scene37 心当たり
監察兵が立ち去り張り詰めた空気が、わずかに和んだ。
「...まあ、一応、助かった」
腑に落ちてないのでぶっきらぼうに礼を言ってやった。
これが精いっぱいだ。
ルナは特に気にした様子もなく、俺の言葉を軽く流していた。
それはそれでちょっと腹が立つのだが...。
「でもよ」
苛立ちが声に表れていた。
「竜魔王を倒しに行くって言ってもさ。
俺が何かすると警報なりまくりだからよ。
竜魔王討伐どころじゃないんだよ」
そう、それは現実的な俺の一番の問題。
資格制度がある限り、竜魔王を倒す力があっても倒しに行くことが出来ない。
魔族だけじゃなくて人間も敵になる。
「だから資格取ればって言ってるだろ」
レディアナが即座に口をはさんだ。
あきらかに呆れたような口調だ。
「要らないって言ってるだろ」
そう、今更資格なんて取る気はない。
「でも、それは正論よね」
俺たち二人のやり取りを聞いていたルナが、静かに口を開いた。
「実際に、その通りだと思うわよ。資格さえ取れば問題ないんだから」
今更資格なんて取りたくない...でも反論の余地もなかった。
「でも、そこまで待ってはいられないわ」
ルナの視線が鋭くなっている。
「だったらお前が倒せばいいだろ。
それだけ強いんだからさ」
ほんの少し剣を合わせただけだが、その強さは十分伝わっていた。
「無理だったのよ」
ルナは首を横に振った。
「…は?その強さで?無理?」
おいおい、あの強さで無理ってなんだよ。
俺、強さだけで言ったら竜魔王まで瞬殺で行けるつもりだったんだけど...。
って言うか実際それぐらい強いはずなんだが...。
「その強さで倒せないって異常だぞ」
「強さの問題以前よ。竜魔王にたどり着くこともできなかったわ」
ルナは目を細める。
「あのとき、私は竜魔王軍十傑の一人ジャンガルと相対した...」
ルナの表情がわずかに曇った。
「攻撃が、まったく届かなかったのよ」
攻撃が届かない...その言葉に俺の思考がめぐり駆け巡る
「何かにかき消されるように...魔法が消えたのよ」
自分の手のひらを見ながら語るルナ。
思考の速度が上がりかき乱れていく。
「剣も届かなかったわ」
そして俺の脳裏にはある光景がよみがえっていた。
「その現象...資格制御装置と同じ現象だな」
断言するレディアナと視線が交錯する。
その判断に迷いはない。
ルナの赤い瞳が光る。
「やっぱり、何か心当たりがありそうね」
その光からは誰も逃げることが出来ない...そう錯覚させる程の強い瞳の光だった。




