エピローグ
携帯が電波音と共に震え、着信を示す。表示されたのは『佐野 涼一』の文字だった。
「はい。もしもし?」
『あ、もしもし、瀬戸さん?ちょっと興味深いことが…』
どこか軽い彼の声がいつもと違って真剣なことに気付くのはそう遅くは無かった。
「どうしたの?」
『…あの海に少年が来ます。…えっと…名前は…神奈月ッス。まぁこれは予想ッスけど』
涼一の予感は滅多に外れたことが無いほどの信頼力だ。名前は表札でも見たのだろう。元探偵なだけはあって追尾や調査は得意なやつだ。
「…分かった。念の為ちゃんと様子をみといてね。今夜、海に行くから。」
『了解ッス。』
あの海…か。最愛の妻の結愛が死んだ、あの海。涼一のいう神奈月くんが何をしにその海へ行くのかは訊かなくても分かる。大体自殺以外の用件ならばわざわざ電話などかけてくるであろう筈がない。
彼が海へ来たのは真夜中だった。
月明かりだけが頼りの浜辺に彼は立っていた。その足が徐々に死への道を進んでいるのを確認すると、俺は走って近付いた。
足音を潜める必要性が無いためそんな意識はしなかったが、彼は気付かなかったようだ。
呆然と一点を見つめたままの目はまるで死んだ魚のように生気が無かった。
そんな彼が見つめる先には……月だ。そういえば今日は満月だったな。
「綺麗だよね。」
そう言った時、初めて彼はこちらに気付いたようで、驚いたように振り返った。
「こんな日に自死するなんて、とんだ贅沢だと思わない?」
そう言って腕を引っ張ると、驚く程に細い体はあっという間に引き寄せられた。
そしてその後、力無く倒れた。
「えっ!?ちょっと、大丈夫!?」
そう問いかけたが既に彼に答える気力など無く、立つことさえままならない様子が、ここに来るのも精一杯だったことを物語っていた。
そう、そこから始まったんだ。
君との日々は楽しすぎて、まるで息子ができたようだった。きっと君があの家に帰って寂しい思いをしているのは俺の方だろう。
けど、雅くん、君は本当に変わったよ。そしてそんな姿を見るのがまるで成長した息子を見ているように思えてしまう。
涼一くんの調査により、雅くんの母は彼が中学生の時に殺害されていて、父は行方不明なことが分かった。きっと彼もそれを知っている。
「館長!瀬戸館長!!」
でもそう呼ぶ君の声が、顔が、君がそれを乗り越えたことを教えてくれるんだ。
強くなったんだね、雅。
蓮葵は自立し、立派に働く雅の背中に優しく微笑んだ。
ありがとうございました(((o(*゜▽゜*)o)))