scene59 乱入
日が陰りはじめ、儀式が始まろうとしていた。
広場の中心には巨大な祭壇、その周囲を取り囲むように人々が集まっていた。
その熱気と興奮は距離を置き様子をうかがっている俺にも伝わってきた。
歓声、祈り、期待...それは恐怖じゃない...祝祭。
人が生贄になって死ぬってのに...意味が分からんな。
俺たちは喧噪の中に身をひそめる。
「ザハルが出てきたその瞬間一斉に行くぞ」
「儀式が始まればスキも生まれる。初撃が勝負だな」
「それしかないわね。長引けは町の人間が全員敵に回る可能性があるわ」
緊張感が高まったその時、近くで穏やかな声が聞こえた。
「サーヤ、ついにこの日が来たな」
声のする方を見るとそこには一組の男女がいた。
「そうよジョン、やっとザハル様の元へ行ける日が来たわ」
この会話の内容...こいつは生贄か...?
それとその恋人...そんな所か…しかしそれにしては会話が穏やかすぎる。
これから死ぬって人間の会話じゃない。
「待てよお前ら」
気が付いたら声が出ていた。
「生贄って...町の為に生贄っておかしくないか?死ぬんだぞ?」
俺の言葉にサーヤと呼ばれていた女性が首を傾げた。
「何がおかしいのですか?もうずっと前から決まっていたことです。そして何よりザハル様の元に行けるという光栄な役目なのですから」
サーヤの声が少し震えているように感じた。
「サーヤの言う通りです。俺も...サーヤがザハル様の元に行けるだなんて...うれしくて...この日をどんなに待ちわびたか...」
「ジョン...」
「サーヤ...」
二人が抱きしめあい涙ぐんでいる。
意味が分からなかった。
「いや、絶対におかしいだろ」
受け入れがたい事実に、思わず本音が言葉に出てしまったが二人には届かなかった。
「あー理解が出来ない」
うなる俺の肩をルナが叩き首を振る。
「無駄よ...価値観が違うのよ」
「価値観?」
「そうだな、いくら話しても平行線だ。諦めろ」
レディアナも腕を組み俺の言葉を遮る。
「ぜんっぜん分らん。俺は認めないぞ」
俺の言葉にジョンが苦笑していた。
「おかしな奴だな...」
「そうね...」
サーヤも薬と俺を笑っていた。
完全に俺のほうが正しいはずなのになぜか俺が子供のわがままを主張しているかのような扱い。
二人はそれ以上、何も言わずその場をそっと去って行く。
これがこの町の...普通なのかよ。
死が祝福されて、犠牲が喜びになる。
それを当然の事として受け入れる人々。
「まったく理解できないんだけど」
「セイ...理解しようと思わない事よ」
「だって犠牲の上に成り立つ平和なんてさ」
「それがこの町の現実よ」
ルナの言葉が終わったその瞬間、遠くで太鼓の音が鳴り響いた。
「...始まったわね...来るわよ」
ルナが静かに言う。
「覚悟はいいな?」
俺はゆっくりと息を吐いた。
「最初から全力だ」
視線の先、祭壇の向こう側から守護者とされる魔族が姿を表そうとしていた。




