Scene26 無資格の世界
固い感触。
重たいまぶたをゆっくりと開ける。
天井の木材が視界に入る。
俺は大きく息を吸い、起き上がろうとする。
身体が鉛のように重く、思った通りに動けない。
ベッドが軋み嫌な音を立てる。
その時、部屋の扉がかすかに動き小さな隙間から、少女が俺を見ている。
栗色の髪、大きな瞳が俺を観察していた。
目が合った瞬間ーー
ぱたん。
扉が閉まり足音が遠ざかっていく。
なんだあれは...?
ふらつく身体を抑え、ゆっくりとベッドから立ち上がる。
そのまま外に出ると、空気が冷たい。
木造の小さな家の前の広場に、一人の老人が立っている。
その背中にはさっきの少女が隠れていた。
「起きたか...無資格の」
その言葉に心臓が凍りつき身体の動きが止まる。
こいつは...。
「そう怖い顔をするな。この子が逃げてしまうよ」
そう言いながら老人は手を振った。
「安心しろ。わしも無資格だ」
老人は周囲の山を見渡しながら
「こんなところまで資格の監視は届かんよ」
一気に力が抜け、足元が急にふらつく。
「無理をしないほうがいい、おまえさん十日も気を失ってたんじゃ
あんまり動かんほうが良いぞ」
「十日も...」
自分の手のひらを見つめ...握る。
動く...。
「ここは...?」
老人はゆっくりと動きながら答える。
「人里離れた山荘じゃよ。何もない場所だ
この子、セイラ以外の人間い会うのも数年ぶりだ
人がいないからの資格もへったくれもない」
そう言いながら小さく笑う老人の首元を見るとそこには刻印がなかった。
資格の刻印...老人の視線に気づき刻印から目線をそらした。
「気にせんでいい。
わしもこの子も、この通り資格がないんでな」
老人は少女の頭をなでる。
「こんなところにしか住めんのじゃ
この子の両親も城でゾンビ化して保存されたままだしな」
ここでも資格...結局資格に縛られ苦しめられている。
ドス黒い感情が俺を埋め尽くしていく。
老人は首を振る。
「おまえさんか、気にすることじゃない。
食うには困らんし楽しくやっとる
この子との何気ない生活それがあるだけで、わしは幸せじゃよ」
老人の言葉に俺は何も返せなかった。




