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無資格勇者  作者: 南蛇井


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58/58

scene58 ザハル信仰

俺たちはユルバの町に入った。

そこには活気があった。

カン、カン、と鉄を打つ乾いた音とともに火花が飛び熱気が肌に伝わってくる。

「すごいな...通りは武器屋でいっぱいだぞ。武器も防具も選び放題だな」

「当たり前だ。ここで買えない武器はないぞ」

レディアナの声もいつもより興奮して聞こえる。

「それにしても人通りが多いわね。みんな同じほうへ向かっているみたいだし」

確かに人通りが単純に多いというよりは一か所に向かっているように見える。

「良く気付いたなルナ」

「あんたが気づかなすぎなのよ」

そう言われると返す言葉がない。

まあ何かがある様ではある。

「なあ今日は何かあるのか?」

通りがかりの男に声をかけてみた。

「何かって?何言ってんだよ今日は年に一度の儀式の日だぞ」

「儀式?なんのだ?」

「なんだお前よそ者か?何にも知らねえんだな。今日は剣王ザハル様に生贄と剣を納める日に決まってんだろ」

少し誇らしげに言う男の言葉に一瞬、空気が止まったような気がした。

「……は?」

自然と声が低くなる。

「生贄?剣を納める?何を言ってるんだ?ザハルだぞ!魔族じゃねえかよ」

男の表情が険しくなり俺たちを拒絶するような顔になる。

「おまえ、ザハル様に対して...ザハル様はなこの町を守ってくれてるんだ」

「守る...ね」

ルナが皮肉の混じった声で小さくつぶやいていた。

「魔族に守られる町......か」

レディアナが腕を組みまわりを見渡した。

確かにこの町には活気があり笑顔がある。

誰一人として、疑っていない。

確実にザハル信仰が根付いていた。

俺には到底理解不能な状況だったがこの町ではそれが”事実”。

祭りのような喧噪の中俺はしばらく言葉を失う。

「……ザハルが守ってるってどういう事だよ?」

俺の声には明らかに動揺と戸惑いが出ていた。

「本当に何も知らないんだな。この町は無資格の町だ。それでも俺たちが武器を作って、自由い生きていけるのはさ…」

男は誇るように胸を張った。

「ザハル様のおかげだからよ。今日はその感謝の為の儀式だ」

「…なるほどね。ザハルを恐れて、王国もこの町には手を出せない...そういう構図ね」

「そういう事だ。王国の資格制度なんか糞くらえだ」

言ってることはわかる。

それで資格制度の管理を逃れ自由に出来るなら...でも...それでも...。

「あんたさ、見たところ無資格だろ?」

男は俺を見ている。

「この町なら問題なく暮らせるぞ。ザハル様がいる限りな」

その言葉には優しさを感じた。

それでも...。

「悪い...無資格だけどさ...俺は魔族とは真逆の立場なんだ...勇者だからさ」

俺は自分の存在を再確認していた。

無資格だろうが何だろうがあくまで勇者そこだけは譲れない。

「勇者...ね」

そんな俺の言葉を男は鼻で笑い、軽く吐き捨てた。

「そんなもん無駄だね。今までだって勇者だって奴は何人もいたけどよ。誰も、誰一人も何にも出来てねえ。何にも出来ずに死んでいったよ。お前らもいい加減、勇者ごっこなんかしてさ、無駄に命を捨てることになるぞ」

男の言葉には希望のかけらもなかった。

ただ今まであった”事実”として語られていた。

「ここじゃ、勇者はすっかり悪役だな」

レディアナは苦笑しながら皮肉交じりの一言を放つ。

「…悪役でもいいさ」

そう悪役でもいい。

ただ俺の役割を、俺が思う平和を...俺はその為に動く。

「でもさ、生贄ってのが気に入らないね」

その言葉に町の空気がぴりつくのを感じた。

祭りの喧騒がやけに遠くに聞こえ...自分とは縁遠いもののように感じられた。

「守るためだろうが何だろうがさ...命を差し出すのが前提の守りなんてよ。間違ってるんだよ。俺は...ザハルを倒すよ」

「…そういうと思ったよ」

レディアナが小さく笑った。

「そうじゃないと、勇者の価値がないわよね」

ルナの口調は軽かったが、その目はすでに覚悟を決めた目をしていた。

この町で信じられている”守護”...そいつがいるその場所へ、俺たちだけが”敵”として歩きだしていた。


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