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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

繰り返しの春

繰り返えしの春は彼女達だけじゃない。

作者: 茶框


『神様、これは嘘だと言ってちょうだい』の続きです。

今回は『誰か(以下略)』でもちょびっと出てきた主人公の双子(弟)達が主役です。

残酷というより話が病んでます。

……グフッ(´-ω-`)吐血



 これは少し前から繰り返される過去と現在の話。


 とある夢物語を待ち望んでいた1人の少女と、その少女によって巻き込まれてしまった1人の少女がいた。

 少女達は知らない。繰り返される春の裏側に少女達と同じくらい、否、それ以上に苦しんだ2人の少年がいたことを。




「「姉さんは7回とも全てお前が殺したんだよ」」




 頭部や体のあちこちが潰れ真っ赤に染まった女子生徒を抱える2人の男子生徒はとても綺麗な笑顔をしていた。







◇*◆*◇



 俺達2人の始まりはいつも姉さんが「おはよう」と声を掛けてくれる施設のリビングだった。


 俺は兄の吉田凉志(よしだ りょうし)、弟の吉田凉季(よしだ りょうき)。ご覧の通り双子の兄弟で吉田凉(よしだ りょう)の1つ年下の弟である。



 朝起きたら「おはよう」の挨拶から入る当たり前の日常で、当たり前に過ごしていた幸せはある春が終わろうとした頃に何もかもが変わってしまった。




「ごめんなさい」




 ちょっとの文章の最後に弱々しくそう書かれたちっぽけな遺書を残し、姉さんは施設の自室で首吊り自殺をしていた。



「……ね、ねえさ」

「姉さんっ!?凉季お前今すぐ施設長(マザー)呼んでこい!今すぐだ!!」

「わ、わかった…!」



 俺は凉季に怒鳴り付けるようにして指示をし、急いで首を吊っている姉を下ろした。幸いなことか皮肉なのか俺は姉さんより20cm高かったので姉さんが足場として利用したであろう椅子に乗り白くふざけた程冷たい姉の体をすぐに床に寝転がすことが出来た。


「ねえさん、姉さん起きて姉さん目を開けてよ」


 何ふざけてるんだよ、エイプリルフールはもう1ヶ月前に終わったじゃないか。なあ姉さん、そう姉さんの冷たくなりすぎている頬ぺちぺち叩きながらそう言う。

 姉さん、いつものように早く、その紐の跡が着いちゃってる喉なんか気にしないから、いつものように「おはよう」って言ってよ。


「……ふたりとも、もう、おやめ。……もうっまにあわ、ないさ」


 俺は凉季が施設長(マザー)を連れて来て施設長(マザー)や周りの人に止められるまで俺と凉季は姉さんを起こし続けた。






 死因は自殺。理由は不明という話で姉さんの葬式は明後日に執り行われるように決まった。俺も凉季も姉さんが学校で嫌な目に合っていることを知っていた。

 なんでそんな姉さんを1人にしてしまったんだという後悔に襲われた。



「…なあ、凉志」

「…なんだよ、凉季」

「……このこと、浅間は知ってんのかな?」

「…知ってるだろ、だって浅間は姉さんを苦しめてたんだから」



 浅間、姉さんとどうやって友達になったのか未だに謎の金髪ピアスの不良、浅間龍のことだ。

 あの頃の浅間は姉さんに気があるのが見たら分かるくらい姉さんのことを気にしていた。だからか何度かこの施設に来ては俺や凉季、他のチビどもの相手をしてそれなりに施設長(マザー)やチビどもの人気があった。

 でも俺達は気に入らなかったけど。そういや浅間は同じ学校だったな。俺達2人は今年姉さんの通う高校に入学したばっかの新入生だ。


 だから知っていた。学校で姉さんがどんな目に遭っていたのか。浅間には失望した。入学してから数日で我慢の限界になり浅間を殴りに行こうともその噂を作り上げたクソ女も潰しに行こうともした。

