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身近な思いに、気付けてる?

その日の授業は最悪だった。



古典の授業で102pを音読しなさいと言われれば、間違って出していた保健体育の教科書を読んでしまい、


数学で問題の解答を黒板に書きなさいと言われれば、間違って保健体育の教科書の内容を書き写し、


体育の授業で野球をやっている最中、バックホームを指示されれば、間違って保健体育の教科書を――


「いい加減保健体育しまえ霧谷ぃぃぃ!!!」


先生に怒られた。



授業に集中できないまま、時間は刻々と過ぎ、気付けば放課後になっていた。




「君、今日は特におかしいよ。どうしたの?」


「…なんでもねーよ」



そんな俺の様子を心配してか、浅野が話しかけてくる。



「例の噂のこと、気にしてるの?」


「…」


「それとも、観月さんのこと?」


「…ぅ」


「君は本当に嘘をつけないよね」



本当、こいつにだけは隠し事は通用しない。

さすがに付き合い長いだけあるなコノヤロー。



「別に観月さんは、君のことを嫌ってるわけじゃないと思うよ」


「…どーだかな」


「本人に聞いてみればいい、その方が手っ取り早いさ」




そう言われて、放課後の教室を見渡してみる。



残念ながら、そこに探している姿はなかった。



「いや、明日にするわ。今いないみてーだし、ちょっと落ち着いて考えたいし、な」


「そうか…」




浅野は心配そうな口調で一言言うと、立ち上がって



「じゃあ、僕は部活があるから、お先に」


「おう、じゃーな」



浅野は小学校の頃から水泳を習っていて、

今や水泳部の期待の星とか言われてるらしい。


最近部活はどうだ?とか聞いてみると、

「楽しいよ。たぶん、帰宅部よりかは充実してるから」

とか言いやがった。


言っておくが、帰宅部は活動していないわけじゃない!

普段見過ごしてしまいがちな、日常の中の楽しさを発掘する、重大な使命を持っているんだ!!わかったか!!




「さて、俺も帰るか…」





誰もいなくなりつつある教室を出て、校門に差し掛かる。


すると、




「ばぁっ!!」



と、物陰から何かが飛び出てきた。

身の危険!俺はとっさにそれをかわす。



「うぇっ!」



その何かは何もないところでつまづき転んだ。



「いたーい…」



その姿があまりに哀れだったので俺は思わずそいつの名前を呼ぶ。



「…何やってんだ、マーボ…いや、愛花」




名前を呼ばれたマーボーこと桜田愛花は、俺の方へ向き直るなり、



「ひどいよっ、反則だよっ、何も言わずにかわして転ばせるなんて!」


「勝手に転んだのはお前だろう…」



なんかちょっと涙目になってないか?

もう高校生なんだから、そんなガキんちょみたいなことをするのはやめてくれ~。

頼む、千円払うから。



「で、俺に何の用だ?」


「あ、そうだった!!」



そう言って愛花はスカートについた土埃を払いながら立ち上がり、



「一緒に帰ろ?」



笑顔で言い放った。



そうか、一緒に帰る、か…。



「じゃあ俺はこっちだからまた明日」


「ちょ、ちょっとぉ!帰る方向は一緒のはずでしょお!!」



逃げようとする俺を引き止めようと、俺の制服の襟元を後ろから引っ張る愛花。

く、首が絞まる…!!



「こんな可愛い子が一緒に帰ろって言ってるんだから、断るなんて鬼畜外道だよ!」


「自分で可愛い言うなよ…」



まぁたしかに、幼なじみのひいき目なしに見ても、愛花のルックスは悪くない。


肩にかかるくらいのショートヘアに大人っぽい顔立ちがマッチしてるし、

少し高めの身長に細目の手足は、俗に言うモデル体型とかいうやつに該当するだろう。

しかし、それに反して子供のような喋り方と無邪気な行動は、ギャップがありすぎる。

あー、喋らなければなぁ…。



「つーか、嫌だよお前と帰るの。また面倒くさいことに巻き込まれるし」


「今度は大丈夫!今度は猫さん追いかけて壁に激突したりしないし、チョウチョさん追いかけて車に轢かれたりしないから!」


「だから、それが心配なんだっつーの…」



こいつは動物が大好きだ。そのことになると周りが見えなくなる。そのせいで何回死にかけてるかわからない。



(いっそこいつの首に縄つけておいた方が…)


なんてのを実際想像すると変な気分になりそうだったので、思考回路を強制的に遮断した。



「心配してくれるの?うれしいなっ!じゃあ一緒に帰ろっ!」


「会話の流れがおかしいんだが…」



まぁ放っておく方が危なっかしいなと思い、しぶしぶ一緒に帰ることにした。





「久しぶりだねー、勇馬と一緒に帰るの」


「そうだっけか?」


「そうだよぉ。最近勇馬はいつも先に帰ってどっかに寄ってるみたいだし…」



その寄ってる場所が保健体育の参考書売り場ということは黙っておこう。



「ちょっと、寂しかったな…」


「愛花…」



いつも見せる笑顔とは一変、暗い表情を見せる幼なじみ。


なぁ…、



愛花…、



お前…、




「犬の糞踏んでるぞ」


「ふぇ?う、うわぁっ!?」



なんて可哀想なやつなんだ…。



「そ、そういうのは踏む前に言ってよぉ!」


「いやー、すまんすまん」


「ほんと、勇馬っていろいろと鈍いよね」


「失礼な。どこが鈍いって?」


「小学校のとき、机の中に入ってたラブレターに気付かないで、0点とったテストと一緒に捨ててた」


「…!な、なんだって…そんなことが…」



バカな、俺はそんな最高のチャンスを自らの手で潰していたのか…!?



「それで…あたしの友達、泣いてたんだからね?」



泣きたいのは俺の方だっ!くぅぅ…!!



「しかしお前、俺ですら忘れてるようなこと、よく覚えてんな」


「そりゃそうだよぉ、付き合い長いし、勇馬のことはあたしが一番見てきたんだからっ!」



そう元気に言い放つと、それまではしゃいでいた愛花の表情が、また突然暗くなった。



「…ずっと、見てきたんだから…」




どうしたんだろうか。

今日は随分と元気がない。




そうして話す話題が無くなって、しばらく気まずくなっていると、



「そ、そういえばさ、明日までの数学のプリント、もうやった?」


と、愛花が無理やり話題を作ってくれた。

改めて、こいつは本当にいいやつだなぁと思い知る。



「あ、それ学校に置きっぱなしだわ」


「えぇ!?」



し、しょうがねーだろ、明日提出なんて知らなかったし…。



「急いで取ってきなよ!あれ終わってないと補習確定だよぉ!?」


「なっ…、マジかよ!?」



いくら勉強に不真面目な俺でも、これ以上補習が増えるのはヤバすぎる!



「じゃあ、俺急いで学校戻るわ!先帰ってて!」


「う、うん!わかった、頑張ってね!」




俺は愛花に手を振り、滅多にしない全力疾走で学校へと駆け抜ける。



あぁ、明日は筋肉痛だなぁ…。

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