scene48 王子の嗅覚
.王城の回廊。
延々と続くアルフォンスの独演に少しうつろな気持ちになりかけた、その時。
「お前じゃ話にならん!」
俺の精神を現世に戻すかのようなレディアナの一喝。
「宰相代理を連れてこい!ルインはどこにいる!」
だが...レディアナの声は届いていないようだった。
何事もなかったかのように独演会が再開される。
「さあ、姉様、勇者という存在は...世界情勢において異質な存在で...」
レディアナが大きめのため息をつき、アルフォンスに詰め寄ったときアルフォンスの言葉が、ふいに止まる。
「…ところで」
声のトーンが変わった。
「無資格の”におい”がするのですが......気のせいですかね?」
におい...?
無資格の”におい”ってなんだよ...におってるのか?
って言うかバレたのか?
呼吸が浅くなり視線が泳いだ。
レディアナが即座に否定する。
「何を言う、そんな事あるわけがない」
「…ああ、そうですよね。姉様、勇者7号様...それと...そちらは…?」
アルフォンスの視線がゆっくりと俺に向いた。
沈黙、重たい空気...どう答えるべきか...。
ガチャリ…乾いた金属音が響いた。
気が付けば四方を監察兵に囲まれていた。
おいおい...気づかれてたってことかよ。
「どういう事だ?」
レディアナが低い声で問う。
アルフォンスの表情は変わらない。
穏やかな笑みのまま答える。
「それはこちらのセリフですよ」
その表情は変わらなかったが目の光だけが変わっていた。
「なぜ無資格と一緒にいるのですか?」
「問題なかろう。国王を殺したのはナザエル、こいつに罪はない」
「それでも無資格はいけませんよ」
その言葉にレディアナが剣を抜いた。
「あいにく資格には興味がないのでな」
「しかたがないわね」
ルナも剣を抜き監察兵をけん制する。
張り詰めた空気の中アルフォンスは一歩も動かなかった。
「二人とも...王国と事を構えるおつもりですか?私に剣を向けるとはそういう事ですよ」
アルフォンスの声は重く静かに俺に圧力をかけている。
「たとえ勇者、たとえ姫だとしても...タダでは済みませんよ」
ルナが薄く笑う。
「どうやら、私たちが来ることを知っていたみたいね」
「さて...なんのことですかね」
「知ってたかどうかはどうでもいい...そいつをどうするつもりだ?」
レディアナは俺を一瞥して低く問う。
アルフォンスは一瞬だけ考えるそぶりを見せてから答えた。
「さあ?僕にはわかりませんね」
「ふざけるな!」
レディアナの叫び声は一斉に俺に襲い掛かる兵士たちの雑踏でかき消されていく。
俺の反応が一瞬遅れる。
監察兵が魔力封鎖の鎖を俺にかけていく。
抵抗する間もなく、身体の自由を奪われていく。
「くそっ...」
力を込め鎖を引きちぎろうとする。
動かない。
魔法の鎖が身体をきつく締め付け身動きすることが出来ない。
「なんだこれは...」
「無資格用の拘束具ですよ。あっ勇者様おやめください。これ以上抵抗すると...”反逆”とみなされますよ」
アルフォンスは剣を抜いたルナの動きを静かな言葉で止めた。
絶対的権力の言葉。
ルナが舌打ちをし、レディアナはアルフォンスを睨みつける。
アルフォンスは一切、意に介さない。
俺は監察兵に引きずられ二人から遠ざかっていく。
しくじった。
完全に油断していた...ここまで王家が俺を敵視しているなんて...。
そのまま俺は暗い牢に投げ込まれた。
ガシャンと鉄の音が響き鍵がかかる。
俺はゆっくりと起き上がりため息をついた。
また...牢かよ...。
やっぱりここに来ると、ろくなことが無い。




