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短編小噺シリーズ ~評価の高いものを連載化させます~

大罪人と呼ばれた元勇者はそれでも復讐をしない

作者: 雪丸
掲載日:2026/05/09

短編小噺シリーズ 

 魔王討伐から三日後。

 王都アストレアは歓喜に包まれていた。

 鐘が鳴り響き、民衆は英雄の名を叫ぶ。

 ――ただ一人を除いて。


「元勇者レオン・アルヴェイン。貴様を国家反逆罪、および王族殺害未遂罪で処刑する」


 玉座の間に響いた国王の宣告に、レオンは静かに目を閉じた。

 隣には聖女セレナ。かつて共に旅をした仲間たちもいる。

 だが誰一人、彼を庇わなかった。


「……理由を聞いても? 」

「貴様は強すぎた」


 冷たく告げたのは第一王子カインだった。


「魔王を倒した今、民が恐れるのは新たな“力”だ。お前がその気になれば、この国すら滅ぼせる」


 レオンは理解した。

 利用され、役目を終えたから捨てられるのだと。

 そして彼は、“大罪人”の烙印を押された。

 公開処刑。

 そのはずだった。

 しかし処刑直前、突如現れた黒竜によって護送車は崩壊する。

 炎の中で鎖を断ち切ったレオンは、そのまま姿を消した。

 人々は噂した。


「元勇者は復讐のために戻ってくる」


「王都を滅ぼすつもりだ」


「今度は人類が勇者に殺される」


 誰もが、彼の復讐を恐れていた。



 それから五年。

 レオンは辺境の小村で静かに暮らしていた。

 名前を変え、剣も捨て、薬師として生活している。


「先生ー! また怪我したー! 」


 駆け込んでくる子供たちに、レオンは苦笑する。


「走り回るなと言っただろ」


 かつて魔王を倒した英雄は、今では村医者のような存在になっていた。

 そんなある日。

 王都から一人の少女がやって来る。

 銀髪の少女リシア。

 彼女は王立騎士団の新人だった。


「あなたが……レオン・アルヴェインですね? 」


 村の空気が凍りつく。

 しかしレオンは否定しなかった。


「だったらどうする? 」


「……私は、あなたを監視する任務を受けています」


 王国は今もなお、レオンの存在を恐れていた。

 だがリシアは次第に違和感を抱く。

 村人たちは皆、彼を慕っている。

 飢えた者には食料を分け、病人を救い、魔物から村を守っていた。

 とても“復讐者”には見えなかった。

 ある夜、リシアはついに尋ねる。


「なぜ復讐しないんですか? 」


 レオンは焚火を見つめながら答えた。


「僕はこの国が好きなんだ」


「でも、裏切られたんですよ!? 」


「……ああ」


 レオンは静かに笑う。


「だからこそ、同じことをしたくない」


 あぁ、この人は心から勇者なんだ。

 リシアはレオンを見つめながら静かに涙を流した。


 その頃、王都では異変が起きていた。

 魔物たちが突如活性化し、各地で都市が襲撃され始めたのだ。

 そして調査の結果、魔王が完全には死んでいなかったことが判明した。

 魂の一部が残っていたことで、新たな器に転生しようとしていたのである。

 だが王国にはもう、勇者はいない。

 焦った王族は、かつて追放したレオンへ救援を求める。

 使者として現れたのは、聖女セレナだった。

 彼女は涙を流しながら頭を下げる。


「お願い……もう一度だけ、力を貸して」


 リシアは怒った。


「都合が良すぎる! 」


 当然だった。

 彼らはレオンを裏切り、全てを奪ったのだから。

 しかしレオンは静かに立ち上がる。


「行こう」


「どうして!? 」


「放っておけば、死ぬのは罪のない人たちだ」


 レオンは剣を手に取る。

 五年前に捨てたはずの、勇者の剣を。




 王都へ戻ったレオンを待っていたのは、歓迎ではなかった。

 民衆の怒号。投げつけられる石。

 そして王城前の広場設置された巨大な処刑台。


「大罪人を再び裁け!」


 人々は恐れていた。