 だけど姉さんは頑なに俺達に学校では話し掛けるな自分の弟ということは伏せていろと言った。これがその結果だ。


 姉さんがそう言うならと従った結果、俺達は大切な唯一の家族を失った。



 その日は一晩中2人で泣いた。泣いて泣いて涙が枯れたんじゃないかってくらいに泣き尽くした。

 朝になり2人して目を赤く腫らして重い足取りでリビングに向かった俺達はある光景を目にした。




「あ、凉季、凉志おはよう。」



 そこにはいつものように笑って「おはよう」という姉さんがいたから。



「……………姉さん?」

「なに凉季?」

「………………姉さん?」

「なに凉志?」

「……え、ほんとに姉さん?死んだんじゃ」

「……あれ、姉さん生きて?」


「おいこら2人して姉さんを殺すなよ」






 なに?2人してまだ寝ぼけてる?そう苦笑しながら言う姉さんはどこからどう見ても生きていた。

 あ、あれ?今5月だったよなと呟くと姉さんはまた苦笑しながら言うんだ。



「なに言ってんの、今はまだ4月じゃない」



 ここで俺と凉季は考えることを放棄した。姉さんは生きている。それだけで俺達は良かったから。

 姉さんは、生きている。それだけで十分だったから。

 今目の前には姉さんがいるんだ。



「「そうだったね、姉さん」」

「そうだよ」



 凉季と俺は次こそは姉さんをどんなことがあっても俺達2人で守りきろうと固く誓った。

 でも、その誓いは守れなかった。




 何故なら1ヶ月後、姉さんが学校の屋上から飛び降り自殺をしたと警察から電話があったから。

 凉季と俺が帰ってから数分後の出来事だった。



 あれから計6回姉さんは死んで生き返ってを繰り返す。

 2回目辺りから俺と凉季は姉さんが死んで生き返って時間が巻き戻っているということに頭が狂いそうになったけど、もし俺や凉季が狂えばギリギリなラインに立っている姉さんはどうなる?

 たぶん様子から察するに姉さんは自分がループしていることに気が付いている。


 なら、俺達は姉さんが狂わないように、次こそは生きられるように、支えて、助けるんだ。





 俺と凉季は姉さんとループをするたびにあの手この手を使い姉さんが“悪女”と呼ばれないように頑張った。


 時には姉さんを“悪女”と蔑んだ奴をこれでもかというくらいに痛め付け。

 時には姉さんに危害を加えた奴に精神的に修復不可能なまでに追い込み。

 時には家族仲や恋人との仲が悪くなるようなネタを匿名でそいつらに送り付けてやったりした。



 犯罪だと責められても構わない。俺達はただ姉さんが無事に生き延びてくれればそれでいいんだから。




 それでも1回目の春と変わらなかった。変わるのは春の始まり方と姉さんの死に方だけ。



「やっぱりさ、僕思うんだよね凉志」

「お前もか?俺も思うんだよな凉季」


「「あの女さえいなければ姉さんは絶対生きてる」」


 ああ、やっぱそうかも。あの女さえいなければ姉さんは死ぬことはなかったんじゃないのかな?

 だってさ、あの女――天龍寺永久(てんりゅうじ とわ)があの春の日、学校に転入してから何もかもがおかしくなったんだから。


 本人は隠してたつもりだろうけど浅間ってあんな見た目で意外と一途だったんだ。誰にって?そりゃあ姉さんしかないじゃん。

 その浅間がたかが数日出会っただけの女に惚れるか?ナイナイあり得ないって。


 でもさ、それってもう過去の話だから関係ないのか、だって浅間は今あの女についている。

 つまり、敵だよな?



