episode4
『深海の時間』
青暗いライトを照らしていたその部屋は海の底に潜ったような感覚にさえ陥ってしまうほどの空気を放っていた。
「雅くん?どうしたッスか?雅くん~!!?」
涼一が入り口で固まっている雅を不思議に思い、呼びかけるが雅はまるで聞こえていないようだった。
「雅…どうした?」
紅葉までもがおもわず声をかけた程だった。
雅は時が止まったように只呆然と部屋の奥を見つめていた。
「本日のどうやらお気に入りはイルカじゃないみたいだ…」
蓮葵はそう呟き、雅の見つめる先視線を送った。
「リュウグウノツカイ…」
透明な壁に囲まれた水中を泳ぐ姿はまさにその名に合う優雅さだった
「こんな魚が居るのか…?」
「深海魚って別名があって海のその深く…人間の力ではまだ未知の世界に生きる生物達だよ。知られて居るのはほんの数種類…。本当はもっと沢山いるだろうね」
「どわっ!しっ深海魚が何で泳いでるんすかっ!?」
涼一が驚いたことに雅は驚いた。
「深海魚は泳がないのに魚なのか?」
涼一が少し困ったように答えた。
「あ~いや…泳ぐんッスけど…えっと…」
「深海魚ってどんな字を書くか知ってる?」
涼一の助けを請う目を受け、蓮葵は雅に尋ねた。
「字…深い…海…魚…?」
「そ。さっきも言ったでしょ?深い海を泳ぐ魚で深海魚。本来浅瀬では生きれない筈なんだよ?ましてや人間のつくった海なんかではね。」
「何でいるんっすかね?」
「……俺達は運がいいみたいだ…。」
涼一の問いに蓮葵は呟いた。
「どういうことッスか、蓮葵さん。もしかして事前になんか知って…」
「涼っ!!!」
目を輝かせて尋ねていた涼一を遮るようにして紅葉が叫んだ。涼一は我に返ったように目を見張り慌てて口を噤んだ。
「すっすいません…!!おっ俺…俺…また…」
その様子はあまりにも焦っていて雅には理解できなかった。
「何?どうしたの?」
「涼一、外の空気でも吸ってきな?紅葉、付き添ってあげて?」
「はい…。」
紅葉は未だに謝り続ける涼一を支えながら静かに出て行った。
「雅くん、行くよ。」
蓮葵はそう言って部屋の奥へと歩き出す。涼一の様子がおかしくなった理由は気になった。が、どこか訊いてはいけない気がして、大人しく蓮葵の後に続くしか無かった。
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