Scene29 ティア
砦を出た俺は、そのまま王都に向かった。
目指す場所は、ただ一つ。
王城、宰相ナザエルがいるその場所。
王城に向かう途中、何度となく監察兵の襲撃を受ける。
剣を抜く兵、魔道具を構える者。
それでも俺は止まらない。
拳が唸り、蹴りが空気を切り裂く。
監察兵たちが地面に転がり倒れていく。
振り返ることはない。
ただひたすらに前に進む。
やがて広い街道で、監察兵の一団が道を塞いでいた。
完全武装した兵が整然と並ぶ隊列。
仕方がない...俺は拳を握り強行突破する体勢に入る。
その時、隊列が割れ、その奥に一人の女性が立っていた。
その顔、見間違えるはずがない。
「ティア!」
俺の声にティアは微動だにしない。
感情の無い目で俺を見る。
やがて静かに口を開く。
「資格制御装置すら抗う存在...危険因子ですね...」
淡々とした声が夜の闇に響く。
「危険…?」
俺が...?
意味が分からない。
俺は守っている。
人を...。
そんなものより...。
「資格制度のほうがよっぽど危険だ」
拳を握る。
「資格がないやつは、死ぬことも出来ない...そんな狂った世界...」
ティアがわずかに目を細める。
「あなたのように、無軌道に動き、暴走の可能性を秘めた存在よりは...マシ…資格がないあなたには理解できませんよね」
「資格、資格、資格、資格がそんなに大事かよ」
ティアは天を仰ぐ。
「資格制度は、人を導く道しるべです。
正しく人を高みへと導くことが出来ます」
「何が高みだ!人はもっと自由に生きれる。
資格がなくたって何だって出来るんだ」
「子供の戯言ですね」
少しだけ首を振る。
「これ以上の話し合いは無駄ですわね」
「そのようだな!」
俺は一気に距離を詰め、ティアに拳を叩きつける。
なんの感触もない。
ティアの顔面を貫くはずのその拳は、ティアを通り抜けていた。
まるでそこに存在していないかのようだった。
「無駄よ」
「くそっ無資格制御か!?」
「残念、不正解ですわ...これだから無資格は...」
「無資格をバカにするな!」
再び拳を叩き込む。
ティアが右手を前に出したその瞬間!
「ぐわっ!」
体に衝撃が走り吹き飛ばされた。
「あなたが私に触れることは永遠にありません。
”存在”の概念が違いすぎます」
ティアが手を上げる。
「さようなら」
その一言と同時に監察兵たちが一斉に動く。
四方八方を囲まれ剣や槍が襲い掛かってくる。
結局こうなるのかよ。
一人、二人、三人...拳が監察兵を吹き飛ばしていく。
資格制御装置の光が見えた。
問題はない。
落ち着いて目を凝らす。
体をひねり、踏み込み、叩き伏せた。
数十秒後その場に立っているのは俺だけになっていた。
ゆっくりと顔を上げ、ティアがいた場所を見る。
そこにはもう誰もいない。
夜の静けさだけが残っていた。
「逃げたのか...?」
まあ、今は王城へ向かうのが先だ。
俺は再び歩き出した。