 なら容赦しない。浅間のは、アイツは、裏切っちゃいけない人を裏切ったも同然だから。


 アイツらにどうやって復讐するべきかを凉季と考えている間にも姉さんは何回も死んだ。



 姉さんは必ず俺と凉季に宛てた手紙のような遺書を傍らに置いて死ぬ。


 それを見て俺達は思う。

――アア、また置いてきぼりだな。







「――誰か私を殺してください。」



 7回目の春、姉さんが言った決定的な言葉。それを合図に位置的にはおかしな角度で倒れる下駄箱。

 俺と凉季はその光景を他の生徒達を邪魔だと掻き分けて見ていた。


 姉さんを助けようと走りたいのに何か金縛りにあったように体が動かなかった。無理矢理動かそうとしたら体がギシギシと悲鳴をあげた。

 いやだ、いやだイヤだ嫌だ嫌だ。姉さんが死ぬところなんか見たくない、見たくない、俺は、見たくないんだ。



 なのに、どうして?

 どうして、心のどこかで俺は、姉さんが死ぬことを嬉しいって思っているのだろう?



「凉志、僕、姉さんが死ぬ瞬間を見て嬉しいって今思ってる」

「奇遇だな凉季、俺も、なんかそう思ってた」




 なんで?…あ、そうか。

 角度的にちゃんと見えなかったけど姉さんが笑ったからか。

 そうか、姉さんはこの繰り返しの春からの終わり方を見つけたのかな。


 理不尽な程に繰り返された春、姉さんの死因は全て自殺だった。

 7回目の春、姉さんは死んだ。

 自殺ではなく、おかしな角度で倒れてきた下駄箱に押し潰されて死んだ。



 倒れた下駄箱の下から赤い水溜まりが出来る。

 ああ、姉さんが死んだんだ。死んだのに、今の俺達は涙を流すどころか2人揃って笑ってる。


 俺達は今にも泣きそうな顔して下駄箱の前にいる浅野を押し退け、姉さんを下駄箱の下から出してあげた。顔が血で染まり、腕とか体のあちこちが微妙に潰れてる。だけど、姉さんの顔はとても嬉しそうだったから、俺も凉季もまた笑った。



「……うそ、うそよ、だってこれはゲームで、あたしがお姫様(ヒロイン)で、あれは“悪女”で、皆はあたしの騎士(ナイト)なの、ちが、」



 離れた場所、正確には顔だけの連中の後ろで顔を真っ青にしてブツブツとあの女は気付いているのかいないのか、訳の分からないことを呟いている。

 息は荒く過呼吸になって胸を苦しそうに押さえている。


 俺と凉季はそれに追い討ちを掛けるように言葉で追いつめる。




「「覚えておいてよ」」




 まだ暖かい姉さんを強く抱き締め口を開く。




「「姉さんは7回とも全てお前が殺したんだよ」」




 さあ、復讐をしよう。

泣いて喚いて、跪いて許しを乞うても赦さない。




「「だからさ、今度はお姫様(お前)と、騎士(そこの奴ら)が7回死ぬ番じゃない?」」




 あ、ていうかよくよく考えたら復讐をするのってここにいる奴ら全員か。

 アハハッ、大丈夫だよ皆楽に殺してあげないから。


 そうして足元には動かないゴミが大漁に出来た。




「さあって、これから姉さんが死なないからコイツらを遠慮なく殺せるな凉季」

「うん、でも先に姉さんを静かな場所に寝かせてあげないと凉志」




 姉さん待っててよ。

 俺達もコイツら7回殺したら姉さんのとこ逝くからね。

 どうやって?そりゃあ俺達双子がお互いが殺し合えばいいんだけじゃないかな?そうすれば自殺ではないし。





 姉さんのいる8回目の春はもう来ない。


 でも奴らを殺すための1回目の春はもうすぐ来る。



次でラストです。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回も面白いお話ありがとうですー! ふ、双子ちゃんが悪魔に…((((;゜Д゜))))))) [気になる点] 七回殺すってことは、主人公の涼が死んだ後としてまたループが始まるってことですかね…
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