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一途な思いは、走り出す

「観月、―――好きだ」





ついに、


伝えた…。





いなくなる直前に告白っていうのも、

我ながらこう…ズルいっつーか、今さらっつーか…、そんな気がする。



でも、



「どんだけ遠距離でも…俺は構わない」



ただ、俺のことを忘れないで欲しいって思った。



「俺と…付き合ってくれ」


「………、」





観月は、ふいに何かを言いかけたがすぐに止めて、今まで真っ直ぐとらえていた俺の視線から目をそむける。


こっちからはよく見えなかったが、何かとても重く、複雑そうな表情をしてた気がした。



「観月…」



返事を待つ。




かろうじて登っていた太陽が、ゆっくりと沈もうとしている。


風が吹いて、そのわずかな太陽を雲が隠した。





そして、


ようやく観月は、下を向いたまま、口を開いた。






「―――ごめんなさい」



それは、俺が最も聞きたくなかった言葉だった。




「霧谷君の気持ちは嬉しい。…でも、」




観月はようやくこっちを向いた。




「―――私とあなたの間には、…何もないから」


「え…」




俺がその言葉の意味を理解する前に、観月は


「さよなら」


と小さな声で言い残し、駆け足で去って行った。




「何もないって、どういうことだよ…」




再び風が吹いて、雲は姿を消した。


だけど、もうすでに太陽は沈みきって、見えなくなっていた。







―――そして、

次の日の学校に、観月は来なかった。




「意味わかんねー…」




―――私とあなたの間には、…何もないから




その言葉が何を表しているのか、どうして俺はフラれたのか、いろんな戸惑いがごちゃ混ぜになって、最高に気分が悪かった。





「――昨日、観月さんと何かあった?」




放課後、

観月の欠席と、俺の異常なテンションの低さについて、浅野が尋ねてくる。




「……フラれた」



こいつに隠し事は通用しないので、正直に答える。



「理由は?」


「それが分かれば苦労しねーよ」


「君はそのままでいいのかい?」


「………」



俺が視線をそらしても、浅野はただ俺の答えを待っている。

どうやら、洗いざらい白状するまで逃がす気はないらしい…。




「でも、どうしろってんだよ…。

一度フラれた身で、どうして俺じゃダメなんだって、そうやって情けなく聞けってか!?

そんなの…、そんなの誰が得するっていうんだよ!!」




観月の言った言葉の意味も、自分がどうしたらいいのかも分からず、ただ無関係な親友に怒りをぶつける。

自分が情けなくてしょうがない。




でも、そんな俺から、浅野は一瞬足りとも目をそらさなかった。




「それのどこが情けないんだい?」


「え…」




返ってきたのは、予想外の答えだった。




「いいじゃないか!納得するまで追いかけたって、何度好きと言ったって!

何もしないままそうやって苦しむより、百倍マシだよ!」



俺の肩を力強く掴んで、浅野は俺に怒鳴りつける。


…こいつが大きな声を出すのを、久しぶりに聞いた気がする。



「もう一度、真っ直ぐ正面からぶつかってみればいいじゃないか。

それが、馬鹿でお人好しで…僕の一番の親友の、勇馬にできることなんだから…」



そう言って、俺の肩から手を放した。





解放された俺の中には、何か熱いものが沸き上がってくる感覚があった。




―――会いたい。



たとえどんなに嫌われようと、どんなことを言われようと、もう一度確かめなきゃならない。


あいつの気持ちを。



伝えなきゃならない。


俺の気持ちを。



今まで俺を苦しめてた戸惑いは、もうそこにはなかった。




「ありがとうな…浅野。お前、本当いいやつだな」


「何を今さら」


「なんで彼女できないんだろうな?」


「…放っといてくれ」



あ、ヤバい。

今の一言で我が親友が、さっきまでの俺のような戸惑いを抱えた表情に!!




「じゃあ、俺行くわ!」


「勇馬!」


「ん?」



振り向くと、浅野は満面の笑みで―――




「この前貸した百円、返せよっ」


「いやそこかよ!このいい感じの場面でかける言葉それかよ!」



あぁ、いろいろ台無しだ!!



「アハハ、冗談冗談。…頑張れよ」


「…あぁ!」




親友の励ましに手を挙げて応え、教室を出ていく。


本当に、あいつには今度飯でもおごってやんなきゃな…。



あ、その前に百円返さないとな…。






―――そして俺はただ、街中を宛てもなく走っていた。

今一番会いたいやつと、どこかで会えることを願って。




「ハァ、ハァ…。あー、疲れた!」



さすがに体力の限界がきて、道端でへたりこむ。

…悪かったな、所詮は帰宅部だよ。



「あれ?そういやここって…」



偶然にもへたりこんだ場所は、見覚えのある建物の前だった。



「そういや、あいつにはまだ観月の留学のこと、話してねぇな…」



誰に話しかけるわけでもなく呟き、建物の中に入る。


病室の、幼なじみに会いに。






「さてと、愛花の病室はどこだっけか…」



病院の中をうろつきながら、考える。



あいつ、観月が留学するなんて知ったら、どんな顔しやがるかな…。

「えぇ!?うわわ、た、大変!お赤飯炊かなくちゃ!!」

とか言って、慌てふためくんじゃねーかな~。

…あれ?つーか赤飯っていつ炊くもんだっけ?




なんて考えながら歩いてると、目的地にたどり着いた。


よく見ると、ドアが半開きになっている。



ドジだから閉め忘れたんだろうなーとか思いつつ、取っ手に手をかけ、中の様子をうかがう。




―――するとそこには、愛花ともう一人、意外すぎる姿があった。




長い黒髪を二つに結んだ、小柄な少女の姿が。

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