表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

奇妙な噂は、ミスフォーチュン

「勇馬、小テストどうだった?」



涼しい顔をして浅野が話しかけてくる。

どうやらこいつは出来がよかったらしい。



「ふん、なめるなよ浅野。この程度のテスト…」


「お、手応えありかい?」


「十問に一問は、解けた!」


「たしか小テストって全部で十問だったよね?」



違うんだ。これはその、調子が悪かったんだ。





そんな会話をしていると、黒板に書かれた授業の内容をきれいに消している、黒髪の美少女が目に入った。


そういえば、今日は日直だったっけな。




「観月さん、真面目だよねー」


「そりゃそうだろ」



観月本人いわく、いつも真面目でいるのは

「自分の評判を落とさないため」

らしい。そりゃあ、あの毒舌に加えて他も最悪だったら、とんでもないレベル100の悪女になってしまうだろうさ。



「ねぇ霧谷君、今私すごくあなたをぶっ飛ば…怒らなければならない気がしたんだけど、気のせいかな?」



黒板の清掃を終え、観月がこちらに歩いてきた。


ていうか、人の心読むなよ!

あと、絶対「ぶっ飛ばす」って言おうとしただろ!



「何の話だ?こんな品行方正な俺が、そんなことされる覚えは…」


「霧谷君、目をくいしばって」


「って聞けよ!その意味ありげなチョキをしまえ!」



普通そこは歯をくいしばるところだ…!




「そういえば観月さん、さっきのテスト、五番の問題わかったかい?あれは難しかったよね」


「あぁ、あの塩酸についての問題ね。あれは…」




俺を差し置いて、二人はさっきのテストの話を始める。くそっ浅野め、うらやまし…

違うぞ、これは別に嫉妬とかじゃないからな!

勉強できてうらやましいって意味だ!




「まぁ、どうせ勇馬はできてないんだろうけど…」


くそっ、人を馬鹿にしやがって…こうなったら、俺の豆知識でお前らを驚かしてやる!




「なぁ、塩酸ってよくお菓子とか、ジュースとかに入ってるよな?」


「「…、は?」」



な、なぜ二人ともそんな反応をする?



「だってよく聞くだろ!?[ク塩酸]の入った食べ物とか」


「君はそれで何人の人が殺せると思ってるんだ…」


「[クエン酸]の間違いでしょう…?」



こ、こいつら天才か!?





そんな会話を繰り広げていると、聞き覚えのある声が近づいてきた。



「おーい、三人とも何してんの?」



声の方に振り返ると、そこには肩にかかるくらいのショートヘアをサラサラとゆらす、女子の中では高めの身長の、明るい雰囲気を持った少女が立っていた。




「なんだ、マーボーか」


「ま、マーボーじゃないよ!ちゃんと愛花って名前があるんだからね!」



と、耳元でキンキン怒鳴るこいつは桜田愛花(さくらだまなか)。通称マーボー。


同じクラスで、一応、俺の幼なじみにあたる。

小学校から仲良くなった浅野と違い、愛花は幼稚園からの付き合いなので、一番長いこと一緒なのはこいつだろう。




「あまり桜田さんをからかうなよ、勇馬」


「へーい」




つくづく思うが浅野は女性に甘いと思う。

全く、将来騙されても知らねーぞ…。




「まーまー浅野くん、あたしと勇馬の仲なんだし」



と、マーボーが浅野をなだめる。だが…


「それ、からかわれたヤツが言うセリフじゃねーからな」


「へぇ、桜田さんって、もしかしてM…」


「うわぁっ!誤解だよぉ!観月さんまで、そんなふうに言わないでぇ!」




本当にこいつはアホだな…。

と感心していると、突然そのアホが暗い顔になって、



「でも、幼なじみでも、知らなかったことがあったなんてね…」



なんて言い出す。



「なんだ、俺がどうかしたのか?」


「うん、だって…」




何か言いにくそうにしている。そんなに深刻なことなのか?

だったらちゃんと話を聞いておかないと…




「勇馬って、…ど、同性愛者なんでしょ?」




深刻だ。こいつの頭が。



「…あのな、どうしたらそんなふうになるんだよ?」


「だ、だって言ってたもん!」


「誰が?」


「クラスのみんなが!!」



どうやらこのクラスは皆何か頭に重大な欠陥を抱えているらしい。



「えっとね、勇馬にいつまでも彼女ができないのは、実は浅野くんをずっと追いかけてるからだって―」


「勇馬、僕の半径1200m以内から出ていってくれ」


「そんな嘘を信じるなよ!あと浅野、頼むから俺と距離を置かないでくれ!」



1200mってもう学校の敷地を出てないか!?




「全く、誰がそんな噂を流したんでしょうね」




そう言って観月は俺の方を見る。


――いつもの、悪戯っぽい笑顔で。


あぁ、可愛い…じゃない!


こ、こいつまさか…



「えー、でも、みんなが「これは観月さんから聞いた情報だから、間違いない」って…」


「貴様ーーーー!!!」



俺は思わず叫び、観月に飛びかからんばかりの勢いで詰め寄る。


が、その瞬間みぞおちに観月の拳が叩き込まれる。ぐはぁっ!



「いきなり女性につかみかかるなんて野蛮よ、霧谷君。殴るわよ」


「殴ってから…、言うなよ…!」




その光景を、アハハと笑いながら見ていた浅野が、真顔で呟く。



「でも、その噂が本当に流れてるなら、けっこう大変だねー。何せ、勇馬って女子に案外人気あるから」



な、なんだと…!初耳だぞ、そんな幸せ情報!



「おい、それは本と―」


「えぇ!それって本当なの!」



俺より凄まじい勢いで、愛花が話題に食いつく。


…女子ってやっぱ、そういう話題好きなのか?



「まぁ、勇馬は頭は不良品だけど、顔と性格はいいからね。

馬鹿みたいにお人好し―もとい、お人好しよしの馬鹿だし」


「おい、なぜ言い直した」



こいつとは一度決着をつけた方がいい気がした。



「まぁ、こんな噂が流れたなら、勇馬に言い寄る女子も激減するだろうね」


「そ、そっか、よかったぁ…」



何か知らんが安堵する愛花。

俺にとっては死活問題だというのに、このマーボーめ!!



まぁ、それはそうと…


「おい観月、その噂のことだが」


「あら、もうチャイムが鳴るわね。席について」


「スルーするな!!」


「なに今の、だじゃれ?」


「違うっ!つーか、そんなことより…」


「早く席に着いて。学級委員の命令よ」



そう言って、スタスタと自分の席に戻る観月。



「くそっ…!」



まぁ俺をからかうのはいつものこととしても…、少しひどすぎないか?

いくらなんでも、学校内での俺の評判を落とすような真似をするなんて…



一つの考えが、頭をよぎる。



「――あれ?俺、嫌われてんの、かな…」



まさかな!とか思いつつも、何故かそれを否定しきれない俺がいた。



大好きな人に嫌われてるかもしれない。



そんな不安を頭に抱えながら、俺は授業を受けた。



いつも頭に入らない小難しい授業が、今日は余計に入ってこなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