 五年前、王国が流した“元勇者は危険な存在”という噂は、今や国中に浸透していたのだ。

 しかし、魔王軍の侵攻は止まらない。

 各地の防衛線は崩壊し、騎士団も壊滅寸前。

 王国はレオンの力を必要としている。

 それでも彼を恐れることをやめられなかった。

 そんな中、第一王子カインはある決断を下す。


「元勇者レオン・アルヴェインを公開裁判にかける」


 名目は“国家反逆罪の再審”。

 だが実際は違う。

 王族は責任を押し付ける相手を必要としていた。


「魔王復活も、元勇者が原因なのではないか」


 そんな陰謀論まで広まり始める。

 広場の中央に立たされたレオンへ、第一王子カインが叫ぶ。


「お前が魔王討伐で何かを隠したから、この惨劇が起きたのではないか!」


 民衆も怒声を浴びせる。

 だがレオンは否定しなかった。

 沈黙したまま、全てを受け入れるように立っていた。

 その時だった。

 広場に人々がなだれ込んでくる。

 現れたのは、かつてレオンに救われた辺境の村人たちだった。

 農民。子供。老人。冒険者。

 彼らは次々と証言する。


「この人は俺たちを助けてくれた!」


「病気の娘を救ってくれた!」


「吹雪の日、一人で魔物から村を守ったんだ!」


 次第に広場の空気が変わる。

 人々は気づき始める。

 “本当に恐れるべき存在”は誰なのかを。

 そしてついに、沈黙していた聖女セレナが立ち上がった。


「罪人は……彼ではありません」


 震える声で彼女は真実を語る。

 五年前、王族と貴族たちは勇者を恐れ、罪を捏造したのだと。

 広場は騒然となった。

 第一王子カインは顔を歪める。


「黙れ! 勇者など所詮は兵器だ!」


 その瞬間、王都上空に巨大な黒い影が現れる。

 復活した魔王だった。


「醜いな、人間」


 崩壊する広場。逃げ惑う民衆。

 その中で、レオンは静かに剣を抜いた。

 王都は徐々に炎に包まれていた。

 復活した魔王は、人間たちの憎悪と恐怖を糧に力を増していく。


「見ろ、勇者よ!」


 魔王は嗤う。


「人間は貴様を裏切った! それでも守る価値があるのか!」


 レオンは答えない。

 ただ、燃え落ちる街を見つめる。

 泣いている子供。倒れた兵士。助けを求める人々。

 その中には、かつて自分を石で打った民衆もいた。

 リシアが叫ぶ。


「もう十分です! あなたはこの国に何も返さなくていい!」


 だがレオンは、ゆっくり首を横に振った。


「返すために戦うんじゃない」


 彼は剣を構える。


「誰かを憎み続けるのが、苦しいって知ってるからだ」


 その言葉と共に、勇者の剣が蒼白く輝いた。

 激闘の末、レオンは魔王を討ち滅ぼす。

 しかし戦いの代償で、勇者の力は完全に失われた。




 戦後。

 第一王子カインは失脚し、王国は罪を認めることになる。

 民衆はレオンへ謝罪した。

 だが彼は王都に残らなかった。


「どこへ行くんですか? 」


 見送りに来たリシアへ、

 レオンは穏やかに笑う。


「少し旅をする」


「……また誰かを助けるんですか? 」


「かもしれない」


 剣を失い、名誉も失い、英雄ですらなくなった男。

 それでも彼は、最後まで誰かを憎むことを選ばなかった。

 夕焼けの街道を歩いていくその背中を、人々は静かに見送る。

 後に歴史は彼をこう呼ぶ。

 “大罪人”。

 そして同時に――

 “最も優しかった勇者”と。


500pv or 50pt以上いただけた評価の高いものを連載化させます!

高評価よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
裏切られてもなお、人を信じることをやめないレオンの姿、すきですね。 自分を追い出した国や人々を憎まず、不器用なまでに真っ直ぐに「守る」道を選ぶ彼は、まさに真の勇者だと思います。 最後、英雄という名…
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