episode3
『倉橋マーメイド水族館…別名人魚と呼ばれることでお馴染み、ジュゴンが人気の水族館っ!!』
パンフレットに書かれたキャッチフレーズ。
何故僕はこんな所にいる…?何年も大勢の人が集まるとこへ来たことの無かったこの僕が…。
「ねぇ最初どこ見るぅ~?」
人…
「ライオンいるかなぁ?」
人…
「ここは水族館ですので…」
人…
「イルカショー…午後…」
人…
………人が多すぎる…。
「なっ難易度たけぇよ…」
神奈月雅、水族館入り口にて、死亡…
「しないから!!」
「えっ?」
この人なんで声に出してないのに聞こえたかのように答えたんだろ…。
「あ、いや、なんでもない。」
雅が聞き返すと蓮葵は気まずそうに視線を宙に泳がせた。
「水族館いぇい!!」
「あぁ!!アイス付けないでよぉ!!」
「ところ…で」
「ん?」
「誰なんですかあんたらは!?」
雅の隣でガヤガヤ喋っている男女が2人。雅にとっては見知らぬ顔だった。
「どうしよう!俺初対面で怒鳴られちゃった…」
「大丈夫だよ。おれの時なんかは敬語すらなかったからさ~」
泣きそうな男にわざとらしく泣き声で言う蓮葵。雅は台詞を見失った。
一方蓮葵は何事も無かったかのように元に戻り隣にいた男女を紹介し始める。
「この人達は僕の友達だよ。男 の方が佐野涼一。」
「宜しくッス~」
涼一は右手にこの季節には考えがたい物を持ちながら軽く頭を下げた。
「何でソフトクリーム…」
「涼一くんはアイス大好きだから。」
「冬のソフトも最高すよっ!!」
さらっと言う蓮葵に涼一は目を興奮させそう言ったが、アイスという存在は知ってるものの、実際に食べたことは無い雅はよく分からなかった。だが冬に食べるものでは無いだろうという事ぐらいは察しが付いた。
「女の人の方は堀内紅葉」
くれは、というらしいショートヘアの彼女はチラリと雅を見ると直ぐに目を背けた。
「紅葉ちゃん、初対面の人にはいつもこんな感じだからあんまり気を悪くしないであげてね?」
蓮葵は申し訳程度に片手で拝んで見せた。
「あ、そうだ!そういえば俺の紹介がまだだったね。」
本当に『そういえば』だ。
「俺の名前は瀬戸蓮葵。普通に蓮葵って呼んでくれて構わないから。」
そういえばこの人の名字さえ知らなかったんだ。
雅は談笑を始めだした三人にそっと目をやる。
別に興味なんて湧かない。人の事を知ろうとなんて思わない…。この世なんて…どうせつまらない。
「…………悲しい人だ。」
蓮葵の声だった。聞き返そうと思ったが蓮葵は重ねて尋ねられることを避けたのか、慌てていつもの笑みに戻ると、行こうかと言って歩き出した。
その足はいつもより少し早い気がした。
バシャン…!!
人が手を挙げたことを合図に青い生物が勢いよく水中から飛び出した。
その姿はまさに『優美』という言葉がお似合いで、僕は思わず
「きれぇ…」
見とれていた。
「どうやらイルカが一番なお気に入りみたいだね」
「あれ、イルカって言うのか!?」
「うん。綺麗でしょ?でもね、漢字で書くと海の豚って書くんだよ」
「豚!?どこが!?」
「日本人は独特だからねぇ~。じゃぁ雅くんなら海に…なんと書いてイルカと読む?」
蓮葵の質問を受け、イルカに視線を戻した。華麗に泳ぎ回るイルカを見ていると自然と言葉が出てきた。
「愛…」
「愛…かぁ…。いいセンスしてるねぇ」
いいセンスなのかどうかは不明だが、雅は自分が呟いた言葉に自分自身で驚いていた。愛…咄嗟だったとはいえ、そんな言葉が自分から出てくるとは思っていなかったのだ。
「神奈月~瀬戸さん~行きますよ~!!」
涼一の声がした。雅達が振り返ると涼一と紅葉はもうイルカの水槽を出るところだった。