら、仲間になってください!!」

「……は?」



 ルートは、呆気にとられたように口を開いた。

 数秒、呆けたように口を開いた後、先程までの真剣な表情が嘘のように大笑いし始めたではないか。



「っははははは!! 真剣な顔で何を言い出すかと思ったら」

「だって――『死なれちゃ後味悪い』って言ったのは、ルートさんなんですよ?

散々『無謀だー』『やめとけー』って言われても、私達は行きますから。そこで死なれちゃ後味悪くないですか?」

「いや、別に死んだかどうかなんて知らねぇし、確認しねぇし」



 笑い転げるルートだったが、目には真剣な色が浮かんでいた。

 


「……もっと別の方法で誘ってくると思ったんだがな……

まっ、てめーの言う通りかもしれねぇな。

風の噂か何かで聞いた日には、寝つきが悪くなる」



ルートは、何か小さい声で呟いた後、握りしめた右拳を前に掲げた。



「ただし、約束しろよ――迷宮に挑む以上、生半可な覚悟じゃ生きて帰れねぇ。

その武器けんに命を乗せると思って、戦えよな」



 その言葉に、佳織は微笑んだ。拳を握りしめ、まるで宣誓するかのように前に掲げる。ハリスも自然と拳を掲げていた。



「もちろんです」

「分かっていますよ、だからこそ――僕達は仲間パーティーを組むんですから」



かちんっと乾杯するかのように、3人は拳を合わせた。

目指すは『アイヴォリーの迷宮』。3人はそれぞれ覚悟を胸に、歩み始めたのだった。

 


この決定がどう転ぶのか―――佳織たちには、知る術も無かった。




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